非日常の物語。0
サトウアイ
Ⅰ
落ちこぼれのオーラ
魔法使いのオーラは、大きく分けて3種類ある。
知・力・生
知は寒色系のオーラで、力は暖色系のオーラ。生は霧のような白いオーラだ。
普段は見えないものだが、魔法を使った時に感じる、例えるならば残り香のようなもの。生き物や植物、人工的に作られた物質などすべてのモノにおいて、その個体が潜在的に持ち合わせた力をこの世界ではオーラと呼んでいた。
その能力は血筋によっても大きく変わり、生きていく上で必要不可欠な情報となっている。
第3の世界『ヘブン』では、そこに住んでいる人間や生き物はすべてが何らかの魔力を持っていた。生き物として成長していく上で、自分がどんなオーラを持ち合わせているのかが判明する。
血筋によって必ず受け継がれている能力もあるが、親のオーラをそっくりそのまま継承するわけではないようで、人間の血液型のように規則性があるわけでもない。
その中でも強い魔力を持った生き物は、この国の中心に集められ、ある学校で勉強をすることになる。魔法使いのエリートコースとでもいうのだろうか。国の中核を担う職業に就いている生き物は、この学校の出身が圧倒的に多かった。
だから稀に、今まで見たことのない特別なオーラを持ち合わせる者もいた。
アラン・ジャックブレイカーという少年は、国の保護施設で「普通」に暮らしていた。
アランは、自分が保護された施設が、世間では「普通ではないモノ」が集まる施設という事に気付くのはその魔法使いの学校で勉強をするようになってからで。
彼は保護施設から国の施設にある寮に移り住み、周りの魔法使いが普通に席に着いて授業を受けている姿を見て、自分がどれだけ不思議な所で育てられていたのかに気付いた。
異様に背が高かったり、肌の色が灰色だったり。突然火を噴いて、その火が翼となって教室の外に出て飛び回ったり……
そんな変わった子供がたくさん生活していた施設から、全員が落ち着いて机とイスに座り、魔法の授業を受ける「普通」の生活を始めてから5年目。
アランは、未だにそこで一緒に生活をする学生たちに馴染めずにいた。周りから何かをされたわけではなく、アラン自身の性格の問題もあってなかなか心を開こうとしない彼に、教師たちも手を焼いていた。
ただ彼は、学問の成績は素晴らしく、知識だけであれば間違いなくこの学校で1番であろうという賢さ。ダメなのがその性格と、実技の力のなさだった。
国の魔法使い養成施設「国立魔術研究所」は、5年間でこの国の成り立ちから魔法の基礎知識、人間界との関りや応用の魔術についてなどを学ぶ。研究所というのは名ばかりで、中身は普通の学校と変わりなく周りからは魔術学院と呼ばれていた。
ある程度読み書きができれば特に年齢制限などはなく、生き物の種別も神様と同じ姿形と言われている人型(ひとがた)や、人間の間では魔物やモンスターと呼ばれるような異形の姿をしているものなど様々だが、圧倒的に人型が多い。
入学して数年、遅くとも3年目の頭までには自分のオーラが確定し、それに沿った専門の知識を学んでいくというカリキュラムになっているが、アランは学院に入って5年目の卒業をする年になっても、自分のオーラを見つけられずにいた。
以前生活していた国の保護施設からは、きわめて魔力が高いため扱いに注意しろとまで言われていたアラン。
久しぶりに優秀な人物が入ってきたと興味津々だった教師たちも、月日がたつにつれてアランへの期待は薄れていった。
◆
第3の世界には、様々な生き物が暮らしていた。見た目や言葉の違いから、古くから紛争が絶えず、領土争いを繰り返す中で「ヘブン」という国ができた。
ヘブンは、「人間の世界」から魔力のある人間が勝手に移り住んで作った国とも言われている。そのため人間と同じ姿形をした生き物が圧倒的に多く、彼らはかつて人間の世界で住んでいた魔法使いや魔女の末裔とされていた。
その「人間の世界」が今どうなっているのか。その思想は様々で、複数の宗派に分かれ、それもまた紛争の原因の一つとなっていた。
今のヘブンという国の実権を握る「
すなわち、人型の生物がこの世界を作り上げたのだから、一番格が上なのは人型の生き物という思想が核となっている。
もちろん大きなトカゲが二足歩行をしているような、恐ろしい見た目の生き物もゴロゴロいて、彼らは彼らで自分たちがこの世界に元から住む原住民だという思想を持っている。ヘブンの議会はすでに領土争いの戦争は終わったと言っているが、実際はそれに従わない者同士での紛争が各地で起こっていて物騒極まりない。
そんな時だった。
アランの生活している第14地区で小さな揉め事が起きた。
隣の地区との領地争いに原住民と名乗る生物も加わり、初めは口喧嘩程度だったものが、あっという間に議会の兵が動くほどの国ぐるみの戦争に発展していった。
争いが急に大きいものになり不思議がる者もいたが、魔術学院で勉強する見習い魔法使いたちには、当たり障りのない状況が伝えられた。「他民族との交流のあり方などを中心にさまざまな問題が衝突し合っている」と。
それにより、臨時の戦闘員募集の通達が魔術学院にも来ていた。
魔術学院には、こういった魔法使い見習いでもできる依頼が多く舞い込んでくる。
軽いバイト感覚で報酬をもらえるものもあれば、報酬なしだが依頼をこなして相手に気に入られると就職で有利になったり、見習いの中でも名が上がる。
この世界は表向きは平和を装っているが、蓋を少し開けてみれば、一人前ではない魔法使いの力を借りなくてはいけないほど弱っていた。
ただ、アランにとってこの戦争の始まりは良い事だったのかもしれない。
オーラの確定ができずに進路を決め兼ねていた彼は、国の臨時傭兵となり戦場に出ることになった。
アランの場合、オーラがわからないため実践ではほとんど役に立たない。しかし今回は、筆記のテストでは常にナンバーワンの彼を、正確な知識を必要とする部隊が欲して入隊が認められ、付近の調査をする探索部隊に配属された。
戦争のおかげで進路の問題は一時保留。答えの見つからない進路指導の先生との面談もしばらくしなくてよくなり、家族も親しい友達もいなかった彼は、なんの躊躇もなく戦場に出て行ったのだった。
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