第18話 雷の城

 森の中で魔物を狩っていたはずが、気が付けばどこか見知らぬ城の中にいた。


「俺は森にいたはずなのに……どうなってるんだ?」


 城内の雰囲気は荘厳の一言。神聖な雰囲気の中にどこか恐ろしさもあり、知らず知らずのうちに力が入ってしまう。

 

 天井を見上げるとまるで神話の戦いのような絵が描かれていた。六人の神のような存在が、巨大な龍や魔獣などと戦っている絵だ。何故か目を離せなくなり、しばらく見上げていたがふと我に返る。


「え……?」


 少し周りを見渡すと、大きなステンドグラスの他に大きな窓がいくつか並んでいて外が見えた。しかしそこには明らかに魔の森とは違う暗い世界が広がっていて、慌てて窓に近づく。


 見ると周囲は岩山で囲まれており、この城がどこか崖の上に建てられているのがわかる。


 外は黒雲に覆われ、絶え間なく激しい雷雨が飛び交う荒れ模様。しかし少なくともこの日、フォルブレイズ領は快晴だった。落雷どころか、雨すら降る気配はなかったはずだ。


「なんだここは? 俺は……どこに飛ばされた?」

 

 シズルは森での最後の記憶を思い出す。

 

 ワイルドドッグの群れを殲滅したあと、さらなる獲物を求めて森の奥へと進んでいると、不思議な鏡が浮かんでいた。


 異常の元凶だろうと判断したシズルは遠くから攻撃を仕掛けてみたが、いくらやってもすり抜けるだけ。しかも反撃も何もなし。


 近づいてみても無反応だったため触れてみた瞬間、シズルは見知らぬ建物の中へと飛ばされたのである。


「っ! そうだ鏡!」


 この状況を作り上げた物を思い出し、慌てて周囲を探してみるも、王宮か大貴族の館にしかないような巨大なエントランスホールが威風を放つだけであり、鏡らしきものは存在しなかった。


 中央に存在する巨大な階段は誘っているようにも見える。一応反対側にも扉があるのだが、押してみてもびくともしない。


 もはや道は一つしかなかった。


「……やっちゃったなぁ」


 明らかに魔術的な何かによって連れてこられたのだが、シズルがこれまで学んできた中に転移魔術などというものはなかった。


 もしかしたら王都の大図書館や神聖教団、それか魔術学園などで調べれば見つかるかもしれないが、だからと言ってそう簡単に出来る代物ではないだろう。


 こうなれば、やれる事は一つしかない。シズルは真っ直ぐ先を見据えると、赤い絨毯で覆われた階段をゆっくり昇っていく。


「さてと、鬼が出るか蛇が出るか……まあそれくらいなら可愛いんだけど」


 階段を登り切った先には、大きな扉があった。その中から漏れ出る圧倒的な魔力は、たとえ魔術を使わなくてもはっきりとわかる。


「これ、ほんとヤバイかも」


 ふと己の手を見ると、緊張で汗ばみ震えていた。


 この世界にやってきて、シズルが恐れを抱いたのは三度だけだ。


 一度は生まれたときに襲われた災厄の龍。そして、つい最近のルキナの影に潜む『何か』。


 そして、ここから感じるプレッシャーはそれらに匹敵するほど強大だ。


 災厄の龍の時は自分の力なのかさえ分からないまま終わった。ルキナの近くにいる『何か』はこちらが息を潜めて身を隠した。


 しかしこの先にいる存在からは逃げられない。わかるのだ、すでに自分は相手に捕捉されており、この扉の奥に入る事を待たれているだけであることを。


「行くしかない……か」


 シズルは覚悟を決める。これまで生まれた時から鍛錬をしてきたのは、こういった場面でも勝てるだけの強さを手に入れるためなのだ。


 冥界への入口にさえ思える巨大な扉に手をかけ、シズルはゆっくりとその先へと歩いていくのであった。

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