第16話・乗り越えるべき壁
「師匠も一緒に買い物してくれればいいのに、どこに行ったのかな?」
町へ戻るなり買い物を言いつけられたシャロは、少し不満げな表情を浮かべながら商店を回っていた。
「えーっとあとは、デトックスポーションとライフポーションとマジックポーションと……あとは何だっけ? クラッシュボムだったかな?」
「フラッシュボムだ、それくらいちゃんと覚えとけ」
「師匠、いつの間に横に居たんですか?」
「たった今だよ、それよりも頼んだ買い物くらいとっとと済ませろ」
「師匠がなるべくお金を使うなって言うから安いのを探し回ってたんですよ」
「そんなこと言ったか?」
「ハッキリと言いました!」
「そりゃあ悪かったな、それよりもこっちの要件は済んだからさっそく行くぞ」
「えっ、でもまだ他の買い物が終わってませんよ?」
「そんなの帰りに済ませりゃいいだろ」
「だったら最初っからそうすれば良かったじゃないですか!」
「グジグジと細かいことを言ってんじゃねえよ、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください、少しくらい荷物を持ってくださいよ」
「それはお前の役目だ、甘えんな」
「そんなあー!」
文句を言い続けるシャロを連れてアースラは街の中心地へ向かい始めた。こうして円形城塞都市リーヤにある建造物の中でも
「よし、それじゃあ中で仕事を受けて来い、話はつけてるから受付に居るガリアっていかついオッサンに俺の名前を言え」
「冒険者組合の仕事をやるんですか?」
「そうだ、早く行って来い」
「分かりました」
アースラにポンと背中を押され、シャロは受付カウンターへ向かった。
「えっとあの、アースラ・ティアーズベルに言われて来たんですが、ガリアさんで間違いないでしょうか?」
「ああそうだ、嬢ちゃんがアースラが言ってた請負代理か?」
「はい、それであの、依頼内容は何でしょうか?」
「依頼はポックル平原を中心に行商人から略奪をしているゴブリンの討伐だが、やれるかい?」
「あ、はい、ゴブリンとはこれまでにも何度か戦ってますし、問題なく討伐できると思います」
「そうか、それなら任せたぜ、それとこの依頼には見分役が付くことになるから、明日の朝またここへ来てくれ」
「分かりました、それではまた明日」
話を聞いて仕事を受諾したシャロは、ガリアにペコリとお辞儀をしてから建物の外へ出た。
「師匠、お待たせしました」
「ちゃんと仕事は受けて来たか?」
「はい、ゴブリンの討伐ですよね? ちゃんと受けました」
「それじゃあ終わってない買い物の続きをして来い」
「師匠はどうするんですか?」
「俺はまだ別の用事があるんだよ、いいからさっさと行け、くれぐれも買い間違えるなよ」
「分かってますよ、ホントに師匠は人使いが荒いんだから……」
シャロはまたブツブツと文句を言いながら商店の方へ向かって行った。そしてそんなシャロの姿が見えなくなったことを確認したアースラは、組合の建物に入って受付のガリアと共に個室へ移動した。
「世話をかけたな」
「いや、それはいいんだが、本当にあの嬢ちゃんだけで大丈夫なのか?」
「実力的な面で言えば問題ない、あれでもシャロは第6序列魔法の一部までだが使えるからな」
「ほお、どんなに才能がある奴でも第6序列魔法が使えるようになるのは難しいのに、あの歳で使えるなんて凄いじゃないか」
「そりゃあ教えてる師匠が優秀だからな」
「……まあそれはさておきだ、今回の件が普通とは違うってことは話しておくべきじゃないのか? だからこそお前に依頼したわけだしな」
「サラッと流してんじゃねえよ、まあ普通とは違うから黙ってアイツに任せることにしたわけだし、今回の件はアイツが成長するには打ってつけの内容だからな」
「教育熱心なのはいいが、もしもあの嬢ちゃんに何かあったらどうすんだ?」
「心配いらねえよ、さっきも言ったとおりゴブリンをやるだけなら実力的な不足はないし、
「やれやれ、とんだ親バカ――いや、師匠バカだな」
「うるせえよ、それじゃあ計画どおりに頼むぜ」
「ああ、分かってる」
アースラは呆れた表情を見せるガリアに背を向けると、そのまま部屋を出て組合をあとにした。
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