検疫官2


 押収物保管棟を出ると表では三つの頭を持つ巨犬、ケルベロスが

”お座り”のポーズで待っている。私の相棒”ドラブラポン”だ。

「わぉ~~ん」三つの頭が同時に吠える。高音、中音、低音、のハーモニーで、

なんていうか芸術的だ。ウケ狙ってんのかしら?


 初仕事でこの子を紹介された時は正直怖かった。なんたってこの見た目に、

大きさはセントバーナード犬ほどもあるんだから。でも付き合いだしてびっくり。

想像を絶するレベルで”びびり”だったの。この巨犬。


 どれくらいかというと、自分の10分の1もない子猫に威嚇されただけで

尻尾を巻いてガクガク震えだすほど。

当然異世界からの”ジドウシャ”には近づけるはずもなく、そのリアクションは

あたかもラスボスとLV1で対決する羽目になった勇者のごとし。

ようやっと最近になってバスやトラックを怖がらなくなってくれたけどね~

それも私がついてればの話。


でも、気にしないし構わない。だってこの子は警察犬でも軍用犬でもない。

密輸探査犬なんだから。大事なのは隠されたヤバイ品物を嗅ぎ分け見つけ出す能力。そしてその点においてドラブラポンはいつだって抜きんでた才能を見せてくれるんだ。


3つの頭にはそれぞれ個性がある。


一つ目、薬物を見つけるのが上手い”ドラッグ”。

二つ目、ブランド品に目ざとい”ブランド”。

三つ目、火器危険物に敏感な”ウェポン”。


でもってその三つの頭、互いに意識しあってて、私がどれか一つを

撫でようものなら他の二つがスネるわいじけるわふてくされるわ

・・・超めんどくさい。体いっこなのに。


てなわけで呼び名も三つの頭から公平に採用したんだよね~

つまり ”ドラブラポン”。


ケルベロスのドラブラポンは三つの頭で私を見上げている。

「じゃ、休憩いこっか」尻尾をあらん限りの勢いで振っている。

何かを訴えかけているようだけど・・・。

その時腰のスマホが鳴った。


「はい、武藤です・・・あ、ヨモックさん」

「あ~ムトーちゃん、悪いんだけど応援行ってくれる?Rの73」

「R-73、了解です」


応援・・・通常検疫官は車両1台につき一人だ。問題なければ、そのままだ。

だが問題があった場合は”不測の事態”に備えて人員が増やされる。

駐車場R-73で何かあったらしい。


「行くよ、ドラブラポン」私は腰の自動拳銃を確認すると、

ケルベロスを連れ、現場へ向かった。

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