バトロワ編 その22
「…………ここは…………一体?」
手を軽く左右に広げてみると、コツンと何かボタンのような物に触れてどこからか案内音声が聞こえてきました。
「修復システムを実行する為、キャラメイクを行ってください」
「…………キャラメイク?」
前を見るといつの間にか私の前に小さなモニターが浮かび上がっていて、装備をいつくかのパターンから選択するみたいです。
ブレマジは通常プレイだと装備は全て現地調達なのですが、特殊モードなのである程度装備を選んで始める事が出来るデバックモードみたいな感じなのでしょうか?
「えっと、選べるクラスは――――――」
どんな場面でもそつなくこなせそうな戦士、まあ無難と言えば無難ですね。
そして、バブとデバフだけのサポート系で固めた魔法使い。――――そう言えばパーカーさんと打ち合わせをしてなかったのでどんなクラスが得意なのか聞くのを忘れていました。
パーカーさんの得意なのがサポートだった場合、2人共サポートになるのはちょっとバランスが悪いので止めといた方が良さそうです。
…………なんとなくサポートは苦手なタイプのような気がしないでもないですが、人を言動だけで判断するのは良くないですからね。
後は遠距離特化の弓使いと速度重視のスピードスターですか――――。
弓使いは弓2人で砲台プレイしたり後方からのサポート役もこなせるので、戦士か弓が最終候補になりますね。
スピードスターは速度重視なキャラなのですが、スピードだけを重視しすぎてしまっているため、他の能力が全て最低レベルの数値になっているので上級者向け…………と言うよりまともに使える人を見た事が無い気がします。
まず攻撃力が何も装備していない状態より下がってしまうので接近戦になった場合相手より必ず多く攻撃を当てる必要が出てきます。
――――そして、何よりも厄介な事は守備力が最低になってしまう事です。私も前に数回使った事があるのですが、接近戦で相手に先制攻撃をしかけたはずが相手の適当に振り回した剣が少しあたっただけでやられてしまった事があります。
他にも体力MAX状態から相手の矢がカスっただけでいっきに0まで減ってしまったり、そんなに高くない段差からの落下ダメージでもゲームオーバーになってしまうなど。
――――と、まあそう言った感じで色々と難しい要素が沢山あって私には使いこなせないクラスでした。
「とりあえず私は無難に行きましょうか――――」
私はクラスを選んでからモニターをタッチしてみると、私を囲んでいた場所が天井からフワッと溶けるようにちょっとずつ消えていき、足元の床だけが残った瞬間にそこからバァっと緑色の草の生えた地面が一斉に広がっていきました。
どうやら無事にメンテナンス用のマップにログイン出来たみたいです。
「――――遅かったな」
少し前の方からパーカーさんの声が聞こえてきました。どうやら私よりも早くクラスを決めて先に来ていたみたいです。
私も結構早く決めたと思ったのですが、それよりも早いと言う事は得意なクラスがあって即決したのでしょうか。
「すみません。待ちましたか?」
「少しな。それより急がないと飛行機が墜落するんじゃないか?」
「そうですね。それでは早速――――」
私はパーカーさんの場所に小走りで近づいて行きクラスを確認してみた瞬間。
「どうかしたのか?」
―――――私は飛行機の墜落を確信したのでした。
「あ、あの。もしかしてクラス選択を間違えてしまったのですか?」
「ん? 別に私は間違えてなんていないが、何かあるのか?」
「けど、そのクラスって――――」
「ああ。私はスピードの速いクラスが得意なんだ」
パーカーさんのアバターはリアルの時と同じようなフード付きのパーカーを来て顔を覆うように深くフードを被っていました。
両手には小さめの小太刀が1本づつ握られていて、攻撃範囲の短さが見ただけで伝わってきます。
鎧や盾など重い物は装備せず、武器も最低限の軽くて扱いやすい近接武器だけで戦うそのクラスは――――。
「あの。どうしてスピードスターを選んでしまったのですか?」
「どうしてって。これなら相手の攻撃を全部避ける事が出来るからな。それに目的地に一番早く到着出来るクラスだろ?」
私のクラスはそんなに早く移動できないのですが、もしかして1人で走っていってしまうのでしょうか?
