ゲームキャスターさくら
てんつゆ
バトロワ編 その1
「ひゃうっ!?」
お風呂上がりにバスタオル1枚になった私は体重計の上で悲鳴をあげました。
確かに最近ちょっぴり運動不足だったとは言え予想より大きい数字が出でくると、私の中の緊急警報が非常事態だと知らせて来ます。
「そ、そうです。多分これはバスタオルが凄く重いに決まってます!!!!」
私はバスタオルを投げ捨て一糸まとわぬ姿になり、もう1度体重計の上に乗ったのですが―――――。
「…………むぅ。やっぱり変わんないです」
体重計にはさっきと同じ数字表示されていました。
こうなったらスポーツをやるしかありません!
――――――と、いう訳で。
「今からeスポーツをやります!!!!!」
「…………ねぇ、本当にそれで痩せられるの?」
「うるさいですね……。私が決めたからいいんです!」
私は耳元から聞こえるサポートナビのツッコミをスルーしてゲームを起動しました。
「では、行きます!」
「はいはい。今日は勝てるといいね」
――――――――数分後。
今、私の目の前では天空から火の雨が降り注ぎ、その火の雨を避けるように大空を滑空する伝説のドラゴンが口から灼熱のブレスを吐いて地上を焼き払っています。
地上ではゴテゴテの鎧をまとい宝石がキラキラと散りばめられた剣を手にした歴戦の戦士、派手な衣装と杖を持った大魔法使い、森の色をしたローブを羽織り遠距離から一撃必殺の矢を放つ幻の狩人などが巨大な土人形(ゴーレム)を相手に戦っています。
――――ここは紛れもない戦場。
ただ一つこの戦場の異様さを表すのならば、全員が敵という事でしょうか。
戦士も魔法使いも狩人もゴーレムと戦いながらもお互いに気を許さずに戦っていて、気を抜いた人はその瞬間一緒に戦っていたはずの人から攻撃を受けてしまい戦闘不能になっています。
――――ここで生き残れるのはたった1人だけ。
強大な相手を倒す為に共闘をする人もいますが、あくまでそれは一時的な協力関係。
後で敵になるのなら倒せる内に倒してしまう。
と、そんな終末之日(ラグナロク)の様な戦闘が行われている最中、私はどうしているのかと言うと。
私は茂みに身を隠しながら誰も気付かないでと天に祈りながら潜伏しているのでした。
ただ勘違いしないで欲しいのは、これはあくまで勝ち残る為の戦略であって、戦うのが怖いとか最後の1人になるまで逃げ回って漁夫の利を得ようとかそんな事を考えているのでありません。
あくまで今回は仕方く、そう仕方なくこんなチキン戦術を取っている…………と言うか取らざるを得ない状況になってしまった訳なのです。
今回、雲隠れ忍者として最終局面まで生き残った私に出来る事は、物陰に隠れて相手の死角から必殺の刃で相手に攻撃する事。
――――なのですが、現在戦闘が行われている場所は平原。
隠れる所など何も無い平原なのです。
戦場の端っこの方にギリギリ隠れる事が出来そうな茂みが残っていたので、今はなんとかそこに隠れてどうしたものかと状況を見守っているのですが、さて本当にどうしたものか。
どうしてあからさまに怪しい茂みにいるのに誰にも気付かれずにいれるのかと言うと、忍者の潜伏は景色と完璧に同化する事が出来るので、他の人からは誰もいないように見えているわけなのです。
ただ少しでも動いてしまうと潜伏状態では無くなって相手から視認されるようになってしまうのと、潜伏状態になる為に必要な道具は全て使い果たしてしまっているので、私に残されたチャンスは本当に後わずかしかないので、慎重に慎重をかさねて行動しなくてはなりません。
そうこうしている内に戦場の人数は少しづつ減っていき、残り10人いるかいないかといった状況になったのですが、勝ち残っている人たちはかなり強化されていて、私の攻撃でまともなダメージを与える事が出来るのかちょっと怪しくなってきました。
「…………どうしましょう」
こうなったら後は玉砕覚悟で突撃して玉砕するしか無いのでは。
と思っって動き出そうとした瞬間、私の目の前に魔法使いの人がやってきて足元に魔法陣を出現させて呪文の詠唱に入りました。
これは、メテオ!?
魔法使いの人が詠唱しようとしているメテオは戦場に隕石の雨を降らして攻撃する魔法です。
当たってしまったら最後、どんな屈強な戦士でも一撃で倒されてしまう最強究極の魔法。
ただし詠唱に膨大な時間が必要な為、詠唱中は無防備になって攻撃を受けた瞬間に詠唱が中断してしまうので戦場の端っこの方で隠れながら撃つのが一般的です。
どうやら魔法使いの人は自分の勝利を確信して、前だけを見て詠唱をしています。
今しか無いっ!
防御の弱い魔法使いが無防備になって呪文の詠唱をしている。
これは私に残された最後のチャンスです。
私は潜伏状態を解き、一瞬で戦闘状態に切り替えて魔法使いの後ろから必殺の一撃を横一閃に繰り出しました。
「とりゃああああああああああああっ!」
「――――えっ!?」
魔法使いの人は何が起こったのか理解する前に、その場に倒れました。
今頃は私の事を見ながら凄く悔しがっていると思います。
どうして、倒れているのに私の事を見ていられるのかって?
説明してもいいのですが、今はそんな事よりも。
「――――ふうっ。近くには誰もいませんね?」
私は念のために周辺を確認してみたけど、他の誰の攻撃の当たる範囲では無さそうです。
「よしっ。今のうちです」
私は魔法使いの人が倒れていた場所にいつの間にか出現していた宝箱をあけて中身を確認しました。
私がやっつけたのは最大魔法が使える魔法使いだったので、持ち物もかなりいい物を持っているみたいです。
「これだけあれば迅雷忍者にクラスチェンジ出来そうですね。これならなんとか…………」
――――グゴゴゴゴ。
轟く轟音と共に真っ赤に燃える私の視界。
急激に減っていく私のライフ。
……戦利品を漁っている最中、突然上空から襲いかかってきたドラゴンのブレスに焼かれ、私の存在は戦場から別の場所へと転送されて行きました。
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