双氷
@asakiti
第1話 編入生
現在、日本では大小合わせ魔法科を有する学院は、1000を超える。その中のとある学園の一角で中庭に女性の声が響き渡っていた。
「逃げないで出て来てくださいよ。」
黒い大きな瞳が特徴的で、色素の薄い白い髪をポニーテールにした女子生徒が凍てつくような声を放っている。樹の裏に隠れてその様子を見ていた六夢冷士りくむれいじは、こうなった今までの出来事を思い返していた。
二時間程前。
「ここが魔法科か」
冷士は、巨大な西洋風の門をくぐり、校舎につながる大きな道を歩きながら、妹の話を思い浮かべていた。
(純白ましろの話だと生徒会室は、正面の校舎の三階中央だったな)
冷士は、二年生に進学しその日から自分が通う雷禅学園らいぜんがくえんの学科変更を行い魔法科に通うことになっていた。
清禅学園は、学園都市に存在する学園のひとつで、全国でも数の少ない魔法科と武術科、普通科と複数の学科のある学園である。
魔法科は、他の科とは違う場所に有るため感覚としては転校の方が近いかもしれない。
冷士の妹である純白の話によると生徒会室で学科変更の手続きがあるとの事だった。
(魔法科は、人が多いな)
手続きもあるので早く登校したつもりだったが学園は人で溢れていた。新学期ということもあると思うがもともと魔法科は、人数が多いようだ。
冷士の青い髪色のせいか先ほどからやけに視線を感じる。
「転校生の人かな?」
「青い髪って……」
あまり目立ちたくない冷士は、早足で生徒会室に向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
冷士は、妹の純白ましろに言われた正面の校舎の三階についたが廊下には同じような扉が無数にあった。
冷士は、とりあえず廊下の中間まで進みはしたもののどの部屋が生徒会室か分から無かった。しかたなく、冷士は近くの部屋からノックをして回ることにした。
3つ目の部屋をノックすると中から凛とした声が帰って来た。
「少し待って下さい、鍵今開けますから。」
中から足音が聞こえてくる、ガチャリと鍵を開けた音がして扉が開かれた。
「七宮ななみや先輩も朝の見廻り御苦労様です。先にシャワーを……」
中から出てきたのは白い髪をポニーテールに結んだ少女だった。ただひとつ問題なのがその少女の姿が下着にシャツを着ただけだったことだ。数秒二人とも無言の時間が続いた。
「なにいつまでも見てるんですか!」
「ご、ごめん。」
少女の声で我に帰った冷士は、急いで扉を閉めた。
冷士が訳も分からずにいると再び扉が開き、先ほどの少女が制服に身を包み出てきた。少女の両手にはそれぞれ拳銃が握られていて、殺気がにじみ出ていた。
「さっきはごめんね。生徒会室探してたんだけどここ初めてだから迷って。見るつもりは無かったんだよ。」
「わた……た。」
消え入りそうな小さな声で少女がしゃべった。
「え?」
「私も初めてでした。男の人に下着姿見られたの初めてでした!」
少女は泣きそうな顔をしながら大声で叫んだ。
「家族以外の男の人とはしゃべることも少ないのに。よくも、よくも見ましたね!」
少女は両手に持っていた拳銃をこちらに向け、引き金を引いた。
二つの拳銃から光線が発射されて冷士に襲いかかる。
冷士は、横に跳びこれを避けようとするが、一発目の弾丸が肩をかすめる。すると当たってもいないのに全身に電流が流れる。冷士に当たらなかった弾丸はそのまま窓を破って行った。
「避けないでください!」
もう一度拳銃を冷士に向ける。
「ちょっ、無茶言わないで!」
冷士は、室内では避け切れないと思い先ほど破られた窓から飛び降りそのまま近くの植木の影に隠れた。
「逃げないで出てきてください。」
冷士を追いかけけきた少女が静かに言った。
「今出てきたら許してあげますよ。」
にっこりとしているが少女からはいまだに殺気がにじみ出ている。
「全然そんな雰囲気じゃなんいんだけど?出ていったらパーンって撃たれたりするんじゃない?」
冷士が冗談を混ぜらがな返すと、冷士の隠れていた場所のすぐ近くに立っていた木が発砲音と共に地面ごと抉れて消えていた。
「次はここら一帯を更地にします。環境破壊はよくないと思うので早く出てきてください。」
冷士は環境破壊はそっちだろと思いつつ、せめて少女の怒りを治めさせなければと考えた。
そして、少女が別の方向を向いている間に木の影から飛び出して少女に肉薄する。
「なっ……!」
少女は冷士に気付き、迎撃するが左右に動きながら走る冷士に全く当たらない。冷士の間合いに少女が入った。下から右腕を振り上げ、少女の両手を払う。少女は両手を払われた反動で体制を崩した。その隙に冷士は少女の持っていた拳銃を殴り落とさ、足で蹴り遠くに飛ばした。
「手荒な真似してごめん。でも、落ち着いてよ。ここで争っても仕方ないでしょ?」
冷士が武器を無くし座り込む少女を諭すように言う。
「分かりっ……ました……。落ち着いて考えたらあれも事故みたいなものですしね。」
少女はまだ少し泣き顔だったが先ほどのとは違うにっこりとした笑顔で言った。