「その。出来れば移動速度は私に合わせて欲しいのですが――――」
「安心しろ。デュオは敵と戦う時以外はチーム行動が鉄則だからな」
つまり敵が出てきたら1人で勝手に突撃してしまう訳ですね…………。
「敵は私が全部倒してやるから、お前は後ろで見てるだけでいいぞ」
「スピードスターは攻撃力はそんなに高くないのですが、えっと、その、大丈夫なんでしょうか?」
「攻撃力が低くても当たればダメージは通るからな。それに100回も攻撃を当てれば倒せるだろ?」
「――――このゲームの最大体力は100ですが、最低保証ダメージは2なので50回当てれば倒せますよ」
「そうなのか? まあそれくらい誤差の内だろ」
50回は誤差というレベルを超えていると思うのですが…………。それに守備力の高いタンク職相手に攻撃を一切受けずに50回も攻撃を当てるのはかなり厳しいのでは無いでしょうか。
「――――そう言えば、お前は弓を選んだのか」
「はい。一撃必中で行こうと思ってます」
私は手に持った弓を前に突き出すようにしてパーカーさんに見せました。
弓はロングボウなので少し遠く目の距離まで狙う事が出来るみたいです。
「矢なら余裕があるはずだろ? 好きに乱射しても最後まで余るんじゃないか?」
普通のクラスならそれでも良かったのですが体力の少ないスピードスターに間違えて誤射で当ててしまったら致命傷になってしまいますし、当たり所が悪いと一撃必殺になってしまう可能性があるのですが…………。
「ロングボウでの連射は難しいので今回は止めときます」
「そうか。まあ自分のやりたいようなスタイルで戦うのが一番やりやすいから好きにやればいい」
「そうします。――――では、さっそく目的地を確認しましょう」
私はメニュー画面からマップを選択すると、私達の前にメンテナンス用の全体マップが表示されました。
「私達の今いる場所がマーカーの付いているここで、――――――飛行機のローラー開閉スイッチがあるのが少し離れた場所にあるここですね。目的地のマーキングは既にされているみたいなので――――――」
私はマップの右上にある方位磁石で方角を確認してから軽く周りを見回してみると、白い四角のマークが遠くの方に見えてその下にはそこまでの距離が表示されていました。
「――――こっちの方に向かえばいいみたいです」
「ようするにこのまま真っ直ぐに進めばいいわけだな」
「そうですが、一応NPCも何組かいるので隠れて行けそうな場所があればそっちを優先に進んだほうがいいと思います」
キャビンアテンダントさんの説明だと、メンテナンスモードでは誰かが間違えてログインしてそのままスイッチを押されないようにセキュリティとしてCPUが何組か徘徊しているようです。
けれど2人以上のチームになってしまったらメンテナンスを行う人物が目的地まで辿り着く事が困難になるので、それぞれのCPUの組はある程度の距離を取るように設定されている為、一斉に襲いかかってくるような事はないので確実に対処していけばそこまで苦戦はしなさそうです。
「まだ時間には余裕があるので、最初は慎重に進みま―――――って、おや?」
私が全体マップを消してからパーカーさんの方を見ると、いつの間にかさっきまでその場所にいたはずのパーカーさんの姿は無くなっていました。
「こっちだ、早く来い」
どうやらパーカーさんは私の準備が終わるよりも早く、一足先に目的地の方向へと進み始めていたみたいです。
「すぐに行きます」
私は小走りで向かっていくと、突然足元に何かコツンと引っ掛かり転びそうになってしまいました。
「――――っと。あれ? 何か落ちているのでしょうか?」
私は足元を調べてみると、回復ポーションのビンが1つ地面に転がっていました。
これは私の物では無いので、おそらくパーカーさんが落とした物ですね。
「――――あの、ポーション落としてますよ?」
「ん? 私が必要な分はもう拾ったから、お前が使いたいなら貰っておけ」
「――――拾った?」
地面をよく見るとポーションの他にも素材や武器が落ちています。
どうしてスタート地点なのにアイテムがこんなに沢山あるんだろうと思っていると、茂みの隙間に鍵の空いた宝箱が2つ見えました。
