コードインリバース

プラセボ

プロローグ

第1話 ~暴圧の前兆~



戦造人間のみで構成された戦闘部隊の四代目隊長、ボイル。彼は突然変異体だった。


通常の戦造人間には無い能力―――”空気を操る力”を持っていたのだ。


しかし、そういった特殊能力を差し置いても、ボイルの戦闘力には目を見張るものがあった。


持ち前のパワーで数多くのリバース獣を駆除し、遂に最強のリバース獣と対峙するに至った。



「KYURYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」


 


「……チッ」


 


龍のような風貌で山脈程の体躯を持つリバース獣の最上位種『ウルティマ・リクイダス』。


 


他のリバース獣とは格が違う。


 


流石のボイルも苦戦させられた。


 


「KYUOOOOOOOOOOON!」


 


開かれたリクイダスの口から無数の光弾が飛び散る。


 


「つぁあああああああああっ!」


 


ボイルは、自分に向かってくるそれを全て素手で弾き飛ばした。


 


後ろに控えている彼の部下達も各々ガードしている。


 


「うあぁ……」


 


「……!」


 


ボイルは戦慄した。


 


最前線に立ってリクイダスに攻撃を加えていた部下の一人が飲み込まれていたのだ。


 


といっても口からではない。リクイダスの腹がジェル状に変化していた。


 


「こいつ、体を液状化させるのか!?」


 


捕食を終えたリクイダスはボイルに視線をやった。


 


言葉こそ無いが、まるで非力な戦造人間をあざ笑っているかのようだ。


 


「一気にケリをつける……お前達全員下がれ!」


 


「えっ」


 


戸惑う部下達を他所に、ボイルは両手の平を向けるリクイダスに向け、そこから暴風波を発生させた。


 


「ぶげっ」


 


「OOOOOOOONNNN……!」


 


逃げ遅れた部下達を巻き添えにしながらも波は確実にリクイダスの肉を削り取っている。


 


 


しかしリクイダスの方が一枚上手だった。完全に細切れになる前に自らの体を液状化させ、地面に潜り込んだのだ。


 


 


その様子を見て、ボイルは暴風を止めた。


 


これ以上続けても無駄と判断したからだ。


 


 


「……アアハァアアアアアア」


 


部下の死骸が散らばった周辺を見渡し、ボイルは深いため息をついた。


 


 


 


 


 


 


 


 


その後レーダーからリクイダスの生命反応が途絶えたため、ボイル達は戦場から本部に帰還した。


 


「惜しかったねぇボイルくん」


 


「……」


 


ボイルに労いの言葉をかけているのは上層部の人間だ。


 


戦造人間ではない普通の人間のため戦闘力は無いに等しい。


 


しかし、彼には戦力部隊隊長であるボイルよりも強い権力を持っていた。


 


更に悪いことに、その目はむしろ怒っているようにも見えた。


 


「また部下を大勢巻き込んだのかね」


 


「……警告はしました。戦場では一瞬の差が命取りですから」


 


「そうはいってもねぇ、困るんだよ。新しい戦造人間の生産が追い付かないんだ。それに君のとこのメンバーはそれなりの精鋭揃いなんだし」


 


「そうですか」


 


「……まぁ今後は当分残党狩りだけだろうから、気を付けるんだね」


 


「はい」


 


あからさまに気のない返事をしながらボイルは去った。


 


(お前は邪魔なんだよ、ボイル)


 


上司は内心舌打ちした。


 


上層部には彼以外にもボイルを嫌う人間は沢山いた。


 


思い通りに動かないからだ。


 


「失礼します。」


 


ボイルと入れ違いに、目に隈がある男が入ってきた。


 


彼はいわくつきの科学者、ヌクリア。


 


独断で何かの危険な研究をしており、上層部との癒着がなかったらとっくに解雇されていたであろう男だ。


 


「試合による例のテスト、実行してもよろしいですね?」


 


「もちろんだ」


 


上司はほくそ笑んだ。試合というのはあくまで建前。本当の目的は別にあった。


 


「頑張って奴を始末してくれよ、次期隊長君……」


 


そう呟きながら目を落とした電子端末にはとある新人の名前が表示されていた。


 


『CODEIN(コ―ディン)』


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「おい」


 


「ああ?」


 


自室で寝転がっていたボイル。


 


声のした方に目を向けるととそこには馴染みの顔があった。


 


