リベンジマッチ 完



「シャンティ。和希さんがもう1度、超スピードのスキルを使えるまで後どれくらいですか?」

「えっと―――――だいたい2分後くらいかな」

「……2分ですか。それまでに何とかしないと厳しいですね」

 

 和希さんは防御を捨てて攻撃とスピードに特化したクラスを選んでるのにも関わらず、安定した勝率を誇っています。

 つまり、攻撃を弾いたり避けたりするのには絶対の自信を持ってて、そう簡単にはこっちの攻撃に当たってくれない。


 だったら避けられない攻撃をするしか無いのですが、誘導性の高い魔法も1回ステップされるだけで簡単に誘導を切られてしまうので、かなり厳しい状況です。


 チーム戦だったら味方と協力して避けられない攻撃をする事も出来ますが、あいにく今回は個人戦。


 誘導に頼らず自分のエイムを信じて攻撃を当てないと!


「桜、来るよ!!」

「――――ええっ!? もうっ!?」


 スキルのクールタイムが終わるまで待っててくれたら対策をじゅうぶんにする事が出来たかもしれないのに、流石にそんな時間を相手に与えるなんて事はしませんか…………。


 一瞬建物の影に和希さんの姿が見えました。


「やあーーーーーーっ!」


 私は狙いをつけて火炎の矢を打ち放ちましたが、和希さんのスピードを捉えることが出来ずに建物の壁に当たってしまいました。


「どうした? 壁でも狙っているのか?」

「――――くっ!? 当たらないなら、もういっかいっ!!!!」


 私は再び今使える中で最速の矢を放ちましたが、和希さんにはかすりもしませんでした。


「そんなので止まると思ってるのか?」

「止まらせます! それより走りっぱなしで疲れてませんか?」

「こっちはお前と時の流れが違うからな、そう簡単には疲れんさ」


 距離が縮まり遠距離から中距離になりました。


「この距離ならっ!」

 

 私は空中に巨大な箱を召喚して、違う魔法の詠唱に入りました。

 その直後、箱が開いて火の玉が扇状に広がりながら和希さんへと飛んでいきます。


 これは攻略サイトなどで運ゲーボックスと言われている物で、高い誘導性と制圧力で適当に撃っても攻撃に引っ掛かってくれる可能性が高い魔法です。


 ――――そして、攻撃に引っ掛かってる間に強力な魔法によるコンボで一気に倒すっ!



 私は飛んでいく炎の挙動に全神経を集中しました。


「賭けは――――」


 和希さんは誘導する火の玉を難なく避けて。


「――――こっちの勝ちみたいだな。チップは全部もらって行くぞ?」

「まだルーレットは回ってます!」

 

 私は杖の先からビームを放ちました。

 狙いはもちろん――――――火の玉の飛んで無い場所っ!


 そう。私は和希さんが攻撃を避けてくれると信じて、魔法を放ったのです。

 

 ただ、和希さんが左右どっちに避けるのかは完全に運でしたが――――。

 私は2分の1の択を通すことに成功したのです。


「チィっ!?」


 防御力の低い和希さんは、私の放った攻撃で体力の全てを奪われました。



「桜、相手の移動スキルが回復しちゃったよ!?」


 シャンティが警告を発しました。

 どうやら和希さんのスキルのクールタイムが終わって、私が最初にやっつけられた行動をもう一度やって来る可能性が高いのですから。


 ――――――――けどっ!


「私の勝ちですっ!!!!」


 和希さんが超高速で私に向かってきた瞬間、私が最初に唱えた隕石がフィールドを埋め尽くしました。


 

「勝者。風宮 桜!!!!」


 そして、私の勝利を告げるジャッジ杉田さんの声が、フィールド上に響き渡りました。



「―――――――あっ」


 現実に戻った瞬間。

 緊張の糸が切れた私は地面に倒れそうになりましたが、いつの間にか隣に来ていた和希さんに支えられました。


「まったく。もう少し緊張感を持ったらどうだ?」

「す、すみません」


 私達はお互いにスーツを脱いで改めて向かい合うと、突然杉田さんのデバイスからアラートが鳴り始めました。


「おっと。どうやら近くて他の試合が始まるみたいだ。では、さらばっ!」

「お疲れ様です」


 そして、河川敷には私と和希さんだけが残りました。


「私の最初のライフを取ったレーザー、外したら負けだったんじゃないのか?」

「あそこは運にかけるしか方法がありませんでしたので。それに、最初から右に撃つって決めてましたから」

「どうしてだ?」

「友達だったら、右手で握手するのが基本ですっ!」

「…………まったく。とんだ挨拶だったな」


 私達は2人で笑いあいました。

 

「あの、それで約束なんですが……」

「――――ふぅ。わかってる。チーム戦をやればいいんだろ?」

「はいっ!」



 ――――――そして、今日の夜。

 

 私は、るんるん気分で和希さんと一緒にバトルフィールドに降り立ったのですが……………。



「ま、待ってください!?」


 私はひたすら突っ走る和希さんの後ろをついて走っていました。


 和希さんは2人チームなのにまるでソロプレイの様な動きをして、相手が2人でも持ち前の実力で圧倒しているおかげで私の戦闘は今の所ゼロ。


「欲しいのがあったら取ったらどうだ?」

「わかりました…………って、あっ、ちょっと!?」



 装備も下手に重い物を取ったら置いていかれてしまうので、最低限の防具と短剣のみ。


「ひゃうっ!?」


 スピード重視の装備だと突然飛んでくる石ころでも致命傷になりかねないので、緊張感は常にマックス。



 ―――――そのまま和希さんは1人で最後まで突き進み、私は後ろをついて行っただけで1位を取ってしまいました。



「なんとか1位を取れたな」

「……………もう全部、和希さん1人でいいのでは」


 チームを組むことは出来ましたが、チームプレイが出来るようになるにはまだちょっと先みたいです。







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