恋の天使は弓矢を銃に持ち替えた

ツノシマノボル

第1話:まだバレてない。

高校1年からゲームを始めた俺、さかき 隼人はやとは、FPS〈ファーストパーソン・シューティングゲーム〉にハマった。


部活も入っておらず時間もあった俺は、意外と才能があったらしくメキメキと腕を上げていった。



最初は一人で黙々とやっていたが、それにも少々飽きてきてしまっていたのでSNSに投稿を始めることにした。



特に目立った宣伝は行っていなかったが、1位になった画面を毎回載せていると徐々に反応してくれる人が増えていった。




高校1年の冬にはゲーム配信を始めた。



その頃からのマイブームは[大勢が1つの島に上陸し、最後の1チームになるまで戦う]ゲームと、[2つのチームが攻撃側と防御側に分かれて対戦する]ゲームだ。


どちらも相手の攻めパターンを予測した動き方や、攻め方を話しながら1位になるだけで徐々に視聴者数や登録者数は少しずつ伸びていった。



登録者数は有名人ほどではないが、その内容から[知る人ぞ知るゲームがうまい奴]扱いされているとSNS上で書かれていると聞いた。







そして高校2年の春、クラス替えで良い出来事があった。



七瀬リサ



間違いなく学校でもトップクラスに可愛い子と同じクラスになれた。

1年のときは別のクラスだったが、見かける度に視線が奪われる存在だった。



そんな子が今自分の斜め前の席に座っている。



(あー、これからは毎日視線が奪われて困っちゃうなー)


(しかし見れば見るほど可愛いなー)



表情には決して出さず、視界の端で彼女を捕らえながら平凡な昼休みを過ごしている俺に、意外な会話が聞こえてきた。



七瀬リサと有村ミユキの会話だ。



「あれー?リサまた動画観てるのー?最近よく観てるよね。何の動画観てるの?」



「最近やってるゲームの動画だよー。なかなか勝てないから、上手い人のプレイ動画観て研究しようと思って。ミユキも一緒にやらない?ゲーム」



(意外だ)


(あんな可愛い子でもゲームやるんだな)


興味深々で聞き耳を立て続る。




「ゲームかー。どうしよっかな。リサは今どんなゲームやってるの?」



「FPSってジャンルのゲームだよ。自分の目線のキャラを操作するんだけど、みんなで一つの島にワーッて降りて行ってね、銃を拾って撃ち合いをやるの。それで最後まで残ったチームが勝ちってなるの。どう?ミユキは興味ない?」



「んー、銃での撃ち合いかー。どうしよっかなー。私は動画を観てから決めよっかなー。ちなみにリサは何て人の動画を観てるの?」



「色んな人のを観てるんだけど、最近一番観てるのは[コルレオーネ初号機]って名前の人だよ」




(……まじか!?)



(なんで彼女が俺の動画を観てるんだ!?世の中狭すぎだろ!!??)



思わず身体が動いてガタッと机が動いてしまった。

周りから少々注目されたが、どうやら不審がられてはないようだ。


引き続き聞き耳を立てていても大丈夫そうだ。



「なにそれー?変な名前だね」



それを聞いて有村ミユキが言う。



(やっぱり変な名前なのか…。)


(深夜のテンションで付けるものじゃなかったな。)


(インパクト重視で付けたが、失敗したな。)



若干ヘコみながら、それでも七瀬リサが否定してくれることに一縷の望みを託していたが、



「そうなのー、すっごい変な名前でしょー」



と同意した。


同意したと言うよりは[すっごい]とか付けて更に強調された。



(どうしよ…、もう名前変えちゃおうかな)



などと絶望していると、



「でももの凄くゲームは上手なんだよ!しょっちゅう1位になってるんだから!今まで観た中でたぶん一番ぐらい!これくらい上手い人と一緒にやってみたいなー」



と嬉しい言葉を七瀬リサは続けた。



思わずにやけていると、



「でもゲーム中の喋りはあんまり面白くないんだけどね」



と最後に付け足した。



さっき上がったテンションがまたガタ落ちした。


これだけ自分の心が揺さぶられる経験は久しぶりな気がする。



(認めたくはなかったけど、俺の動画登録者が伸び悩んでる理由ってやっぱりそこだよなー)



(喋りかー、ゲームしながら一人で話すのってやっぱり苦手なんだよなー)



自分の動画についてまさかこんなタイミングで見つめ直すことになるとは。



ただそんな動画でもあんな可愛い子が観てくれている。

それは嬉しい情報だ。


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