第90話 悲恋の最終章㉗ 由紀子と音信不通

 昭和55年12月26日(月)大学は冬休み,突入しています。

煉瓦亭のバイトは30日まで、新年は1月4日から営業開始です。

ホテルのバイトは31日の毎年恒例のおせち料理の宅配を手伝う

予定なので、山梨への帰省は31日夕方以降の予定でいました。


あの事件からクリスマスを挟んで4日経過しています。恋人たち

には大きなイベントであるクリスマスさえも無視されていました。

仕方無いとは言え、なんかわだかまりの渦の中にいます。


 郵送とはいえ、俺の謝罪は届いてるいるのに、無視なのです。

やっぱり駄目かもしれない・・・嫌だという事を承知の上で

暁子さんとサヨナラ出来なかった自分の責任なのです。由紀子を

恨んでも仕方ありません。まさに、自業自得の結末なのです。


 もしかしたら由紀子のほうからは連絡が無いかもしれません。

受け入れるには応分の時間は必要だと思うのですが、なんか釈然と

しない宙ぶらりんな思考回路がグルグル回り・・・落ち着かない

時間を無為に過ごしていました。今夜もホテルでバイトなのですが、

予約で埋まっていた忘年会は完全にピークアウト、ちらほらいる

宿泊客の夕食とフリーのサラリーマン達だけ・・・暇な時間を

過ごしています。丁度レジ回りで伝票のチェックをしていた時です。


 電話が鳴りました。「いつもありがとうございます。レストラン源氏

でございます。」「こちら交換です。里中さんに外線から1番です」

「もしもし変わりました。里中です・・・なんか沈黙があるのです。

山梨のお袋かなと思い・・ね・・オカン?」すると「違います。わ・た・しです。

」由紀子からでした。「ねー貴方・・・意味深でしょ・・今の感じ・・・でも

山梨のお母さんと勘違いしていたところが、まだ、救いがあるみたいね・・・

もし暁子さんなんて言ったらそのまま電話きっていたわ・・・ねー聞いてるの?」

「由紀子・・・悪い冗談やめてくれよ・・・反省文は読んでくれたんでしょ・・・」

「何なの!あの文章・・・私と暁子さんが同じブランコ、ギッタンバッコン、

まったく、貴方という人はデリカシーのカケラも無いのね・・・比喩の仕方

間違ってるでしょ・・・私と暁子さんを一緒にしないで!」ほーら来た来た・・・

怒りの連発が早口で始まりました。こうした場面では視線を落として優しく

相槌を打つしかありません。経験則で理解しています。何を言われても今は我慢

・・・我慢・・「ねー貴方・・・聞こえてるの・・・か細い声で・・・うん・・うん・・・だけじゃ解らないわよ・・・それでクリスマスは暁子さんと仲良くしてたんでしょ・・・」「由紀子・・・そんな事するわけないじゃん・・・そこまで軽くないよ・・・そんな気持ちがあれば反省文なんか郵送しないよ・・・」

「ふーん・・・でも私、貴方の事、信用できないし許せない・・・」

「でもさ・・・こうして電話かけてきたんだから、まだ、救いの余地があるわけでしょ・・・」「最後のチャンスをあげようかなと思い電話したの・・・明日、岩手

に帰ります。でも見送りはいいわ!年明けは10日に上京予定なの・・・少しは

反省しなさい・・・」「ね・・・由紀子・・・上野駅までは見送り行かせてよ・・・

頼むから・・・」「今回はいいの・・・1人帰ります。いつも上野駅で泣いちゃうから・・・今回は里中の馬鹿野郎!と叫び・・・泣かないで帰ります。それと、貴方は今年も中学、高校の友達と白馬へスキーに行くんでしょ・・・ケガだけはしないでね・・・毎年同じこと伝えていたから、ケガの事だけはお願いしておくは・・・それじゃ・・・

来年また、再会できれば、きとんと更生したところ見せてください。」・・・


「俺って犯罪者みたいだね・・・更生だなんて・・・」「ねー貴方って・・・事の

重大さに気が付いてないでしょ・・・私がどれだけ傷ついているか?あの場所で

・・・初めて行った煉瓦亭で暁子さんに会ったのよ・・・これって消せない事実なの・・・まったくいつものお気楽ノーテンキなんだから・・・ちゃんと反省なさい!

じゃーあね・・・元気でね・・・山梨のお母さんにもよろしく言ってね!」

     そう伝えると電話が一方的に切れていました。

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