第13話 想いの渦

「あら、おかえりなさーい!楽しめましたか?」


 城館に入ると、たまたま二人の前を横切ったイングリットが元気に二人を出迎えた。手には何か書類の束を持っている。


「ただいまお姫様ー。うん!嫌なこともあったけど、いろんな物見れたし!新しい友達ができたし!ウーちゃんとももっと仲良くなれたから、楽しかったよ!」

「おー。うちはちょいと疲れたかな。けど、うん。うちもちよと同じだ」

「あら~。いいですね~。……もう少ししたら晩御飯ですが、まだ時間がありますね。お先にお風呂行かれますか?」


 ちよの風呂は、以前使った王族の浴場を使うことになっている。

 どちらにするか悩んでいる内に、ちよはイングリットに聞きたいことを思い出した。


「そうだお姫様。結婚するって街の人たちが言ってたけどホントなの?」

「あらあら。……そうです。もう6日後には結婚式です。なんとアーリアという大きな国の王子様とですよ!」

「え!?そうなの!?イサミって人とじゃないの!?」


 イングリットからは、もうすぐ結婚式だというのに、あまりにもそれらしい気配がない。

 重ねて、イサミからもらったハート形の錠前を大事に持っているイングリットを思えば、ちよはイングリットの発言にただ驚きを口にするしかなかった。

 ウーは「あー言っちゃった」という顔をして二人の様子をみている。


「……。憧れなんです。イサミはただの、私の憧れ、尊敬する人です。そういう好きっていうのはちょっと違います。……むしろそんなこと言われてビックリしちゃいました。全然そんなんじゃないです」


 その言葉から、ちよは敏感にイングリットの強がりを見抜いた。

 同じ女だから分かる勘とも言える。

 

 ――ウソ。尊敬する人の話をしてる顔じゃないじゃん。てか、イサミって人に対する行動がそれじゃないし。

 ――きっとホントは……。


「……お姫様。むつかしいことはよく分かんないけど、好きって気持ちにウソついちゃ後悔するんじゃないかって、わたし思うよ」

「……そうですね。私も、そう、思います。……ごめんなさい、私もう行きます。二人のデートの内容、晩御飯の時に詳しく聞かせてくださいね!」


 イングリットは少しの間俯いて、しかしすぐに、いつもの調子に戻ってそう言うのだった。




 ちよとウーは二人でお風呂に入り、そしてイングリットを交えて3人で食事をした。

 食事の席で、イングリットはいつもの調子に戻っていた。

 スマホで撮った写真を見せながら、ルクスのここが良いあれが良いと楽しそうに語るちよに、イングリットは笑って応えた。

 そしてちよがミカに助けられた話をすれば、イングリットは彼女に国から何か差し上げましょうと応えた。


「ルクスにはやはり、ミカさんの持つような新たな意識が必要なのです。必須です。」


 そう言ってイングリットは、ニッコリと笑った。




 夜。ちよと孝太郎の部屋。もちろんウーも居る。

 孝太郎が寝るベッドに、ちよとウーが腰掛ける。ウーがちよの背中から抱き締めるようにして、二人重なって座っている。

 ウーはぴかぴかの羊柄パジャマを、ちよはお客様用のローブを着ている。

 二人の目の前、台上の燭台は火を灯していた。

 ウーの巻き角は明滅できる。昨日の晩もそれで部屋を照らしていた。しかし今日は燭台で気分を変えてみたいと、ちよが言った。


「……ロウソクの灯りって、薄暗いね。けど温かい光って、なんか不思議な気分になっちゃうね」

「そうだな。……うん。いいな、こう言うのも」


 燭台は4つのロウソクを立てられており、今はその4つともに火が点いている。

 火で作られた明かりは、見ている人の心を癒やす。


「……お城には電気ないよね」

「うん。ないよ。無くてもやってけるからな。ナジャの工房には付いてるけど」

「ルクスの人は電気使ってるんだよね」

「うん。……そういや多目的トイレだっけ?アレもボタンが電動だったんだろ?紐を使ったカラクリで代用できそうなら、それで節約してもらいたいな」

「ダメだよ。ヒモをつかめない人もいるでしょ?」


 そんなヤツいるか?と思ったウーは、しかしすぐに考えを改めた。

 ――そうだ、腕が上手く動かない人や、無い人もいるんだ。


「……そうだな。うん。うちが間違ってた」


 そして、一瞬の静寂が訪れた。

 風の無い部屋で燭台の火が怪しく揺らめく。


「……ウーちゃんに、そっくりなあの子は誰なの?」


 そしてちよは聞いた。初めて聞いた時のウーの青ざめた顔を思うと、今までなかなか言い出せなかったことを聞いた。

 ウーは、緊張し固まって、ひと呼吸いれるとゆっくりと話し始めた。


「うちの、双子の妹、だと思う」

「……そうなんだ」


 ちよは予想できた答えにあまり驚きを覚えなかった。

 そっくりな顔といえば、まず双子が思いつく。

 しかし、続く言葉に声を失う。


「うちの、死んだ妹、いや死んだと思ってた妹、だと思う。……二人で、魔王をやってたんだ」

 

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