「良かっ……」
「なので」
さらににっこり笑って少女は言った。
「私をお嫁さんにもらってくれるんですよね?」
「え?」
「私の下着姿見たんだから責任を取るのは当然ですよね?私の家大きな会社経営しているので将来には困らないですよ。ああ、別に大きな会社だからといって娘の婿に厳しい条件なんてないですよ。武器有りの私を倒したと伝えればお父さんも許してくれますよ。それに私の……」
「ストップ、ストップ。」
少女が妙に具体的な話を始めたので冷士が慌てて中断する。
「ちょっと話が飛躍し過ぎじゃないかな。まだお互い名前も知らないわけだし。」
「確かにそうですね。では、改めまして。私、夢大路ゆめおおじ華澄かすみと申します。現在二年生で生徒会に入っています。」
華澄と名乗った少女が冷士に恭しく頭を下げる。
「俺は、六夢りくむ冷士。俺も二年生だよ。よろしく。」
「では、お付き合いから初めて1年後を目処に籍を入れるという事で良いでしょうか?」
冷士が挨拶をし終えると間髪を入れずに華澄が聞いてきた。
「いや、何も良くないのだけど。」
冷士が焦って答えるものの、華澄は気にもせずに続ける。
「確かに、一年後は長すぎますね。半年程でしょうか?それで結婚式は何処で挙げましょうか?それぞれの両親にも挨拶しないといけませんね。」
今止めないと大変なことになると思った冷士が全力で止めようとする。
「今は付き合うとかましてや結婚とか考えてないから。別に華澄さんに魅力が無いと言うわけではないんだけど。今はちょっと考えられない。ごめん。」
このままでは華澄の勢いが止まりそうにないので冷士はキッパリ断った。華澄は、最初は訳がわからないと言った様子だったが次第に顔を赤くしていった。
「はは、そうですか、冷士さんは女の子を辱しめてその責任を取ることも出来ない男なんですね。」
そう言いながら華澄から目で見えそうな負のオーラが漂っていた。そして華澄は何もない空中に手を伸ばした。
《異空間収納・出》
次空間の保存室とは別の空間に物体を収納出来る魔法である。
華澄はそこから10を越える拳銃を取り出し、それらを無作為に地面に投げた。
「夢大路家の最新の魔法具です。私の下着姿の記憶を消すか責任を取るか、冷士さんの意見が決まるまで将来の妻候補としてゆっくり話し合いましょうか。」
華澄が言うと同時に拳銃がひとりでに動きだし、銃口を冷士に向ける。
「マジですか?というか、これ、俺自身が消えるんだけど。」
冷士が直感的にほんとに危険だと思い逃げようとするものの、それよりも速く拳銃が回り込み冷士の逃げる道を塞ぐ。拳銃が冷士を囲む。
「発射。」
華澄が呟くと同時に四方八方から魔力のこもった光線が襲いかかる。
《氷神の盾スヴェル》
光線が冷士の体を襲う直前大きな氷の盾が冷士の周辺に現れ、光線を防ぐ。
「この魔法は……」
華澄が驚愕の表情で呟く。
「いやはや、ずいぶん暴れてるねー。華澄ちゃん?うちのおにーちゃんと何してるの?」
華澄の冷士を挟んで反対側から水色の髪を肩ほどまで伸ばした少女が現れた。冷士の双子の妹の六夢りくむ純白ましろだ。
「会長から戦闘の仲裁を頼まれて来てみたらまさか、おにーちゃんと華澄ちゃんだったとはね。」
純白は、そのまま歩いて行くと冷士の横で止まった。
「華澄ちゃん、副会長が呼んでるよ。早く行かないと怒られちゃうよ?」
純白は華澄に呼び掛け、冷士の方を向いた。
「おにーちゃんも生徒会室に行かないといけないでしょ?ほら、早く行くよ。」
純白がそう言い踵を返し歩いていく。
「純白さん、ちょっと待って下さい。」
帰ってゆく純白を華澄が呼び止める。
「なに?」
不意の呼び掛けに純白が振り向くとまだ武装を解除していない華澄が立っていた。
「このままだと私……」
顔を赤くしながら華澄は叫んだ。
「冷士さんに責任を取ってもらません!」
「ちょっと、華澄さん!」
冷士は誤解されると思い訂正しようとするも後ろから凄い力で肩を握られた。
「華澄ちゃん、それどういう意味?」
笑顔になっていない笑顔で冷士の肩を握りながら純白は華澄に説明を促した。
「わ、私、初めだったんですよ。着替えてるときに冷士さんが……。純白さん、初めだったんです。」
華澄が涙目で純白にうったえる。
「ちょっ、その言いったい、痛い痛い!」
純白が冷士の肩をさらに強く握る。冷士の骨がキリキリと音をたてる。
「純白、痛い。誤解だから!事故だったんだ。」
「おにーちゃん、編入そうそう楽しそうだね。ま、話は生徒会室で聞くよ。」
純白は明らかに兄を見る目ではない目で冷士を見る。
「待って、そのセリフ警察が犯人諭すやつだから。」
「じゃあ、この場で責任とる?華澄ちゃーん、おにーちゃんの妹として私も責任とらせるの手伝うよ。」
妹の目が本気で殺しにくる目だと思い冷士は素直に生徒会室に連行されることにした。
「ごめん。行くから、生徒会室行くから。許して。」
最後は冷士が泣きたい気持ちで叫んだ。
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