第89話 悲恋の最終章㉖ 1人ぽっちのクリスマス

 走り書きの由紀子への思いを郵送して、今日は12月26日(月)です。

23日(金)は煉瓦亭の忘年会でした。バイトを始めてまだ、3か月の新参者

ですが、オーナーでもある不動産屋の皆さんにも色々と目をかけてもらっています。

夜のバイトの皆さんとはすれ違いの連続でしたが、この忘年会を契機に4人もの

仲間たちが増えてました。大学2~3年の後輩たちですが、田園調布という場所柄

育ちの良い優等生ばかりです。彼らからは俺は異色で型にはまらない、自由人に

見える様子がありあり・・・「里中さん・・・お注ぎします。谷口と言います。

明治学院の3年です。よろしくお願いします。」「そうなんだ・・・明学なんだ!

都営浅草線の高輪台だよね・・・俺、次の泉岳寺のホテル東京でバイトしてるんだ」

そんな他愛もない話に大いに盛り上がります。仲良くなった仲間5人で自由が丘の

「かとりや」で2次会になりました。「ここの焼き鳥抜群に旨いですね。里中さん

・・・俺この店の常連になりそうです。」「安くて旨い店に案内できて嬉しいよ・・・渋谷のセンター街にある本店も最高だよ・・・」飲むほどに楽しく、恋愛談義に花が咲きます。「そうそう・・・煉瓦亭に来る山田さん・・・知ってますよね?

あの方、インテリアコーディネーターでやり手の28歳独身・・・里中さんのファン

だと聞いています。」コーヒーが旨い落ち着いた雰囲気が売りの煉瓦亭です。リピーターの皆さんは昼夜を問わず常連さんが多い店です。


 「山田さんの言葉を代弁すれば、里中さんって、気の置けない軽い感じと危ない感じ・・・でもどこか頭の回転が速そうな感じが同居していて、里中さんと話をしてるととても楽しいと伝えていました。」飲むほどに楽しくて明日の事を気にせず、久しぶりに深酔いをした忘年会でした。


 翌24日はクリスマスイヴでしたが、由紀子からは連絡が途絶えたままでした。

呼び出しの大家さんの家電もしってるはずですが、ドアを叩く音はなしです。

 「あーーあ 寂しいクリスマスイヴになりました。時計の針は午後7時です。」

やっぱり駄目か!・・・かなり厳しい状況だと推測できます。あの、バッティングさえ無ければ、1人だけのイヴはなかったはずです。去年はおじゃま虫の大友を交えて

由紀子の手料理で楽しいイヴを過ごしていました。

 今夜は1人だけ・・・人恋しくてやるせない思いが充満する部屋でウイスキーを

あおる駄目男の夜が更けてゆきました。

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