第27話 A級冒険者
ローザリンデ曰く、神速のエイルといえば、アストライア王国の王都で活動しているA級冒険者であり、若手冒険者の中でも最優とまで謳われているらしい。
冒険者にしては珍しいソロ活動を行っている男で、主には魔物の討伐を請け負い、単独でA級に相当するドラゴンも退治したことがあるという。
噂ではとある大貴族のお抱えになっており、そのため王都から長い期間離れられないという話であるが――。
「初めまして、フォルブレイズ様。私はエイル。王都では神槍、なんて二つ名で呼ばれる冒険者です」
他の冒険者にある程度の説明を終えたシズルたちに、エイルは近づいてきて自己紹介をしてきた。
若手の冒険者では最優とまで謳われるだけあり、シズルから見ても他の冒険者とは頭一つ抜けているようにも感じた。
「初めまして。ここにいる俺はただのD級冒険者だから、敬語は不要だよ」
「ふっ、貴方がD級は詐欺のようなものですね。ああ、言葉はお気にせず。私は誰に対してもこういった言葉遣いなので」
「そう? そっちが楽ならそれでいいけど。ただフォルブレイズっていうともう一人いるから、シズルって呼んでもらった方が反応しやすいかな」
「かしこまりました。それではシズル様と」
しかし冒険者同士の暗黙の了解で、基本的には敬語というのは使わないという話だが、若手で最も優秀な冒険者と言われる彼がそれを破るのは、どうなのだろうかと思う。
とはいえ、そんな反感をすべて抑え込んでなお、最優と呼ばれるだけの実力を示しているのかもしれない。
そうであれば、シズルがら言えることはなにもなかった。
「エイル。お前は王都からあまり離れられないのではなかったのではないのか?」
「ああ、ローザリンデも久しぶりですね。今回は偶然近くまで他の依頼でやってきていまして……そしたら丁度依頼を達成したところでヘルメスの大迷宮の話を聞いて、やって来たのですよ」
ローザリンデは美男美女が集まるエルフだけあり美しい。そしてそんな彼女の前に立ってなお、目の前の男はひけを取らない美しい容貌をしていた。
「さてさて、このヘルメスの大迷宮。とても愉快なことになっているそうですね?」
「まあ、聞いての通りだよ。いちおう俺たちが先陣きって中を探索して第一層は攻略を終えてるけど、残念ながら並みの冒険者だとまともに進める状態じゃないね」
シズルがそう言うと、エイルは嬉しそうに笑う。
「そうですか……実は王都での依頼にはいい加減飽きてきたところだったので、少し楽しみですね」
「へぇ……エイルはダンジョンが怖くないの?」
「怖いですよ。ですが、それ以上にワクワクします。シズル様もそうじゃないんですか?」
心底そう思っているように答えるエイルに、シズルは面白いと思った。
ダンジョンは冒険者にとってロマンだ。だからこそ危険を冒してでも潜るし、そこで手に入れた金銀財宝を持って立身出世することを夢見る場所でもある。
その道は、大多数の屍を積み上げた物だと分かってなお、止められないものなのだ。
「さて、いちおう必要な情報は得られまし、シズル様に挨拶も出来たので私はこれで……」
「うん、頑張ってね」
「ええ、お互いに」
颯爽と去っていくエイルの後ろ姿を、他の冒険者たちも見ている。
彼らも相当な実力者ではあるが、やはりあの男に比べると一段見劣りしてしまうものだ。
そう思っていると、隣に立っていたローザリンデが難しい顔で言葉を発する。
「……エイルは、実力的にはS級になってもおかしくないのだが、本人曰く実績が足りないらしい」
「なるほどね。S級っていったら、それこそ英雄級の活躍をしないといけないだろうし」
「ああ。単独でドラゴンを倒せる者もほとんどいないが……その程度ではダメということだろう」
シズルが見たところ、エイルの実力は本気の時のローザリンデに匹敵していた。A級上位に立つだけの資格はあると思う。
ただ、S級冒険者というのは強いだけではダメなのだ。父であるグレンも元々はS級冒険者だったが、そこに至るまでの道のりは一つの英雄譚。
城塞都市ガリアにいるもう一人のS級も、まるで物語のような功績を残しており、きっとそれは他も同じだろう。
もしかしたら、エイルはそんな歴史に名を残すような功績を求めて、この城塞都市マテリアまでやって来たのかもしれない。
「実際、戦ったことはあるの?」
「ないが、イリスのサポートなしでは恐らく負けるだろうな。単純な実力も、そして槍という一点で見た場合の技量においても」
「そっか……それは強いね」
たとえば、シズルがローザリンデと槍だけで勝負をすれば、彼女の相手にはならないだろう。
それが剣を使ったとしても、斧を使ったとしても同じだ。単純に、戦士としての『技量』においてシズルはローザリンデやホムラに追い付いていない。
だがしかし、戦いは技量だけではない。
シズルが『
シズルの強さの根幹は、そこにあった。
それに対して先ほどのエイルという男は、まるで技術を極めに極めたような男だ。
立ち振る舞い一つでその強さがわかるのは、彼の人生のほとんどを修練に打ち込んできた証だろう。
そしてそんな彼でさえ、S級冒険者にはなれていない。
「まったく、世の中広いね。まだここ、フォルブレイズ領なのに凄い人がいっぱいいるもんだ」
そんな広い世界を、もっと見て回りたいとより強く思う。
最強、その称号を手に入れるために転生したことを、久しぶりに強く思う日であった。
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