第39話 錬金術師ヘルメスの最高傑作
リッチキングによって甦らされた巨大ゴーレムはエイルたちが、そしてヒュドラはホムラたちが抑えにかかる。
正直言って、状況はあまり芳しいとは言えないだろう。エイルたちは達人と言ってもいい猛者だが、あのゴーレムの強さはその大きさ、重さ、頑丈さ、そういったシンプルな強さだ。
そしてああいう手合いを倒すためには、純粋な『力』が必要になる。
グレイオスたちもかなりのパワーを持っているが、それでもあれだけのゴーレムが相手では分が悪い。
「兄上たちがヒュドラを倒してくれれば……」
先陣を切ってヒュドラに襲い掛かるホムラだが、中々近づくことが出来ないでいた。ヒュドラは普通に戦えば無限の再生をする。倒すには、ホムラがスザクを全開で開放出来れば勝機もあるが、そもそもその隙を作ることが中々出来ないでいた。
ローザリンデのフォローが入ってなお、敵は九つの首のある化物。そんな敵を前に、やはり自分も戦った方がいいのではと思い、前に出掛けて、服の裾を引っ張られる。
「ぅー……」
「アポロ……」
見れば、アポロが首を横に振りながらシズルを止めていた。
『駄目だよシズル。シズルはみんなを信じて、道が開けるのを待たないと』
「イリス。でも……」
『リッチキングはきっと、シズル以外には倒せない。それも、万全の状態じゃないと。だから……ね』
この戦いが始まった時、ホムラたちに言われていた。巨大ゴーレムとヒュドラを抑えたあと、お前がリッチキングを倒せと。
巨大な魔物の後ろでふんぞり返ってニヤニヤしているあの化物は、並みの魔物ではない。それこそ、フォルセティア大森林で戦ったフェンリルに匹敵するだろう。
今はまだこちらを舐めて遊んでいるのか前に出てくる気配はないが、もしリッチキングが出てきたら魔術的な耐性が低いエイルたちは危険だ。
「わかった……みんなを信じるよ」
『うん。大丈夫、ロザリーたちは強いもん。それに――』
「ぅー!」
『うん、アポロも頑張ってくれるんだよね」
「アポロが?」
アポロの頑丈さは良く知っている。なにせB級冒険者の攻撃は一切通じず、そしてシズルとホムラの二人分の全力でも止められないパワーもある。
だがしかし、それでもやはり危険ではないだろうか。本人の意向とヘルメスの大迷宮での攻略の鍵になる可能性があるからと、連れてきているがそれでも戦闘に関しては素人のはず。
だが――。
「ぅー!」
大丈夫、と言う風に両手を上げて気合を入れたアポロは、そのまま巨大ゴーレムに向かって走り出した。そしてゴーレム相手に苦戦していたエイルとグレイオスたちを横切り、そのまま突撃していく。
「アポロ殿⁉」
「おいガキ! 危ねぇぞ⁉ 逃げろ!」
そんなエイルたちの悲鳴も空しく、巨大ゴーレムは向かってくる小さな敵を潰さんと拳を振り下ろした。
「アポロ⁉」
シズルが声を上げる。他の者も同様だ。
『……大丈夫』
誰もがアポロが潰される未来を見るなか、ただ一人イリスだけが冷静だった。
『だってアポロは、錬金術師ヘルメスの最高傑作だもんね』
巨大ゴーレムの拳にぶつけるように、アポロが拳を突き出した。そして、ゴーレムとぶつかり合うと、そのまま凄まじい破壊音と共にゴーレムの腕が粉砕される。
「「なぁ⁉」」
一番近くで見ていたエイルとグレイオスたちが驚きの声を上げる中、アポロは止まらない。
「うー!」
いつもより気合の入ったその声と共に前に進むと、そのままゴーレムに向かってさらに攻撃を加える。その一撃一撃が放たれる度に轟音が広間に響き、巨大な身体をしているゴーレムの身体が欠けていった。
「つ、強ぇ……」
「アポロ殿……貴方はいったい……?」
そんな二人の驚きを気にせず、足を粉砕されて倒れるゴーレムに向かってアポロは駆け出すと、その心臓部に守られているコアを目掛けて拳を振り下ろした。
凄まじい破壊音。同時に、コアを完全に破壊された巨大ゴーレムはその機能を停止して動きを止める。
「うー!」
勝利の雄叫びを上げるアポロ。そのあまりに一方的な戦闘に、誰もが唖然とこの小さな少年を見ていた。
そしてアポロはそのままヒュドラに襲い掛かった。
『グオォォォ!』
迎え撃つようにヒュドラは咆哮を上げて、ブレスを放った。
ヒュドラはその首ごとに特性がある。神代で暴れていた成体のヒュドラは首が百あり、その圧倒的な力で神々を喰らったというが、このヒュドラはまだ幼体。
成体に比べて九つしかないと言えば可愛く聞こえるかもしれないが、それぞれが炎や氷、風や毒といった特性を持つ化物である。
しかも九つの首をすべて破壊しなければ、無限に再生するというおまけつき。たとえA級冒険者であるエイルたちであっても、準備なしで戦える相手ではない。
「うー!」
だというのに、アポロはそのまま素手でヒュドラに向かって行く。
その炎はすべてを溶かす業火、その氷はあらゆる時を止める絶対零度。それらのブレスを前に、アポロは怯むことなくそのまま駆け抜ける。
「おいおい……あいつブレスに突っ込んでやがる」
「なんだというのだ、あれは」
それまでヒュドラを相手取っていたホムラたちも、それを見て驚愕せざるを得ない。なにせ、魔術で強化されている自分たちでさえ、あのブレスの直撃を受ければ致命傷になるのだ。
だがアポロは――。
「ぅぅうー‼」
ブレスをそのまま突っ切り、一気にヒュドラに殴りかかる。最初の一匹を倒したと思ったら、そのまま次の首を狙う。その姿は決して武術などに精通している綺麗な形ではないが、しかし巨大なヒュドラを翻弄し復活するより前に叩き潰していく。
とはいえ、さすがに首は九つ。いくらアポロが暴れても、三つか四つの首を叩き潰したあたりで最初の首が復活してしまう。
「へ、アポロばっかりに良い格好させるわけにはいかねぇな!」
「ああ! 我らも行くぞ!」
すでに巨大ゴーレムはいない。そしてヒュドラの首はアポロに脅威を感じて、そちらにしか目が行っていなかった。
それがチャンスだというように、ホムラたちが一気にヒュドラに襲い掛かる。
九つしかない首。そしてホムラ、ローザリンデ、アポロ、エイル、グレイオスたち『破砕』のメンバー、シノビの二人で十の首を相手に出来る計算だ。
「うー!」
「っしゃぁ! 行くぜー!」
そして、ヒュドラは復活するための首をすべて叩きのめされ、断末魔を上げながらその身を崩していく。
『グオオオオオ……』
その様子を驚いて見ていたリッチキングが立ち上がる。そして自分の邪魔をするホムラたちを始末しようと杖を握ったその瞬間――。
「もう、お前を守るやつはいないね!」
『っ――⁉」
アポロたちが一斉にヒュドラへ襲い掛かるのと同時に、シズルは駆け出していた。その目にも止まらない雷のような速度に反応出来なかったリッチキングに対して、シズルはその顔面に向かって掌を突き出す。
そして――。
「そのにやけた顔を、吹き飛ばす……『
全員が時間を稼いでいる間に溜めた強力な魔力を、一気に爆発させた。
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