夢と現実逃避

佐武ろく

夢と現実逃避

僕は正月とか親戚が集まる場が嫌いだ。彼らは俺に会うとまずこう訊いてくる。



「今、仕事なにしてるんだ?」




その質問自体は別にいい。嫌なのは僕の答えに対する彼らの反応。



「まだフリーターを..」

「なに?まだ漫画家目指してるのか?」

「はい」




僕は漫画家になりたくてずっとその夢を追っている。



「そろそろ夢ばっか見てないでさ。現実を見ないと。就職して親孝行しなといけないよ」

「そうですね」




そこからくだらない話を聞かされる。そういうのになれるのは一部の人間だけだとか、昔は夢を追ってたけどどうこう。全く嫌になる。


これは僕がある日、喫茶店でコーヒーを飲んでいた時のこと。近くの席にいた女性2人の会話が聞こえてきた。聴きたくなかったけど声が少し大きくて近くの席にいた僕の耳には嫌でも入ってくる。会話の内容はこうだ。



「そういえば最近、彼氏できたんでしょ?」

「うん」

「どんな人?」

「少し年上で優しい人だよ」

「仕事は?」

「バイトしながらミュージシャン目指してるんだって」

「えー!そんな男やめなって。その年まで夢を追ってるなんてありえない。現実が見えないんだよ」




何か軽食を食べようと思ったけど僕は会計を済ませ家の近くにある公園に向かった。公園に行く途中で買った肉まんとお茶の入った袋をぶら下げながらベンチに腰掛ける。



「現実を見ろって何回言われたんだろう」




そんなことを呟きながら肉まんにかぶりつく。いつまでも夢を追ってると人は現実を見ろ、いつまでも現実逃避するなっていう。だけど、やりたいことから目を背けて毎日嫌々仕事に行く。僕はそっちの方が現実を見てないと思う。やりたいことに関係する仕事につくならまだしも全く関係ない仕事を嫌々とする日々。そうしないと食っていけないし家族を養えないから仕方ない、仕方ない。それも理解できる。だけどそうやって自分に言い聞かせている方が現実から目を背けている気がする。自分という現実から。もしかしたらそれが分かってるから夢を追ってる人を現実逃避なんて言いながら自分に「自分は現実を見てる正しい」って言い聞かせてるのもかしれない。


『夢を追い続けられない人に夢は捕まえられない』


この言葉を胸に刻み僕は生涯をかけて夢を追う。たとえ叶えられずに死ぬことになってもかまわない。人生を全額betできる人だけが夢を叶えられるか叶えられないかの勝負の席につける。僕は現実を見ながら夢を追ってる。むしろ現実が見えているからこそ努力しているしやるべきことはしていると思う。そして僕は口の中の肉まんをお茶で流し込むとゴミの入った袋とお茶を手に立ち上がった。




「よし!帰って続き描こう」




まぁ彼らの言う現実が何を指しているかは分からないし現実を見ろって言葉をいちいち否定しない。結局は僕の人生。生きたい現実で生きる。

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夢と現実逃避 佐武ろく @satake_roku

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