「NPCが2人いたから倒しておいたぞ。こいつ等は特にこれといった物は持ってないみたいだな」
「倒すの早すぎです!!」
大会で上位を取れるような人だとは思っていたのですが、流石にここまで出来る人とは思いませんでした。最初に言ってたように、これは本当に1人で何とかしてしまうかもしれません。
――――ならば今回の私はサポート役に徹する事にした方が良さそうです。
前線はパーカーさんに任せる事にして、防具は軽めて動きやすさを重視したデフォルトの服で行くことにしましょう。なので今は防具は拾わずに回復ポーションだけ貰っておけば良さそうですね。
そして矢の素材になりそうな物を一通り。乱射をして間違ってフレンドリーファイアをしないようにダメージの大きめな矢がクラフト出来るよな物を中心に―――――ふぅ、こんな所でしょうか。
――――けど、アイテムの残り方が少し引っかかるような。ちょっと回復アイテムが余りすぎな気もします。
「――――――終わったか?」
「はい。ちょっとだけ道具を補充させてもらいました」
「ならすぐに行くぞ」
「あの――――アイテムがかなり残っていたのですが、こんな序盤なのにNPCはアイテムを沢山持ちすぎじゃないでしょうか?」
「――――そういう事か。私はスピードポーションだけしか取ってないからな」
「ええっ!? 回復アイテムは1つくらい持って無いと危険なのでは?」
「このクラスに回復は必要無いだろ? それに早く動くために少しでも重量は軽くしておきたい」
確かにパーカーさんのスピードスターは回復アイテムが必要無い――――――というか1、2回攻撃を受けただけでゲームオーバーなので回復が出来ないと言うのが正しいのですが、それでも致命傷で助かった場合は回復アイテムを使って仕切り直しをする事が出来るので1つくらい持っているのがセオリーのはずなのに。
「回復ポーションの重量は誤差レベルだと思うのですか」
「誤差でも変わる事には違いないからな。その誤差の重量差でダメージを回避出来るかもしれないだろ?」
私はスピード系クラスをあまり使わないので良くわかりませんが、愛用者のこだわりみたいな物なのでしょうか。
私がマップをしまったあの一瞬でNPCを2人もやっつけたって事は重要なのだと思うのですが、とりあえず今はパーカーさんの戦い方を見てスピードクラスの使い方を学習させて貰ったほうがいいかもしれません。
「なら念のために私が少し多めに回復アイテムを持っておきますね」
「好きにしろ。必要ないと思うけどな」
私は弓のストックをちょっとだけ減らして回復アイテムを2個追加で持っていく事にしました。たぶん支援がメインなら多分ギリギリ足りる本数だと思います。回復出来ずにやられてしまうのだけは避けないといけませんし。
「おまたせしました。今度こそ大丈夫です」
「ならすぐに行くぞ。時間に余裕があると言ってもゆっくりしている暇も無いからな」
「あっ。ちょっと待ってください」
歩き始めようとしたパーカーさんを止めようと声をかけると、不満も焦りも感じさせない無表情な顔で私の方に振り向きました。
「どうした? 目的地にはマーカーが付いてるからこのまま真っ直ぐに行けば最短距離だぞ」
「確かに距離だけなら最短なのですが、この先は崖になっていて吊橋が1本かかっているだけなので渡っている最中に交戦してしまうかもしれません」
「NPCは待ち伏せなんてしないから、渡ってる時に狙撃される事は気にしなくていいんじゃないか?」
「そうなのですが、NPCは私達の方に向かってくるので反対側から普通に橋を渡ってくる可能性も――――」
「その時は正面突破すればいい。行くぞ」
パーカーさんはそのままズカズカと進んでいってしまいました。
まあ決断は早い方がいいですし、非常事態になったら戻って迂回する事にすればいいですしね。
それに結構歩くスピードが早いので、急いで追いかけないと置いてけぼりにされちゃいそうです。
「あっ。そんなに急がなくても――――」
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