バトロワ編 その24
「――――ここか?」
「そうみたいです。時間的余裕はもうあまりないですが、走って行けばじゅうぶん間に合う感じですね」
私達が今いる場所の前には広大な湖が広がっていて、そのちょうど真ん中に天まで届くくらいの高い塔がそびえ立っていました。
塔の下の方を見ると下から1メートルくらいの壁の所に丸い押しボタンがあったので、どうやらあのボタンを押すことが出来たらミッションクリアになるみたいです。
「――――あれか。最終地点なのにNPCが誰もいないのは気になるが、あれならこの場所からお前の弓で狙って当たれば押せるんじゃないのか?」
「私もそれは考えたのですが、威力重視に矢をクラフトしてしまったので直接当ててしまうと、もしかしたら壊れてしまうかもしれません。それに新しい矢を作る為に今から素材を探すのはちょっと時間的に厳しいので、やっぱり直接押しに行くしか無いと思います」
「それしか無いか。――――何が起こるか解らない。慎重に行くぞ」
「サポートは任せてください」
塔と湖の間には1本の架け橋がかけられていて、後はまっずぐにその橋を走り抜けるだけです。
「私が先行する。ついてこい」
「了解です!」
私達は湖のふもとまで到着しましたが、チャプチャプと水の流れる音が聞こえるだけで他の音は聞こえてきませんでした。
隠れる事が出来る場所も見当たらないですし、塔の裏側にも何もないみたいです。
「――――静かだな」
私達は慎重に架け橋を進んで行きましたが、私達の心配とは裏腹に特に何も起きずに3分の1くらい進んで、ちょっとだけ拍子抜けをしてしまいました。
ここからならスイッチまで矢が届きますね――――っと、そう言えば攻撃力の強い矢しか無いんでした。
「…………ふぅ」
私がちょっと気を抜いたと同時にピピピピとアラーム音が鳴ってちょっとビックリしたので状況を確認してみると、どうやらキャビンアテンダントさんからの音声チャットが着ているみたいです。
「――――もしもし。どうかしましたか?」
「お客様、もう少しで離陸体制に入ってしまいます。状況はどうなっていますでしょうか?」
「順調です。もうスイッチは目の前なので安心して――――」
「おい。何か来るぞ!」
「――――えっ!?」
突然、地鳴りのような音が響き渡り、湖の底からクリスタルが2つ私達の前に立ちふさがる様に出現しました。
「――――何か来るぞ!」
「お客様、何かトラブルでも?」
「すみません、いったん通信を終わります」
「お客様? お客さ―――」
私はピッと通信終了のボタンを押してキャビンアテンダントさんとの通話を強制的に終わらせると、弓を構えて臨戦態勢へと移行しました。
「なんだあれは?」
「――――あれは召喚クリスタルです。イベントの時に使われていて―――――――ッ!? 下から来ます!!」
私は少し前に向かって矢を放つと、地面から少しづつ出現してきた人形の様な物の頭に矢を直撃させて、なんとかソレが出現する前に撃退する事に成功しました。
「クリスタルを壊すまでその周辺にモンスターが召喚されるオブジェクトです」
「―――ふ~ん。そんなのがあるのか」
「――――あの。召喚クリスタルが出てくるイベントはちょくちょく開催されていると思うのですが…………」
「あいにく私はイベントバトルに興味はないからな。―――それより、アレが湖の上だと私は攻撃できない。お前がなんとかしてくれ」
「そうしたいのですがクリスタルは耐久値が高めなので、今からだと壊すのはちょっと時間的にきつそうです。なので強行突破で行きましょう。援護するのでスイッチまで走ってください」
「任せろ!」
気がつくと架け橋の中間地点から向こうまでギッシリと水で出来たヒトガタのモンスターが沢山ひしめき合うように道を塞いでしまっています。
パーカーさんはなるべく戦わないようにモンスターの横をするりとくぐり抜けていき、戦闘をしないで進むのが難しそうなモンスターを私が狙撃で排除してスイッチへの通路を確保していきました。
