第10話 ~アクトレスと諸刃の拳銃~
コーディンは、アムと名乗るリバース獣”スタクレア”から人類の存亡をかけた2対2の決闘を申し込まれる。
新武器を引っ提げたコーディンがパートナーに指名したのは、不安因子とみなされているトランスだった。
「約束通り、二人で来たぞ!」
「約束ヲ守ッタ事ニハ礼ヲ言オウ」
「ダガ悲シイカナ、結局人類ガ滅ビルトイウ結末ハ変ワラナイガネ」
アムと一緒にいるもう一匹のスタクレアが荒々しい口調で挑発した。
「自己紹介ガ遅レタナ。俺ノ名ハイーヴァ」
「成程、そちらも二人いるというわけだな」
「戦えるか、トランス」
「えっ……はっ、はい……!」
トランスと呼ばれた女性は、弱々しく返事をした。
本部に残された戦造人間達の間にも緊張が走っていた。
「あのトランスという女は何者なんだ?いったい何故奴が代表に選ばれたというんだ」
「隊長さんには何か考えがあるんだろうよ」
ゾルとヤコブの会話を尻に、ノギは窓の外に目をやった。
(頼んだぞ……コーディン。そしてトランス……)
「シャアッッ!」
アムの尻尾が地面を鳴らすと同時に、イーヴァがコーディン目掛けて飛び出した。
「来るか……」
コーディンは身を引いてそれをかわし、地割れに手を突っ込んで中からフラクチュアを取り出すと同時に空中へ飛び上がる。
「ずあああああああああああああああああああああっ!」
「ウウッ!」
がら空きになったイーヴァの背中に落下の勢いと共に打撃を加える。
更に着地してすぐ足払いで前足を崩し、顔面にフラクチュアを叩きこむ。
吹き飛んだイーヴァに追い打ちをかけようとするコーディン。
しかし、アムが横から現れ、コーディンの行く手を塞いだ。
「私ガイルコトヲ忘レルナヨ」
アムの後ろ足による強烈な蹴りを、コーディンはただ受け止めることしか出来なかった。
「ならばこれはどうだ!」
コーディンはありったけの力を込めてフラクチュアを振り下ろした。
しかし、その一太刀はアムの尻尾によって掴まれ、ピクリとも動かなくなってしまった。
「何……ッ!?」
「白羽取リィ……!オ前ノ動キノパターンハ既ニ見切ッタ……フラクチュアハ最早通用センゾ!!」
(成長のスピードが想像以上に速い……!)こうなれば、こいつを使うしかない……!」
「ホラホラドウシタァ?オ前ソレデモ戦造人間カヨ!」
「ううぅっ……!」
いつの間にかイーヴァの尻尾がトランスの首に巻きついていた。
今にも首の骨が折れてしまいそうだ。
「トランス……ぐおおっ!」
「自分ノ心配ヲスルベキダロウ?」
コーディンは岩壁に叩きつけられた。
両手でフラクチュアを抑えてはいるが、押し負けないよう堪えているだけで精一杯だ。
「……トランスッ!あの技を使えッッッッッッッ!」
「隊……長……!」
「今、人類の未来は俺達二人にかかっているんだ!だがこのままでは全滅しちまうぞッ!!」
「私には……もう何も……」
「いいや違うねッ!お前は既に持っている!この状況を打破する確固たる希望の種を!!」
「イーヤ駄目ダネ!オ前ハ直ニ息絶エルノダカラナァ!血反吐ブチマケナァ!」
イーヴァは無慈悲にも力を強める。
しかし次の瞬間、予想外なことが起こった。
「……おぉおおおおおおおおっ!」
「グヌッ!?馬鹿ナ!?」
トランスが恐るべき力でイーヴァの尻尾を振りほどいたのだ。
「このまま死ぬくらいなら……私のこの技、使わせてもらうぜっ!」
「!?」
イーヴァは目を疑った。
目の前に立っている女性が、先ほどまで自分と戦っていた相手と同一人物には見えなかったのだ。
目は吊り上がり、自信ありげな笑みを浮かべている。
口調も心なしか男性に近いものとなっている。
そこには最初の弱気な印象は微塵も見受けられなかった。
「はぁっ!」
