幻惑書架

らぴ

エピソード0:物語の修繕者

「ねぇ、あなたなら世界を変えられるかしら?」


グレンツェルト大聖堂図書館に佇む2つの影は、お互いの眼を真剣な眼差しで覗きこみあっていた。狼のような金色に煌めく瞳を持つ、その白髪の少年は自信満々そうに答えてみせる。


「あぁ、世界を変えることくらい、いまのボクからしたら朝飯前さ」


「では、そろそろ転送を開始しましょうか。健闘をお祈りしていますよ?」


彼女は、丁寧な言葉を並べ終わったかと思うと、辞書とも思える分厚い本を大きく開いてみせた。古びた表紙が緑色だったせいか、苔が生えているようにもみえなくはない。


ボクは司書である彼女に言われた通り、定位置についた。制服を少しばかり整えてみせると、次の合図がくるまでの間、ボクはのどが渇いたような感じを覚える。


「Supn ti. Hte neding ohte obok si rdawn alas si rdawn」


詠唱術式が空中に金色の文字を浮かばせながら紡がれていく。まるで、文字で出来たボールの中に閉じ込められたようなそんな感覚だった。


さて、覚悟はできた。そうだ。ここからすべてが始まる。はじめなくてはならないのだ。果てることがなく希望が潰えてしまった物語たちを供養するための物語を――。



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幻惑書架 らぴ @rapitaso

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