バトロワ編 その21
――――と、言った感じで初日の旅行はあっと言う間に終わり、次の日は鳴海さんと水族館へ行ってペンギンさん達のショーを楽しんで、私達の楽しい旅行はあっという間に終わりを迎えました。
そして今は帰りの飛行機の中で私は観光ガイドを見ながらまったりしちゃってたりします。
「ねぇ桜。さっきからずっとそれ読んでるけど飽きないの?」
「行けなかった場所が結構ありましたので楽しいですよ、それに次に行く機会があった時の予習にもなりますし」
「ふ~ん。あ、ナル姉写真見せて」
「ええ、いいわよ」
忍さんは余程退屈なのか、隣に座っている鳴海さんがスマホで撮影した写真を見ていたので見せてもらう事にしたみたいです。
「では、私は読書の続きでも―――――――おや?」
観光ガイドのページをめくると広告をいくつか掲載しているページがあったのですが、私はそこに気になる広告を発見したのでした。
「忍さん。もうすぐ新作のデジタルカードゲームのサービスが始まるみたいです」
「へ~。ゲームバーでやったような微妙なやつ?」
どうやら忍さんは写真を見る事でいっぱいで上の空のようです。
「いえ。これはトレーディング要素もあって、ルールも本格的な――――――」
――――――ガコン。
と音がしたと思った瞬間、一瞬飛行機がぐらついて乗客の皆さんがどうしたんだろ?とざわめき始めた後、しばらくしてからキャビンアテンダントのお姉さんが慌てながら私達の乗っているエリアの扉をあけて駆け込んで来ました。
「お、お客様の中にブレイド・アンド・マジックのプレイヤー様はいらっしゃいませんか?」
キャビンアテンダントさんは、なにやら神妙な面持ちで非常事態が起こったかの様にあたふたしています。
私も一応プレイはしているのですが、どうしたものでしょうか。
「――――ねえ、桜。私達ブレマジ出来るよね?」
「確かにそうですが、私達の腕前で大丈夫でしょうか。足手まといになる可能性もありますし、ひとまずは様子を見たほうが――――――」
私と忍さんがどうした物かと相談していると、後ろの方の座席から。
「私なら多少腕に覚えがあるが構わないか?」
と、ぶっきら棒ながら少し凛々しさと幼さが合わさったような澄んだ声が聞こえてきました。
「は、はい。誠に申し訳ないのですがお時間よろしいでしょうか?」
「ああ。ちょうど退屈してた所だ」
声の人物は席から立ち上がりキャビンアテンダントさんの場所までてくてくと歩いて進んで行き、私達の横を通り過ぎた時に一瞬だけ目が合いました。
フード付きのパーカーを深く被っていたので顔は良く見えなかったのですが、年は私達と同じくらいの小柄な男の子のようでした。
少しだけ気恥ずかしくなった私は目線をそらして下を向くと、その人物の手には金色のカバーの本が持たれている事に気がつきました。
―――――――あれ? あの本どこかで見た事があったような…………。
私は記憶の糸を辿っていくと、ある1つの限定書籍に辿り着いたのでした。
「ああああっ!? それはブレマジ・ゴールデン・ガイドブック!!」
私は驚きのあまり座席を立ってしまいました。
「きゅ、急にどうしたの桜?」
「な、何でもありま――――」
平常心を取り戻した私は再び席につこうとしたのですが、キャビンアテンダントのお姉さんが。
「お客様もブレマジプレイヤーでしょうか?」
「い、いえ。私は――――」
「この本を知ってるって事はお前もやった事があるんじゃないか?」
「そ、それは――――」
あの人の持っている本はブレマジ・ゴールデン・ガイドブックと言って公式大会の上位入賞者だけに渡される表紙が金色に輝いている特別な本です。
私もいつか手に入れたいと思っているのですが、なかなか大会に出る機会が無くて手に入らなかった本が突然目の前に現れたので我を忘れてしまいました。
「ねえ、桜。他にいなそうだし手伝ってあげたら?」