矢に羽を付けた事で命中予測地点のサークルが狙いやすくなった事で私のガバガバエイムでも何とか弱点に命中させる事が出来て一安心と思った所で、予期せぬ出来事が起こってしまいました。
「おい。何か変な音がしないか?」
「――――変な音? そういえば、架け橋の下から何か音が聞こえるような…………あっ!? 下がってください。下から何か来ます!」
「チィっ!」
パーカーさんは急いで後ろにバックステップをすると湖の下から大きな影が浮かび上がってきて、影の主は橋を壊しながらその正体を現したのでした。
「――――なっ!?」
「…………こいつ等の親玉か」
スイッチまで後一歩と言う所で、私達の行く手を阻んでいる水属性モンスターのおよそ10倍はある巨大な敵が現れたのでした。
――――確かモンスターが出てくるクリスタルからは低確率でレアなアイテムを落とすボスモンスターが出てきた…………って、今はそんな事はどうでもよくって。
「ボスだけに集中攻撃しましょう!」
「わかってる!」
パーカーさんはスピードポーションを取り出して攻撃スピードを上げる事にしたみたいです。私もリジェネポーションを使って自動回復状態にして雑魚モンスターの攻撃は自動回復で何とか耐えてボスに攻撃を集中する事にしました。
「――――流石に固いな」
パーカーさんは攻撃を4,5回連続で繰り出した後、ボスが攻撃モーションに入った瞬間にバックステップで攻撃範囲のギリギリ外に回避して、ボスの攻撃が終わってから即座に距離を詰めてまた攻撃を繰り出すヒットアンドアウェイ方式でダメージを与えていました。
しかし、パーカーさんのクラスは大ダメージを与えるのには不向きでボスと正面から戦うのはあまり得意では無い為、私は弓を限界まで引いてパワーを溜めてから撃ち放つタメ撃ちでダメージを稼ぐ事にしました。
「あとちょっと―――――これで、最後です!」
何回かの攻防の後、私の放った矢がボスを貫いた瞬間、ボスモンスターは光に包まれながら消えていき、スイッチまでの最後の道が切り拓けられたのでした。
「…………間に合うか」
パーカーさんはボスモンスターがいた場所に出来てしまった大穴をジャンプで飛び越えてスイッチまでの最後の直線を走り始めました。
私は横目で残り時間を確認してみると、ボス撃破にかなり時間を使ってしまっていたようで、タイムアップ直前のアラートが鳴り出してしまいました。
パーカーさんも状況を理解したみたいで、表情に焦りの色が伺えます。
残り時間的にはちょっとだけ…………いいえ、かなり足りないかもしれません。
「こうなったら矢で直接狙うしか…………」
けど、スイッチが壊れてしまっては駄目ですし、もしかしたらパーカーさんがギリギリで間に合ってくれる可能性も…………せめて何か衝撃を和らげてくれるモノでもあれば―――――おや?
私はとっさに矢の衝撃を弱くする方法を思いつきました。もうこれしか方法は無さそうですし、悩んでいる場合じゃ無さそうです。
私は矢を構えると、パーカーさんに向かって叫びました。
「避けないでください!!」
パーカーさんはチラリとこちらを向いてどうしたんだ? と言った顔をした後、一瞬で状況を理解してくれたようで、軽く頷いてくれました。
「多分、大丈夫なはず――――」
私はスイッチに狙いを定めた矢を限界まで引いてから――――。
「――――行きます」
一気に矢を撃ち放ちました。
矢はスイッチまでの直線を真っ直ぐに飛んでいき、このまま直撃したら間違い無く壊れてしまうと思います。
―――――けど、私とスイッチの中間地点にはパーカーさんが走っているのです。
私の放った矢はパーカーさんを背中からつらぬき、その瞬間パーカーさんは光に包まれながらログアウトしていきました。
――――――そして、パーカーさんに当たった事で威力が弱まった矢はスイッチの少し前から失速を始め、落下しそうになった瞬間、コツンとスイッチに当たりオープンの文字が画面に表示されたら私の体も光に包まれてログアウトしていきました。
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