人形列車 鉄亜鈴城11

 ――――そして数分後。

 観客席で見守る私達の前には最終ステージに挑まんとする和希さんの姿がありました。


 最終ステージに挑む前にはお城の方から花火が上がるのが恒例らしく、ドカンと言う音と共にいくつかの玉が上空へと打ち上げられて、綺麗な花を咲かせています。


「わ~。凄いわね~」

「いい眺めです」


 最後の大玉花火の打ち上げが終わり、ついにスタート!


 ……………と思いきや、何だか花火の打ち上がる音が止まりませんでした。


「おや? 今回は大サービスなんでしょうか?」

「ねえ、桜。空の模様が消えちゃってるわよ?」

「………えっ!?」


 花火が上がる音は聞こえるのに、どういう事か上空には花火が破裂して出来る模様が見えません。

 それどころか、爆発音がどんどん大きくなっている気が…………。


「…………いったい何が?」

「あれっ!? なんか、お城から煙が出てない?」

「…………煙? 本当です!? 」


 爆発音と共にお城から煙が立ちのぼり、お城を観光していたと思われる人達が一斉に外へと避難して来ました。


「確かお城には望さんがいます!?」

「ちょっと行ってみましょう!」


 私達は急いでお城に向かい、近くにいたスタッフの人に状況を聞く事にしました。


「あのっ。いったい何が起こったんですか?」

「カラオケ大会で使ってた火薬の量をスタッフが間違えたみたいで、爆発しちゃったみたいなんだ」

「ええっ!?」

「それで、避難状況はどうなってるの?」

「ほとんどの人は無事に脱出は出来たみたいなんだけど、ただ――――」


 な、なんだか嫌な予感が。


「その時にステージで歌ってた女の子が1人だけ取り残されてしまったんだ」


 私は祈るように一番上にある天守閣を見ると、そこには見知った少女の泣き叫ぶ姿がありました。


「うわああああああああん。助けてぇえええ、うぉ姉ちゃあああああん!!!!!」

「望さん!?」


 状況は一刻を争う緊急事態です。


「消防隊はまだなのか?」


 最終ステージに挑もうとしてた和希さんもやって来ました。


「連絡はしたんだが道路がかなり渋滞しているらしくて、まだしばらくは来れないみたいなんだ」

「そ、そんな…………」

「チィ。だったら私が救援に向かう!」


 お城の中に突入しようとした和希さんでしたが、スタッフの人に止められました。


「や、やめたまえ。さすがに今から中に入るのは危険だ」

「なら見捨てろって言うのか?」

「そうは言ってない。もうすぐ消防隊がくるはずなんだ。だから危険な事はしないで待ってて欲しい」


 …………何か。

 何か私達に出来る事は無いんでしょうか。

 

「だったら水をかけたらいいんじゃないの?」


 リニスが水で火を消す事を提案しましたが、スタッフさんは首を横にふって。


「そうできればすぐにでもしたいけど。さすがにそんな大量の水を急に用意する事なんて出来るはずが…………」

「水ならそこに沢山あるじゃないか?」


 和希さんはTASUKEのファーストステージを見つめ、そこには落下しても怪我をしない為に用意された大量の水で出来た水たまりが沢山ありました。

 

「だったらあの水を使いましょう! あとは水をお城にかける為のホースがあれば…………」

「ホースなら水遁の術のアトラクションに使っている物がある。急いで準備しよう」

「お願いします!」


 スタッフの人は急いで水を発射する機械を用意して、給水ポンプをファーストステージの水たまりへと投げ入れました。


 後は消防隊の人たちがくるまで、少しでも火の勢いを弱めます!!


「発射!」


 ホースの横に付いているボタンを押して水を発射。

 …………するはずが、何故かホースからは水が一滴も出てきませんでした。


「あ、あれ? これ壊れてないですか?」

「いや。これは昨日使った時は問題なかったから、そんなはずは…………」

「おい。燃料が空っぽだぞ!」

「ええっ!?」


 本体にあるゲージを確認すると、燃料メーターの針は0の所を指し示しています。


「ね、燃料は無いんですか?」

「確か倉庫にいくつかあったはずだ。急いで取ってくる!」


 そう言ってスタッフさんは倉庫に向かって走っていき、その場には私達3人が残りました。

 そうしている間にもお城の炎は激しさを増して、いきどおりのない焦りが差し迫ってきます。


「ど、どうしましょう?」

「どうするもなにも。燃料が無かったらそれは使えないだろ?」

「そうなんですが…………」

「まったくオンボロなんだから!」


 リニスが機械をポコンと蹴ると、機械の上の部分が開き何かを入れる場所が出てきました。

 そこには何故かチクワの様なマークが貼ってあります。


「なんだこれ?」

「変なマークが付いてるわね」

「こ、これは!?」


 私は自分の記憶を全力で思い出し、ある答えにたどり着きました。

 かなりありえない仮説ですが、もうこれに賭けるしかありません。


「そう言えばガイドブックで読んだ事があります。チクワをエネルギーにして作動する機械が昔ありました!」

「…………なんだそれ?」

「エネルギー効率が悪いとかですぐに生産中止になったのですが、多分これはその後期モデルの燃料とチクワどっちでも可動するタイプです!」

「けど、そんな事が解ってもチクワなんてどこにも無いわよ?」

「あそこにあります!!!!」


 私は観光ガイドに乗っているお城のページを開き2人に見せました。


「あそこに昔住んでいたお殿様が大のチクワ好きで、天守閣でチクワがお土産として売られてるんです。だから、天守閣に沢山あります!」

「それで、そのチクワをどうやって持ってくるんだ?」

「シャンティ。望さんのごんすけに通信してください!」

「オッケー。――――繋いだよ!」

「望さん、聞こえますか? 望さん!!!!」

 

 それからしばらくして、涙顔の望さんがモニターに顔を見せました。

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