「そうですね。困っているようなので行ってきます」
私も覚悟を決めてキャビンアテンダントさんの場所まで歩いて向かい行きました。
「はい。私はそこまで上級プレイヤーでは無いですが、一応出来ます。あの…………後もう1人、私の友達も出来るのですが呼んできた方がいいですか?」
「いえ、操作端末が2つなので問題ありません」
操作端末? その飛行機の端末とブレマジに何か関連性があるのでしょうか。
「それで、私達はどうすればいいんだ?」
フードパーカー君がキャビンアテンダントさんに質問をすると。
「そうでした。ここではなく端末室で説明をいたしますので、少しご同行お願いします」
と、どうやら私達は端末室という場所に行くことになったようなので、私は忍さんと鳴海さんにちょっと行ってきますと目配せをしてからキャビンアテンダントさんの後をついて行く事にしました。
忍さんと鳴海さんは呑気にいってらっしゃ~いと手を降って返してくれたみたいです。
しばらく飛行機の中を後ろの方へと進んでいくと、座席の一番うしろにカードキーで施錠されている分厚そうな扉が設置してあり、キャビンアテンダントさんが胸ポケットからカードを取り出しシャカッとカードを機械にすべらせて認証すると、扉に付いている赤いランプが緑色に切り替わって、ゴゴゴと重厚な音を立てながらゆっくりと少しづつ開いて行きました。
「こちらです」
私とフードパーカー君はキャビンアテンダントさんの後に続いて部屋の中に入ると、端末室には机の上に2個の鳥型デバイスが置いてありました。
どうやらこの航空会社のマスコットキャラのツバサールくんがモチーフのデバイスみたいです。
キャビンアテンダントさんは後ろの扉を閉めて声が他の乗客さん達に聞こえないのを確認すると、現在の状況を話してくれました。
「実は先程の衝撃で飛行機のローラーを収納している場所のシステムがトラブルを起こしてしまい開かなくなってしまったのです」
「ええっ!? そ、それはかなりマズイ状況では――――ハッ!?」
思わず大声を上げてしまった私はしまったと思って急いで口を両手で塞ぎました。
「すみません。ビックリしてしまって、つい…………」
「大丈夫です。扉は閉めてありますので他のお客様には聞こえませんから」
どうやら扉がしまっていたおかげで何とか外には声が漏れなかったみたいです。
次からは気をつけないといけません。
「ふぅ、危なかったです。――――それで、私達は何をすればいいんでしょうか?」
「実はこの飛行機のシステムにブレイドエンジンを利用しているので、メンテナンスをするのにはブレマジプレイヤー様の助けが必要なのです」
――――ブレイドエンジン。
たしかブレイドアンドマジックのゲーム開発に使われたゲームエンジンで、その汎用性の高さから今では医療機器や車のナビなど幅広く使われているようになっていたとガイドブックで読んだ記憶がありました。
「――――なるほど、この飛行機はそっち系でしたか」
「はい。ですのでお二人には飛行機が空港に到着するまでの間にシステムのトラブル復旧をお願いしたいのですが―――――」
少し前にテレビで最近は飛行機の制御にもブレマジエンジンが使われたようになったと見た記憶があるのですが、まさか偶然乗ったこの飛行機に最新のシステムが搭載されていたなんて驚きです。
確かゲームにログインしたら整備用のマップに移動して、マップ上にある飛行機の故障箇所に対応したオブジェクトに修理ツールを使うか非常用のスイッチを押すと正常に動作するようになる感じのシステムだった気がします。
「はい、大丈夫です。私達に任せてください」
「なら早速始めないか」
時間が惜しいのかフードパーカー君はフードを脱ぐとフードの下から流れるような長い黒髪が滴り落ち、私はパーカー君の肩にかかった髪の毛を右手ですくう動作に見とれてしまいました。
…………って、長い髪?
