人形列車 鉄亜鈴城5
「ふぅ。わかりました。すみません、会計は私と同じでお願いします」
「あら? その子お財布忘れたの?」
マリアさんは私が2人分のお支払いをする事をちょっと怪訝に思ったようでした。
「はい。ちょっと事情があって…………」
「だったらマリアが3人分払ってあげるわ」
―――――え。
これは私にとってかなりありがたい展開なのですが。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「ええ、前の場所で楽しませてくれたお礼よ。退屈しながら帰ると思ってたんだけど、あなた達のおかげで少しだけ楽しませてもらったし」
正直、私にとっては面倒なだけでしたが、こんな嬉しい事が待ってるとはあの出来事も無駄では無かったと言う事ですね。
なにより私のお財布が助かるのが凄く大きいです。
「ではお言葉に甘えて、お願いします」
「オッケー。それじゃあマリアは――――――この水ようかんにしようかしら」
マリアさんの注文も決まり、そのままマリアさんは足元にいる猫型デバイスにお支払いをするようにお願いをしました。
「それじゃあ。キティ・ノワール、お支払いお願いね」
「にゃお~ん」
黒い猫ちゃんの形をしたデバイスがひと鳴きすると、店員さんのいるレジに代金の送金を知らせる音が鳴り注文は完了。
後は羊羹を受け取ってから外にある食事スペースに持っていくだけです。
「まいどあり~でござる」
「それじゃあ、行きましょうか」
マリアさんは商品を受け取らずにお店の外へと歩いて行っちゃいました。
「あれ? 商品貰うの忘れてませんか?」
「もうそこの忍者さんが運んでくれたわよ」
「…………運んだ?」
お店の外のテーブルを見ると、何故かそこには私達の注文した羊羹とフォークが3人分置いてありました。
「ええっ!? いつの間に!?」
流石忍者さん。
目にも止まらぬスピードで運んでくれるなんて、侮れません。
それにしてもマリアさんは支払い終わってからすぐに外に行ったって事は、マリアさんには運んでた所が見えたんでしょうか?
だとしたら凄い動体視力です。
「さくら~、何してるの~? そんな所に立って無いで、早く食べましょうよ~」
おっと。今はそんな事は別にどうでも良かったですね。
急がないと羊羹がリニスの口の中に逃げてしまいます。
「すぐいきまぁ~す!」
私は急いでお店の外にあるテーブルまで走って、空いている椅子に座りました。
「別にそんなに急がなくても羊羹は逃げないのに」
「…………だったら、どうして私の羊羹がそっちにあるんですか」
そう。私が到着した時には、均等に置かれていたはずの羊羹が何故かリニスの前に2個あったのでした。
「これ? 桜がいらないなら貰っちゃおうかな~って思って」
「やっぱり逃げるじゃないですかーーーーー」
ふう。油断も隙もないですね。
私はサッと忍者羊羹のお皿を私の前に避難させ、最悪の状況になる事を回避しました。
「これで安心です」
「ねえ。良かったら少しづつ分けて食べない?」
「なるほど~。確かにそうした方が色々楽しめていいかも」
「はい。私もそうしようと思ってました」
マリアさんの提案に従い、私はフォークを横にして羊羹を三等分に切り分けようとしたのですが、中になにやら硬い感触が。
「あ、あれ?」
そう言えば店員さんが中に忍者が入ってるとか言ってたけど、もしかしてこれがそうなのかも。
私はちょっとだけフォークで切る力を強めると、ストンと羊羹の一番下まで下ろすことに成功してなんとか切る事が出来ました。
「いったい何が入ってるんでしょうか?」
2つに割った羊羹の片方を軽く横にどかして断面図を見てみると、人の頭のような物が入っていました。
「ま、まさか本当に小さい忍者さんが!?」
恐る恐るフォークでつついて見ると、カツンと硬い感触がします。
やっぱり切ってた時にフォークが止まったのはこれが原因だったようです。
…………というか、もしかしてこれは。
私は小さい忍者さんを指で触ってみるとザラザラと粉の様な物が指先に付き、それをペロリと舐めてみると、とろけるように甘い味がしたのでした。
「忍者羊羹の正体は忍者の形をした砂糖菓子でしたか」
私は更にもう一箇所に切り込みを入れて、いい感じに三等分にしてから改めて見てみると、そこにはバラバラにされた忍者さんの形をした砂糖菓子がありました。
「…………これは」
こんな状態になってしまっては、流石に見栄えはいいとは言えないかもしれませんが、問題は味です。
――――そう。これはこのお店のナンバー1商品。
だったら絶対に美味しいに決まってます!
2人もちょうど3つに切り分け終わったようなので、早速トレード開始です。
「では、まずはこの忍者羊羹をどうぞ」
「ふ~ん。忍者の形をしたお砂糖が入ってたのね」
「あっ。私は顔の部分がいい」
では、全員に行き渡った所で早速食べてみましょうか。
「いただきま~す」
砂糖菓子は少し固くてフォークでさすのが大変だったので、羊羹のあんこの部分をフォークで軽く刺して持ち上げてから口へと運ぶ事にしました。
少し固い練り羊羹と砂糖菓子の歯ごたえが絶妙なバランスでマッチしていて、更にはひと噛みする度にお砂糖が崩れて口の中いっぱいに甘さが広がって行くので、このままずっと噛んでいられそうな気がします。
「わ~。あま~い」
「流石、売上1位の味です」
忍者羊羹を堪能した後、お茶を一杯飲んで味をリセットしてから栗羊羹と水羊羹も続けていただき、私達は至福のひとときを3人で過ごしました。
「それじゃあマリアはもう行くわね。2人共楽しかったわ」
「あれ? もう行っちゃうの? まだ食べてないのいっぱいあるのに」
たかる気まんまん!?
「この後、お人形屋さんに行く用事があるの。今日ならいつでも良いって言われてるんだけど、流石にずっと待たせるのも悪いから」
「そうでしたか、ではまた後で」
「またご馳走してね~」
「それじゃあ、ごきげんよう」
羊羹を楽しみ終わって人形屋さんへと向かって行くマリアさんを、私達は手を振りながら見送りました。
さてと。次はどこのお店にいこうかなっと。
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