第1話
登校の際、俺—向井空はなんとなくこんなことを呟いてみる。
「今日は蒼穹が街を包み込んでいてとても清々しい気分だ。」
昨日読んだライトノベルで、主人公が放った台詞を俺も真似してみるが、何かが違う。まるで犬が喋り出したかのような。
やはり俺には「空が綺麗でいい気分だ。」くらいが自分に見合っている上、無駄のない言葉で良い。
勝手に自己解決をしたものの、自分でも悲しくなってきた。
今日は珍しく1人で登校している。嘘じゃない。本当だ。俺にだって友達はいる…1人位は。ただ問題はその1人である俺の幼なじみ
で親友の蒼真が最近は近くにいてくれないと言うことだ。
理由は大きく分けて2つある。それは蒼真が高校2年生にあがってからいきなり陽の者となり、友達付き合いに時間を割いているから。
そして問題はもう一つの理由だ。
それは蒼真に—彼女—が出来たことだ。
昨日告白され、今日は絶賛登校デート中だそうだ。
言い忘れていたが今僕が向かっているのは朝熊高校だ。この高校はかなり難関であり、ちょっと頭が良いほどの人では入れないほどの偏差値の高さを誇る。
なのでこの学校の生徒はほとんどの者が勤勉に真面目に取り組んでいる。一部の例外を除けば。
それにしても暑いなぁ。当たり前か…季節は春の下旬。そろそろ暑くなっていく頃だろう。
そろそろ朝熊高校の校門が見えてくるところだ。
そんなことを考えているとあまり見たくない物が視界に入った。
それは蒼真——と、蒼真の彼女である女が横に並んで登校していた。
哀れみの目で見ていると蒼真はこちらに気づき、彼女に一声かけ、彼女と一緒にこちらに来て話しかけてきた。
「げっ」
「おはよう空。今日は一緒に登校出来なくてごめんな。」
「おはよう蒼真。最後の一文は自慢かな?」
「まぁまぁそんな怒るなよ。お前イケメンだし性格直せばイケるって!応援してるぜ!
んなことよりこいつは詩織って言うんだ。」
蒼真は彼女のことを指差しながら言うとそれに答えるように彼女は言葉を発した。
「よろしく…詩織って言います。」
女性にしては高身長で大人っぽさのある上品な方だった。可愛い。
「はぁ」
俺は気力の無い返事をすると蒼真達は笑いながら校門の方へ去っていったと思うとまた2人でいちゃつきだした。
俺と話したときは詩織さんは大人しく落ち着いてトーンで話していたのに今となれば不安定な声で照れながら蒼真と話している。
「いいなぁぁぁぁ」
心の声を漏らしつつも僕は校門へと向かう。
靴を履き替え階段を登り、そしていつもの教室——2年1組に入る。1年生の頃は唯一無二の親友である蒼真と同じクラスだったからよかったものの、今年は話が違う。
今年は俺が1組、蒼真が3組と、綺麗に分かれてしまったのだ。かと言って蒼真には3組で作った友達が大勢いるため1組にはあまり来る時間がないそうだ。
当然友達がいない俺はクラスではかなり浮いた存在となる。
地獄だ。
生き地獄だ。
まだ6月下旬…と言うことは約9月もこの地獄で生きていかないといけないと言うことだ。
クソっ
特にやることもないので机で寝たフリでもしていると、誰かに呼ばれたような気がした。
「……先輩」
寝たフリといっても半分は本当に寝ているようなものだ。意識がもうろうとする中顔を上げるとそこには見覚えのある顔があった。
千歳柚月
住んでいる場所が近く、喋ったことはあまりないが、同じ小学校と中学校を過ごした
一つ下の後輩であり、
ちょっとした幼なじみのような物だ。
喋ったことはあまりないが、
明るい性格が特徴的で華奢な見た目をしている。可愛い。
喋ったことはあまりないが。
「な、なんでひゅか?」
あっ終わった。寝ぼけて噛んじまった。
頭の中で絶望していると、返ってきた答えは
全く予想もしない言葉だった。
「ふふっ。もしかして寝ぼけてます?
もしよかったら放課後校舎裏に来てくれませんか?」
そのことだけを言うと柚月は自分の教室へと走り去っていった。
フェ??
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