第43話 第三層の先
ヘルメスの大迷宮、第三層は依然として強力な魔物が跋扈している危険な場所だ。だがしかし、シズルたちは無傷なまま、リッチキングと戦った広間まで辿り着く。
それもこれも、すべてはエイルたちが先陣を切って戦い続け、シズルたちの力を温存し続けたからだ。
A級冒険者として戦い続けてきた彼らをして、このダンジョンは危険極まりないものだ。下手をすれば、ここで己の冒険者生命を失ってしまうかもしれない。
それでもシズルたちの道を切り開くため、彼らは戦った。その結果、この広間に辿り着いたときには、満身創痍の状態だ。
「……すみませんシズル様。やはり我らの力では、ここまでのようです」
「謝らないでよ。みんなが戦ってくれたからこそ、俺たちは無傷で辿り着けたんだから」
「とりあえず、ここなら魔物たちも来ねぇし、しばらく休んでな」
シズルとホムラの言葉に、申し訳なさそうに頷く一行。ここから先は、シズルたちだけで進むことになる。
リッチキングがいた場所の奥には、第四層に降りる階段があった。この第三層ですら、A級冒険者たちの神経をすり減らすほど強力な魔物がいたというのに、この先はどうなっているのか、シズルでさえ緊張をしてしまう。
「シズル、ホムラ……覚悟はいいな」
「うん」
「ああ」
ローザリンデを先頭に、ホムラ、そしてシズルの順番に進む。その後ろにはイリスと彼女を守るように歩くアポロ。
たった五人。もともと攻略をしようとしていた冒険者たちは脱落し、半分の人数になった。
階段を降りきると、真っすぐ伸びた通路。これまでとはだいぶ雰囲気が異なり、地面は舗装されてずいぶんと人工的な道となっている。
『シズル……この道は、ただ真っすぐ続いているだけだよ』
「うん……魔物も、いないね」
これまでイリスの風魔術でマッピングを行い、そしてシズルの雷魔術で魔物を『雷探査サーチ』してきた。それだけでそのダンジョンのほぼ全てを網羅できる状況だったため、スムーズに来れたのだ。
だからこそ、逆に困惑してしまう。これまでのダンジョンらしいダンジョンと異なり、明らかに人の手の入ったこの道が、罠なのではないかと疑ってしまうのだ。
「考えても仕方ねぇだろ。どうせ進む以外に道はねえんだ」
「……ホムラと同じ考えなのは遺憾だが、とはいえそれも事実。罠には気を付けて、とりあえず進もう」
先頭を歩く二人は、対照的だ。ホムラは罠など食い破る気概で前に進み、ローザリンデが周囲を警戒している。
もちろんシズルとイリスも魔術を展開しながら、別の道などがないかを探してはいるが、結果的に見つかることはなく、ずっと歩き続けていた。
そして、どれほど歩いたかわからないくらい時間が経つ。まるで無限に続く回廊のようで、少しだけ怖くなるが、それもゴールが見えてきた。
「やっとかよ。ったく、ここ作った奴はぜってぇ性格悪いぜ」
「そう言うなホムラ。魔物が出てこないだけマシだ」
そう言う軽口を叩く二人だが、シズルは全面的にホムラに同意見だった。なにせ、これだけ長い間警戒だけさせておいて、その結果一切なにも出てこないなど、嫌がらせ以外にないだろう。
「とはいえ、ようやくゴールっぽいね」
見れば、これまでとは違う豪奢な作りの扉がそこにあった。まるで王宮にある謁見の間のような雰囲気がある。さすがにこの先になにもない、などということはないだろう。
「行きましょう兄上、ローザリンデ」
「おう」
「ああ」
二人が扉を開けて中に入る。そしてシズルやイリスたちも続くように中に入った。
「……俺、この迷宮作ったやつ大っ嫌いだ」
「同感ですね兄上。俺も今この瞬間、大嫌いになりました」
扉を開けた先、そこには超巨大な螺旋階段があった。その形のせいで、いったいどこまで続いているのかまったく全容が見えない。ただ言えることは、普通、ここでゴールだと誰もが思うことだろう。
「……はあ、ここで足を止めるわけにはいきませんからね、行きましょう」
はっきり言って、このまま帰りたい気分である。もっとも、またあのなにもない真っすぐなだけの道を帰ることも、気分的には億劫なわけだが。
シズルたちは一歩一歩階段を上がる。階段自体には親切に手すりがついているのだが、そんなものを付けるくらいならこんな階段を作るなという話だ。
第一層から第二層、そして第三層に辿り着くまでにかなりの段数を降りてきたはずだ。とはいえ、地上までの距離を考えれば、そこまで極端に上るという話でもないはず。
そう思っていたのは、最初だけ。
「おかしい……」
『うん……』
最初にそれに気づいたのはローザリンデ、そして次にイリスだ。
「明らかに降りてきた段数を超えている。だというのに、まるで次のフロアに辿り着くことがないなど、あり得ない」
『それに、さっきから魔術で一番上までの距離を測ってるんだけど、全然届かないの』
その言葉に、シズルたちもはっとする。
「……もしかして、なにか罠にかかった?」
「この迷宮作った奴、タチ悪すぎんだろ……」
げんなりとした様子を見せるホムラだが、シズルとしてはいつの間に、という気持ちだ。これでも周囲はかなり警戒をしていた。だというのに、いつの間にか罠にはまってしまっていたのだ。
「……どうしよう」
「このままひたすら上を目指す、というのも一つの手だが……」
ローザリンデが悩ましい、という雰囲気で声に出す。
たしかに、それは一つの手だ。だがしかし、それで無限にゴールに辿り着かないまま体力を削られ続けるのも悪手な気がする。
「あと三十分、それだけ上を目指そう。それで駄目なら、一度止まってどうするか考えよう」
シズルの言葉に、他のメンバーは異論がないようで頷くのであった。
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