ノギという名前の非戦闘員だ。


 


ボイルとは訓練生時代の同期であったが、戦闘力が規定値に達しなかったために非戦闘員の道を選んだ。


 


階級こそ違えどボイルとはそれなりの親交があり、それなりの出世もしていた。


 


「惜しかったな」


 


「はっ……皆口を揃えてそう言うよ」


 


「まあそう腐るな。それより、重大な知らせがあってきたんだ」


 


「……なに?」


 


「明日、お前と訓練生ナンバー1の二人での試合が行われることになった。上からの命令だ」


 


「なんだと?なぜ俺がそんなことを」


 


「さあな。俺にはわからん。よっぽどの実力者らしいけどな」


 


「なんなんだふざけやがって……」


 


数秒の沈黙の後、ボイルは捻りだすようにこう言った。


 


「……わかった、いくぜ。どうせ拒否権はないんだ」


 


ノギが部屋から去った後、ボイルは屈辱で顔を歪めた。


 


表面上こそ冷静に振舞ったが、内心激昂していたのだ。


 


自分が訓練生の相手をさせられるから、というだけではない。


 


知っていたのだ。


 


上司達の間で"ボイルを倒せる逸材"がいると噂されているということを。


 


奴らは俺をつぶそうとしているんだろう。


 


何も知らない若い芽を摘むのは忍びないが、仕方がない。


 


この世は結果が全てだ。


 


一人きりの個室の中、ボイルはおぞましい表情で呟いた。


 


「……そいつには消えてもらう」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「羨ましいぜコ―ディン、隊長と試合できるなんてな」


 


試合当日、訓練生の二人部屋に呑気な声が響いた。


 


彼の名前はシナプス。訓練生でも上位に入るエリートだ。


 


「そんないいもんじゃねえよ」


 


そう言いながら嫌そうな表情を浮かべているこの男こそがコ―ディン。


 


訓練生の中でもナンバー1であり、この物語の主人公である。


 


「大丈夫だって。いくら隊長でも手加減ぐらいはしてくれるだろうし、上に実力をアピールできればそれでいい」


 


「おいおい、何俺が負ける前提で話してんだよ?」


 


「なんだよ、意外と乗り気じゃん」


 


二人は他愛ないささやかな会話で笑った。


 


二人は互いを信頼していた。


 


特にコ―ディンの方は生まれながらの天才。


 


クリーンな試合なら相手がボイルだとしても勝てる可能性がある。


 


シナプスはそう踏んでいた。


 


「さて、そろそろ行こうぜ」


 


「おう……いやちょっと待て」


 


ベッドの下の隙間に手を突っ込んでいるコ―ディン。何かを探しているようだ。


 


「ヴァイタルコア、確かにベッドの下に入れたはずなんだが……」


 


ヴァイタルコアとは、戦造人間にとっての必需品だ。


 


外見は単なる薄い円盤だが、その内部には戦造人間の肉体を守るための特殊な装置が数多く仕込まれている。


 


「おいおいこんな時に紛失か?呆れた次期隊長だな」


 


「減らず口叩いてないでお前も探してくれよ!あーやっぱりクローゼットの中かな……」


 


ぼやきながらベッドから離れるコ―ディン。


 


入れ違いにシナプスがベッドの下を覗く。


 


「んー……?」


 


その時、シナプスは奇妙に感じた。


 


何かが異様だった。


 


言葉では形容し難いが、強いて言うなら"黒"としか言いようがなかった。


 


影とはまた違う黒さだ。


 


「これは一体……」


 


しかし、その違和感はすぐに消えた。


 


瞬く間にごく普通の"空間"に戻っていたのだ。


 


そしてその奥には_____________________________


 


「おいコ―ディン!コア、ベッドの下にあったじゃんか!しっかりしろよ!」


 


「ああ?」


 


コ―ディンは間の抜けた顔で振り返った。完全に拍子抜けだ。


 


「馬鹿な……隅々まで隈なく探したはず」


 


「手ぇ隙間に突っ込んでただけじゃねえかよ!ほら、もういいだろ?行ってこい」


 


腑に落ちない顔をしながらも、コ―ディンは試合の舞台に向かった。


 


この時、彼はまだ知らなかったのだ。自分が手を入れた"隙間"で何が起こっていたのかを。



そして、この先自分に襲い掛かる数々の受難を。




to be continue…


 

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