「グァッ!?」
一撃でイーヴァを吹き飛ばし、すぐさまアム目掛けて突撃した。
「コノ女、先程トハマルデ別人!?一体ドウイウワケダ!!」
「やかましいっ!」
アムの尻尾を掴み、砲丸投げのように勢いよく放り投げた。
「助かっ……」
「おおっと待てよ!しばらく黙っててくれ!今俺はコーディンになってるつもりなんだぜ?本物の存在を意識したくない!」
「……あぁ」
トランスが豹変した理由、それは強烈な”自己暗示”だ。
自分がコーディンになったと思い込むことによって、その動きと強さを疑似的に再現するという寸法だ。
「いや、ちょっと……ふぅぅ……もうこれ以上持ちません……」
コーディンをトランスは急に倒れ伏した。
自己暗示には膨大な精神エネルギーを消費する。
肉体に影響を与えるとなれば尚更だ。
「ありがとう、トランス」
トランスの体をゆっくり横たえると、コーディンは二匹のスタクレアを睨め付けた。
「GUOOOOOOOOWN!!オノレェェェェェェ!調子ニ乗ルンジャアナイゾ戦造人間ンンンンン!!」
「慌テルナイーヴァ、マダ我々ガ優勢デアルコトニ変ワリハナイ」
二匹はまだ余力を残していた。
ニ対一。圧倒的に不利な状況だ。
トランスのお陰で窮地を脱したは良いものの、このままでは再び追い詰められてしまうだろう。
(こいつを使うしかないか……)
二匹が突撃を開始した瞬間に、コーディンは左手で服を握りしわを作った。
アムのかぎ爪を右手のフラクチュアで受け止め、力を込めて左に押す。
そうすることによりイーヴァがアムの真後ろに来ることになる。
「フン、盾ニシタツモリカ?何モ考エズ衝突スルホド鈍クハナイワ!!」
そのまま行くと直撃するため、イーヴァはアムを避けて横に曲がろうとした。
しかし、もう遅い。
既にコーディンの狙い通りの展開になっていた。
「いや?別にそんなつもりじゃあないさ……俺の狙いはあくまでこの”位置”だ」
コーディンは、服のしわによって生じた”隙間”から左手を出す。
そこには黄金の装飾が施された”拳銃”が握られていた。
「!?シマッ……」
アムは慌てて逃れようとしたが、それよりもコーディンが引き金を引いた。
『Error』
瞬間、銃口から凄まじいエネルギー波が放たれ、野を放射状に焼き払った。
「ぐっ、うおあぁああああああああああああああああああああああああ……!!」
コーディンは苦し気に右手のフラクチュアで左手の銃を叩き落とす。
銃がコーディンの手から離れた途端にエネルギー噴射は止まった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
荒々しく息を吐くコーディンの前に、イーヴァが立ちふさがった。
「ヤラレタゼ……マサカソンナ新武器ヲ持ッテイタトハナ……負ケヲ認メルヨ」
後方でアムがイーヴァは既に虫の息。戦う力は残っていないようだ。
「ダガナ!忠告シテオクゼ……他ノ上位種ガ皆我々ミタイニ正々堂々ト勝負ヲ挑ンデクルワケジャアネエ……今後オ前ラハ狙ワレルコトニナルゼ?用心スルンダ……ナ……」
そう言い残すと、イーヴァは息絶えた。
「うーん……」
それとすれ違うように、トランスが目を覚ました。
「えっと……あっ隊長……!すみません、私、途中で気絶なんかしちゃって……!?」
トランスは思わず謝罪の言葉を止めた
コーディンの左腕が、ミイラのように干からびていたのだから。
「じゃあさ、能力に名前つけようぜ!」
「俺はお前に殺されかけたんだぞ?」
「俺ニ攻撃ヲ当テルコトハ絶対ニ出来ン!!」
「俺が本体を叩く。お前はその他大勢をどうにかしろ」
次回 『水と油と蟲の群れ』
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