第15話・足りないもの

 盗賊団の一件が解決してからしばらく経ち、アースラのシャロに対する修行には更に熱が入っていた。


「ウインドブラスト!」


 いつものように誰も居ない場所でアースラと戦いを繰り広げていたシャロは、距離を詰めようとしていたアースラに突風魔法を仕掛けた。


「ライトニングアロー!」


 突風で動きを鈍らせたアースラに対してシャロはすかさず雷撃魔法を放ったが、その攻撃はアースラに読まれ余裕で回避された。


「ライトニングバレット」


 雷の矢を回避したアースラは同時にシャロに向けて無数の雷球を放ち、シャロはその雷球を上手くかわし続けていたが、回避に意識が集中し過ぎてアースラが次の行動を起こすところを見逃してしまった。


「エアシュート」

「わわっ!?」

「ライトバインド」

「きゃっ!」


 シャロはアースラの魔法で足元をすくわれ、その場で体勢を崩して倒れ込んだ。するとアースラは続けて幾重もの光の輪を放ち、シャロの体を拘束した。


「多角的な攻撃をすると回避に集中し過ぎる、お前の悪い癖だ」

「だって集中しなきゃ避けられないじゃないですか」


 不満げな物言いを聞いたアースラがシャロに近づきながらライトバインドを解くと、シャロはその場でいじけたようにして両膝を抱え込んだ。


「言いたいことは分かるが、回避に集中し過ぎて次の攻撃をまともに受けたら話にならんだろうが。敵に対して魔法を当てるのは簡単じゃねえんだから、常に確実な一撃を当てられる戦い方を身につけなきゃいけないんだよ」

「それは分かりますけど、だったらどうすればいいんですか?」

「例えば相手に次の攻撃をさせないように牽制の魔法を放っておくとか、自分の力量で連発ができる魔法で相手の魔法を相殺そうさいするとか、負傷覚悟で突進して攻撃に転じるとか色々とあるだろ。まあ負傷覚悟は状況を見極めないと自殺行為になるからお勧めはしないがな」

「言ってることは分かりますけど、そんな器用なこと簡単に出来ませんよ」

「簡単に出来ないからこそ戦いで有利になるんだろうが、自分が出来ないことは相手も出来ない、そう思う奴は多いからな」

「確かにそうかもですけど」

「それとな、お前には絶対的に足りないものがある」

「何ですか?」

「危機感だ」

「危機感?」

「ああ、お前は心のどこかでこう思ってないか、相手が師匠だから、師匠が居るから死ぬことはない――って」

「そ、それは……」


 思い当たる節があるのか、シャロは気まずそうな表情を浮かべて口籠くちごもった。


「少なからず心当たりがあるんだろ、その甘えた気持ちがお前の成長を妨げてんだよ」

「……」

「いい機会だからハッキリと言っておく、このままのお前じゃ誰も救うことはできない。それどころか救えるはずだった相手すら救えずに犠牲者を増やすだろうさ」

「……師匠、私はどうすればいいんでしょうか、どうすれば今の自分を超えられるんでしょうか」

「そうだな、ちょっと荒療治になるかもしれんが、方法がないわけでもない」

「本当ですか?」

「ああ、お前にその気があるならやってみるか?」

「やります! やらせてください!」

「その意気込みは買うが、命を落とすかもしれないって覚悟だけはしとけよ」

「は、はい!」

「よし、それじゃあ今日の修行はこれで終わる」

「えっ、こんなに早くですか?」

「ああ、色々と準備もあるしな。ほれ、さっさと行くぞ」

「はい!」


 こうして2人は修行を切り上げてリーヤへ戻り、アースラはシャロの成長のために準備を始めた。

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