人形列車 雪菓子の律3
――――そんなこんなでアイスを食べながら次はどこの屋台に行こうかなとお、後ろから。
「10段アイス1つ、全部乗せでっ!!!!」
と、アイスのプロの注文が聞こえ、周囲にいるお客さんからどよめきの声があがりました。
「じゅ、10段!?」
10段アイスを1個も落とさずに食べ切れる人なんて、そんなに多くはありません。
万が一、誰かにぶつかってしまったら全部落っこちちゃう可能性だってあります。
こんなに人が多い中で、誰にもぶつからずにバランスを取って10段アイスを食べ切れる人なんているわけ…………。
――――いったいどんな猛者が!?
興味を引かれた私はその人物を確認するためにアイス屋台に振り向くと。
「――――あれ? なんで桜ちゃんがここにいるの?」
そこにはよく見知ったクラスメイトの姿がありました。
「…………あの。どちらかというと、それはこっちのセリフなんですが。望さんこそ何でここにいるんですか?」
「おお~、質問に質問で返してくるねぇ~。望は冷たい物が食べたくなったから本場まで食べにきたんだよ!」
よく見ると望さんの右手にはさっき買った10段アイス、そして左手にはバケツくらいの大きさのかき氷を持っていました。
「私は列車旅行で来たんです。というかそんなに冷たい物ばかり食べて大丈夫なんですか?」
望さんは両手に持っている物を確認してから何かに気が付いたみたいで。
「ああーーっ!? アイスとかき氷で冷たい物が被っちゃってるじゃん!!!!」
「…………むしろ10段アイスだけでアイスがかなり被ってる気が。それに両手が塞がってたらかき氷は食べれないんじゃ」
登場した瞬間、ツッコミが追いつかなくなっちゃってます。
「ああ、それはダイジョブ、ダイジョブ。――――えいっ!」
そう言って望さんはアイスを勢いよく上にあげると、その勢いで一番上のアイスがピョンと飛び跳ねて地面へと落下。
それから望さんは落下地点へと移動して大きく口を開けて待っていると、そこにアイスが見事ホールインワンして、見事に両手を使わずにアイスを食べる事に成功したのでした。
「――――もぐもぐ。ふっふっふ~、名付けて! のぞみんジャンプ!」
ジャンプしてるのは望さんでは無くアイスの方な気が…………。
「わ~、凄いわね~。よしっ私も!」
「あれはプロの技なのでマネしないでくだい!」
リニスが失敗してアイスを床に落としてしまう未来が見えた私は、必死でマネする事を止めました。
「――――あれ? ―――――桜ちゃん――――――その子は――――――だあれ?」
「あの。別に一言喋るたびにアイスを食べなくてもいいのでは?」
そのまま「のぞみんジャンプ」でアイスを全部食べた望さんは続くかき氷も飲むようにして平らげ、両手に持ってた冷たい物は瞬く間にきえちゃいました。
「私はリニスよ! 見てわかる通り高貴なローラ…………むぐっ」
私は自分の事を人形と言いそうになったリニスの口を素早く塞ぐと、私の手の中で両手をジタバタと振って暴れ出しました。
「あれ? どしたの?」
「いえ、なんでも無いです。この子は列車で知り合ったお友達です!」
「むぅ~。むぅ~」
流石に状況判断が早い…………というかどんな状況になっても楽しむ望さんでも、喋る人形を見たら流石に大騒ぎしそうなので、とりあえずリニスの正体は秘密にしておかないと。
口をふさいだ手を離した時に小声で人形である事は言わないように耳打ちすると、「なんでぇ」と頬を膨らませながら不満げな表情を見せましたが、後で他にも美味しいものを買ってあげる事を約束すると「それならいいわ」と納得してくれました。
食べ物をあげたら簡単に釣れるチョロいキャラだというのは解りましたが、だんだん要求がエスカレートしていってる気もします…………。
「ところで望さんはこれからどうするんですか?」
「ん? 望はアイスとかき氷を食べて満足したからもう予定とかないよ?」
あ、本当に冷たい物だけ食べに北海道まで来たんですね。
「だったら私達と一緒に見て回りませんか? リニスもそれていいですよね?」
「いいわよ。特別に2人目の従者になる事を許してあげる」
「…………2人目? ちなみに1人目は誰なんです?」
「え? もちろん桜に決まってるじゃない」
いつの間にか1人目の従者にされちゃってます!?
「よくわかんないけど、望はそれでいいよ」
「よ~し、けって~い。桜、早く次のお店に行きましょうよ!」
「…………もうそれでいいです」
それから私達は3人で夜の屋台を食べ歩き、人も少なくなって来た所でそろそろ最初に行ったプリン屋台も人が少なくなってるだろうと思い、最後のシメにとプリン屋台へと向かう事にしました。
「では最後の屋台に行きましょう!」
「お~~!」
しかし屋台へと近づくにつれ、なんだか周りの温度が熱くなっている様な感じが……。
「あれ? なんだか暑くないですか?」
一面雪景色なのに、何故か私の額から汗が地面に滴り落ちました。
「うぅ。さっき食べたアイスがお腹の中で溶けちゃいそうだよ」
「それに何だか周りの様子もおかしい気が…………」
「桜、あれっ!? 雪像がなんかおかしくない!?」
何かに気が付いたリニスが指をさした方を見ると、雪像が溶け始めていて崩れそうになっているのが見えました。
「わあああああああ!? 溶けちゃってるよおおおおおっ!?」
私達から少し離れた場所に運営本部らしきテントがあり、そこではスタッフの人が大慌てで何処かへと連絡しているみたいです。
「ちょっと行ってみましょう!」
私達は運営本部のテントに向かって駆け出しました。
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