パパの話7
「え、エルガ様!」動揺するリピアの声。「随分とその異界人にご執心のようですな。憑代の巫女殿」落ち着き払ったエルガ支配官の声。くそ! 木に埋め囲まれたこの牢屋の中じゃ、外で何が起こってるのか全く分からない!すると、
メキメキゴリゴリという音と共に周りの木が動き出した。隙間ができ、上下に引っ込んでゆく?やがて牢屋の檻の役目を終えた木々はきれいさっぱり僕の周りから無くなり、僕はそこがそれまで閉じ込めてられていた場所より一回り大きい広間であることを理解した。
目の前に、彼女がいる。周りを”苦痛の杖”を持ったエルフの番兵に囲まれている。
目の前に、あの野郎がいる。髪は真っ白、代わりに服が真っ黒、落ちくぼんだ眼が冷たく輝く。八重歯が目立つ口元をゆがめ、ニヤニヤ笑っている。
「しかしながらその男は罪人。弄ぶにしても、もう少しご自分のお立場を弁えるべきかと」
リピアは気色ばんだ「弄ぶ?非礼な!私は・・・」「僕の取り調べに来たんだよ」僕は彼女の言葉を継いだ。もちろん出まかせだ。リピアは驚いた表情で僕を見ている。「ミツカイ様に言われてね。もっと僕の話、特に異世界”日本”のことを聞き出せと命じられたんだってさ」もちろん出まかせだ。だがもう後には引けない!
「それに引き換えお前らはなんだ?エルガ」奴の顔からニヤつきが消えた。
そうとも、これ以上僕の目の前でリピアを馬鹿にさせてたまるか!
「警察みたいなマネをしてるくせに、見回り一人来やしなかった。
ずいぶん優雅な仕事ぶりだなぁ。エルガ」その瞬間!
僕の体が宙に浮きあがった、見えない手が首を締めあげている。
「ぐっ・・・は」何も見えないのに首の周りに大きな手指が
食い込んでいるのがわかる。意識が遠のきそうだ・・
空間に宙ぶらりんのまま、僕は手足をばたつかせてもがいた。
「私を呼び捨てにする罪。一度は無知に免じるが、二度は看過できん。」
エルガが右手を突き出している。気のせいか奴の手の周囲に黒い煙が渦巻いているように見える。僕に手を触れることなく宙に浮かせ、首を締めつける。
・・・これが
・・・これが”魔法”なのか?
そんな・・・馬鹿なことが・・・
当たり前のように・・・起きるのか?
この”ファンタジアン”は。
「目玉を抉り出してやる。どの道”最下層の苦役の任”には必要のないものだからな」エルガは冷たい笑みを絶やすことなく言った。
首に巻き付いている”手の形をした力”がだんだん顔の上の方に上がってくる!
頬の肉をつねり、まぶたを突き破ろうとしている!ち、ちくしょう!目が!
ほじくられちまう!その時、
「やめなさい!エルガ支配官!」
リピアだった。同じく右手を突き出している。その手はかすかに紫色の光を発しているように見える。僕が気絶しかけているせいかもしれないけど。
・・・いや、気のせいじゃない!。だって僕の首にかけられていた力が
なんか弱まっているような・・・。
エルガはリピアを睨みつけている。が、心なしかその額には汗が浮かんでいるように見える。八重歯がのぞく唇から低い声が洩れた。「おい、抑えろ」
杖を振り上げた番人たちが彼女を取り押さえようとする・・・だがしかし!
彼女の手の光が一段と強まると同時に全員が吹き飛ばされ壁に叩きつけられた!
番人たちのうめき声と”苦痛の杖”がへし折られる音が部屋に木霊する!
手を構えたまま脂汗を浮かべたエルガは
「さ・・・さすがは・・・”器の体”・・・たいした・・・魔力」
心なしかその声は震えている。「だが・・・支配官へのこのような振る舞い
・・・たとえ巫女といえど・・・許されるものでは・・・ない」
リピアは静かに言った「虜囚への虐待も許されることではありません」
表情を変えることなく「魔法を引いてください。そうすれば私も引きます」
「・・・・・・ふん」エルガは息を切らしながら右手を下した。
まとわりついていた黒い煙も消え、僕を締めつけていた力も消える。
結果宙に浮いていた僕は床に崩れ落ちた。痛い。
「この事は、長老会議に報告させてもらう」
暗い目をしてエルガはリピアをにらむ。
「では私も、御使い様に報告します。神樹イグドラシルに伝えていただくために」
ひるむことなく言い返した彼女に、
「思いあがるな!辺境の小娘風情が!」エルガは怒鳴った!
「お前がここでちやほやされるのは、”器”としてよくできているからにすぎん。」
彼女は黙っている。僕にはさっぱりわからない。
だけど・・・なんだ?
”ウツワ”?どういうことだ?
リピアはここで高貴な存在なんじゃないのか?
「”降神の議”までせいぜいお姫様気分を堪能しておくのだな」言うとエルガは
僕を振り向いた。「異界人!我々の仕事ぶりがどうとか抜かしていたな。
その通り。我々は職務を遂行しに来たのだよ。おい!」言うが早いか、番人が僕の両脇を掴む。「!!!」エルガは僕の前に来た。リピアはうつむいたまま黙っている。どうやら今度は”正式な職務”らしい。”正当”かどうかわからんけど。
懐から小さなツボを取り出して「これが何かわかるか?」エルガ
「また”ごるどるの実”って奴?」「あれは処刑用具だ。こいつは違う」
「じゃ知るわけないだろ」
「違うといっても」エルガはツボの蓋を開き「似たようなものだがな!」僕に突きつける「どっちだよ!」突っ込む僕の首に・・・何か巻き付いた?。
ツボの中から飛び出した 何 か が。
もちろん自分で見ることは出来ない。反射的に異物を取ろうと首に手を伸ばす僕を「ダメ!信也さん!」リピアが悲鳴に近い声で制止した。思わず僕は手を止める。
首に巻き付いたそれはずるずると動き、端っこが僕の目の前に姿を現した。指の先ほどの小さな鎌首から青い舌がちょろちょろと蠢いている。
蛇。
青、赤、黄、緑、紫、なんかすごくカラフルな体色をしている。
「”虹の鎖”。ドラゴン族でさえ屠る毒蛇だ。お前がそいつに逆らったり、逃げ出そうとすれば首筋を一噛み、即逃がしてくれるぞ。あ の 世 へ な !」
・・・性格悪!
「これが、刑罰?」聞く僕にエルガは失笑した。「はぁ?お前は言葉が理解できんのか?異界人は未開人か?”苦役の任”と書けば、仕事に決まってるだろう!」
右手を軽く振る。くそっ!また何か”魔法”を使うつもりか?身構える僕に、
エルガは嘲りの薄笑いを浮かべながら「お前はそのアホ面に虹の鎖をぶら下げたまま、永遠にイグドラシルに尽くすのだ。」右手に黒い煙が漂いだす。
・・・なんだ?足元が・・・揺れている?フローリングのように見える床が
・・・波打っている?「最下層でな!」エルガと「信也さんっ!」リピアの悲痛な声が耳に入った時、一瞬で足元の床は消え去り出現した真っ黒な奈落の穴に、
「うわああああっ!」僕は吸い込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます