第26話 招集

 ヘルメスの大迷宮が危険と判断され、ギルドによってA級以上の冒険者がいるパーティー以外は立ち入り禁止になってから一週間。


 ギルドに呼ばれたシズルたちは、マールを除いて全員でやってくると、これまで見覚えのない冒険者たちが集まっていた。


 おそら以前からくギルドが招集していたA級冒険者たちがやってきたのだろう。ギルド内は今までにない緊張感が漂っている。


「へぇ……中々やりそうなやつらがいるじゃねえか」

「兄上、いちおう言っておきますけど、喧嘩は売らないでくださいね」

「わかってるって」


 そのわかってるという言葉が今まで本当にわかっていたことはほとんどないことを、シズルは知っていた。


 なにせこの城塞都市マテリアにやってきてからでもすでに二回、この兄は冒険者たちといざこざを起こしているのだ。


 二度あることは三度ある、そう思って見ていると、ホムラは納得のいかない表情をしていた。


「んだよ、お前だって他のやつ叩きのめしてたじゃねえか」

「あれはをやったのはアポロです」

「ぅー!」


 自慢げに両手を上げるアポロを誉めるように、イリスが頭を撫でていて、その姿に少し癒される。


 とはいえ、周りにいるのは百戦錬磨の冒険者たち。彼らの視線は一様に鋭い。


「……あれが、フォルブレイズ兄弟か」

「貴族のくせにふざけてるくらい強いって噂は、本当だったらしい」

「てっきり貴族が拍付けのために流したデマかと思ってたが……あれは噂以上だぜ」


 周囲の冒険者たちから、そんな声がひそひそと聞こえてくる。伊達にA級冒険者を名乗ってるわけではないらしく、こちらの実力に懐疑を抱く者は一人もいないらしい。


「……うーん」

「どうしたシズル?」

「いえ、なんでもありません」


 なんとか兄弟とか言われて噂されると、どうしてもシズル的にはかませ犬的な雰囲気が出てしまって、あまり嬉しくない、と言っても伝わらないだろう。


 漫画にしても小説にしても、だいたい大会などで強者扱いされる兄弟は主人公や、いきなり出てきた無名の強者に負ける運命なのだ。


「しかも極悪兄弟とか、そのまんまだし」

「ぅー?」


 心の安寧を図るために、近くにいたアポロの頭をくしゃくしゃ撫でる。


 なに? と首を傾げる彼に、なんでもないよと笑いかける。


「よくぞ集まってくださいました皆さん!」


 声のする方を見れば、この城塞都市マテリアの冒険者ギルドを統括するギルドマスターが、嬉しそうな表情をしていた。


 どうやらこれから状況の説明に入るらしい。


 B級冒険者のパーティーが壊滅したこと。強力な魔物たちが集まっているダンジョンであること。


 そしてヘルメスの遺産とも言えるゴーレムたちが跋扈し、さらにトラップのように無限に湧き出る部屋のこと。


 とはいえ、自分たちが流した情報である以上のものは、当然ながら出てこない。


 それゆえに周囲を伺うと、情報が命だと知っているからか、ダンジョンの危険さゆえか、それらを聞く冒険者たちの表情は、みな真剣だ。


「……さすがはA級。今までの冒険者たちとは全然違う」


 パッと見た立ち振る舞いだけを見ても、相当な実力者たちが集まっているが、そこに慢心や油断は見受けられない。


 やはりA級ともなると、これまで超えてきた死線が違うらしい。


 そうしてギルド長の話が終わったとは、冒険者たちによる質問タイムだ。


 まだ彼らはこの街にやってきて間もないせいもあり、情報が不足している。そんな中、ギルド職員はそれぞれが情報の担当を持ち、必死に説明をしていた。


「あ、シズル様! 少しよろしいでしょうか⁉」

「うん?」


 見れば、青い髪を腰まで伸ばしたギルド職員、セリアがこちらに気付いてやってくる。


「この中で唯一、ダンジョンの奥まで進んでいる皆さんに色々とお話をして頂きたいと思うのですが」

「えぇ……」


 その言葉に思わず顔をしかめてしまう。


 というのも、すでに自分たちが持っている情報はギルドに渡している。そして先ほどの説明で、一通りのことは説明されていたはずだ。


 今から自分たちに言えることはないもないと思うのだが、どうやら実際に体験している者の説明は説得力があるのだと、押し切られてしまう。


 仕方がないと思い、ホムラの方を見ると、早々にこの場から脱出している。どうやら説明をする側に回るのは面倒だと判断したらしい。


「……ずるい」


 仕方がないと思いローザリンデを見ると、彼女は仕方がないと大きくため息を吐いた。


「とりあえずホムラは後でお仕置きをするとして、我々でなんとかするか」

「そうですね」


 さすがに言葉を話せないアポロやイリスを全面に押し出すわけにはいかず、困ったように前に立った。


 周囲を見渡すと、それぞれが相当な実力者だと改めて理解する。とはいえ、A級の中でも最上位に位置するローザリンデほどの者は早々いなさそうだとも思う。


「……いや」


 一人、背中に細い槍を背負っている男性。長い金髪に甘いマスク、そして白く細目の法衣のような服装をしたその青年を見て、シズルは感心する。


 パッと見た雰囲気だが、十人ほどいるA級冒険者の中でも彼は別格だ。おそらくローザリンデと同等クラスの実力を持っているようにも見える。


「あれは……」

「知ってるのローザリンデ?」

「ああ。王都で冒険者をやっていた時に見た覚えがある。確か名前は……エイル・クラッカート」


 ローザリンデがその名を呟くと、エイルと呼ばれた青年はこちらに気付いて微笑んだ。


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