少し変に思った私は正面に回って顔を覗いてみる事にすると、そこには……………。
「わわっ!? フードパーカーさんでした!?」
「―――――ん? なにか言ったか?」
「いえ、何でも無いです」
ぶっきら棒な物言いからてっきり男の子だと思っていたのですが、どうやら女の子だったみたいです。
「それで、デバイスはこれを使えばいいのか?」
「あの。私のデバイスは飛行機に預けてあるので、出来ればそれを使いたいのですが――――」
私は緊急時に慣れない端末を使うのを不安に思いキャビンアテンダントさんに尋ねると。
「でしたら奥のスキャナーにお荷物をお預けした際にお渡ししたカードキーを認識されると、フライト中ですがお客様のお荷物を一時的に返却する事ができます」
と、特別に使うことを許可してもらえました。
「こっちも自分のが使えるならそれを使いたい」
パーカーさんも自分のデバイスを使いたいみたいで、私達は奥に設置してある機械にカードキーを読み込ませると、機械が飛行機の荷物置き場とリンクして私達のデバイスが転送されてきました。
「あれ? もう着いたの?」
スリープモードから復帰してちょっぴり眠そうなシャンティが呑気な声をあげました。
けど、今は状況を説明している時間が惜しいので後で説明する事にします。
「シャンティ、緊急事態発生です。急いでダイブの準備をしてください」
「――――え!? 状況がよくわかんないけど、とりあえず解った」
「では、行きます。シャンティ、クロスアップ!」
「オッケー、桜」
私は急いでダイブスーツを装着して、この飛行機の管理ネットワークに飛び込む準備を終え――――。
っと、そう言えば決めポーズを忘れてました。
「桜花爛漫(おうからんまん) 風宮 桜 参上ですっ!!!!」
ポーズがビシッと決まった所で、パーカーさんの方も携帯デバイスのスリープモードを解除して今から装着するみたいです。
パーカーさんのデバイスは真っ黒な影の様な色をしたカラス型のデバイスで、とてもクールなイメージがしました。
「行くぞ、ハヤテ。クロスアップ!」
掛け声と共にカラス型デバイスのパーツがパージされパーカーさんの体に装着されていきます、そして最後にビシッとポーズを決めて装着が完了。
「色即是空(しきそくぜくう) 仙道――――くっ!?」
「きゃっ!?」
パーカーさんのポーズが終わる前に一瞬飛行機が激しく揺れてバランスを崩してしまいそうになりました。
早くしないと危ないかもしれません。
……………それにしても。
「ん? どうかしたのか?」
「いえ、そちらも装着した後にポーズをとっていたので――――」
「何を言ってる? 着替えた後にポーズを取るのは常識だろ?」
「えっ!?」
これは思いもよらない場所で同好の士に会っちゃいました。
やっぱり着替え終わった後のポーズの重要性も、理解る人には理解るみたいですね。
「…………それにしても」
パーカーさんのダイブスーツはカラス型デバイスと同じ黒を基調としたシュッとしたスマートな服装なのですが、インナーが真っ黒なレオタードになっていてちょっぴりえちえちな感じになっています。
「――――ちょっと派手な服ですね」
「そうか? たまに珍しがって見る奴もいるが、真っ黒で地味だと思ぞ?」
まさかの無自覚!? いえ、もしかしたら邪な目で見てしまった私の方がおかしいのかもしれません。
――――けど、私が同じ服を着ろと言われたらちょっぴりどころじゃないくらい恥ずかしいような…………。
「そんな事より早く始めないか?」
「――――っと、そうですね。それでは行ってきます」
「どうかお気をつけてください。操作は基本的にはブレマジと同じですので、後は音声ガイドに従っていただければ大丈夫だと思います」
「了解です。シャンティ、クロスワールド!」
「オッケー、桜。飛行機のネットワークに接続するね」
私はキャビンアテンダントさんに挨拶をしてからシステムを起動させると、視界が一瞬真っ暗になった後に体全体が光に包まれていく感覚になって、しばらくすると真っ暗な空間に立っていました
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます