第73話 悲恋の最終章⑩暁子との出会い

手際よく「すき焼き」の準備をしている暁子さん


鼻歌まじりの作業です。「ね・・・里中君・・・カセットコンロの


準備お願い・・・あと・・・5分くらいで仕上がり・・・炊飯器も炊き上がり」」


見た目を重視した盛り付け・・・完璧な仕事をしています。


やはり結婚願望が強く、料理学校に通うだけの事はあります。


その意味では再確認した出来事でした。彼女主導ですき焼きの宴が始まりました。


旨いです。割り下は醤油、みりん、砂糖、そしてめんつゆを加えていました。


極上の牛肉です。「俺・・・こんなすき焼き初めて食べたよ・・・」


「だって、グラム¥1,000もしたんだから、美味しくなきゃ・・・


」文化スーパーの買い物代も¥10,000前後かかっていました。


俺が払うからと告げると・・・「いいのよ・・・バイトのし過ぎで病気に


なった貧乏学生さんからなんか、頂けません。大丈夫よ・・・日本信販て、


里中君の想像より遥かにいっぱいお給料もらってるから・・・」


「へ・・・・そうなんだ・・・ちまたの新卒サラリーマンが手取り¥12万前後・・・


それよりも多いんだ?・・・」「いいの・・・野暮なことは聞かないで、・・・


もう少し頑張れば¥20万かな・・・」ノンバンク系の信販会社は景気いいのかも


しれません。「俺・・・・もうダメ・・腹がはちきれそう・・・こんなにちゃんとした


夕飯食べたの久しぶり・・・」時計の針はすでに9時を回っていました。暁子さんは


片付けモードです。「ね・・・・里中君・・・私、今夜はこの部屋に泊まろうと


思ったんだ・・・でもこのシングルベット1つじゃ・・・私が邪魔して・・・治る


病気も悪くなっちゃうもん・・・今夜はゆっくり身体を休めてね・・・」


トイレで想像したシーンは見事に裏切られた感じです。なんか考えすぎ・・・安静


の通達があった病人とひとつ同じベットなんかどう考えても常識外れ・・・杞憂です。


片付けを終えた暁子さんが身支度を整えています。「明日、仕事だから・・・夕方、


6時半までにはアパートに来れそう・・・私が、夕飯作るからそのつもりでね・・・あと


冷蔵庫に中に牛乳もサンドウィッチもおにぎりもあるから、ちゃんと食べてね・・・・」


「駅まで送るよ・・・」「あなたは病人なのよ・・・私の事は気にしない・・・気にしない・・」


そうは言ってもと思い暁子さんを駅まで送りました。別れ際・・・「今夜は


もう休んでね・・・私は眠れないかもしれなけど・・・」


 翌朝・・・遅い目覚めでした。10時を過ぎていました。睡眠時間12時間です。


よく眠れた感じです。ただ、寝すぎで頭がぼんやりしてます。すべての窓を開け払い


何週間ぶりかの空気の入れ替え・・・お天気も雲ひとつない快晴です。こんな良いお天気


それも完全OFFです。部屋の掃除を・・・布団干しをして、たまった洗濯物もコインランドリーへ


病人らしくない行動をもくもくこなしています。なんと11日ぶりの完全休日・・・


昨夜、処方された薬を飲んで就寝・・・今朝はセキも左胸の痛みもひどくありません。


身体が楽だとじってしてることが無性にもったいなく感じられます。動いてるほうが


調子いいいじゃん・・・そんな感じです。遅めのブランチ、薬を飲んでお気に入りのカセット


を聞きながら・・・のんびりしてると・・・部屋のドアーがコンコンと2回鳴りました。


NHKかな・・・いや新聞屋・・・まあ・・・居留守を使う訳にもゆかず、部屋のドアーを


開けました。するとホテルの美由紀さんがきまずい表情で立っています。


「え・・・どうしたの?なんで・・・今日仕事でしょ・・・お休み・・・」


質問攻めです。「ね・・・里中さん・・・ここじゃ・・話できないから・・・」


「いいよ・・・俺ひとりだから・・・中に入って・・・」部屋は綺麗に片付いています。


座布団もあります。「そこに座ってよ・・・遠慮無用・・・」冷蔵庫からポカリをふたつ用意してテーブルの上に・・・「よく俺のアパートわかったじゃん・・・お見舞いに来てくれたの?」・・・美由紀さんが言葉を選びながら・・・「里中君の病気の事・・・電話のあとで・・・


山口課長が常務に報告・・・当然社長も知ってます。今朝、常務の指示で金子部長がこのアパートの大家さんに電話してあれこれ聞いていたわ・・・場所がどうだこうだ・・・道順が・・・


電話で20分くらい話していたみたい・・そして地図と道順を書いたメモを私のところへ・・・山口課長がもってきたの・・・金子総務部長の命令で里中の様子を見てこいだって・・・


金子部長は里中君を呼び出してもらいたくて、電話したようす・・大家さんが呼びだしに行くも応答なし・・・それで一挙に心配になり見に行け・・・なんで私なの?と思ったの・・・


 でも、業務命令だもん・・・仕事なのよ・・・里中君って社長、常務、金子部長の高校の後輩でしょ・・・

だからあんなに心配してるんだ・・・」「まあ・・・ね・・・勤続4年目のアルバイト長・・・下手な社員より仕事できるから・・・金子さんは常務の高校の同級生・・・山口課長は常務の片腕・・・

そんな関係・・・でも一介のアルバイトの分際でここまで目をかけてもらえると、嬉しい反面かなりの重圧を感じるよ・・・ます、ます、仕事で迷惑かけられない・・・」「それで病気の事を詳しく教えてよ・・・」メモを取りながら俺の話を丁寧に筆記してます。とても真面目です。字も綺麗だし、落ち着いてる雰囲気が妙に安堵する時間の流れでした。その後いつもの四方山話をして時間を過ごします。「里中君ってみんなに好かれてるのが良くわかるの・・・だって・・・


 今日のフロントは中村さんと礼子さんが日勤・・・二人ともずいぶん心配してたのよ・・・礼子さんなんか、ちゃんとメモとって聞いてくるのよ・・・私は責任重大なんだから・・・」不思議に年上の先輩からは可愛がられる存在でした。宴会のヘルプの叔母さんたちにも気安くしてもらって、仕事の面でもかなり助けてもらっていました。相手が喜ぶことを自然体でできるからかもしれません。


 もう3時ね・・・・「そろそろ帰ります。駅前のコンビニで適当に差し入れ買ってきたから、食べてね・・・差し入れは経費じゃないよ・・・わ・た・しからの気持ち」身支度を整えだしたところで、部屋のドアーがコンコン。「あ・・・大家さんかな・・・朝方、何か音がしたけど、意識不明で寝てたから・・・」ドアーを開けるとなんと暁子さんでした。「玄関のパンプスを確認・・・女のひとなのね・・・」小さくとがった声でした。そして「岩手の由紀子さんでしょ・・・」と告げて


小走りに階下へ・・・「美由紀さん・・・すこし待ってて・・・」急いで追いかけます。


誤解じゃん・・・何言ってるんだ・・・どうしてこうなるの・・・なんで・・・なんで・・・・


 小脇に抱えたバックが激しく揺れています。たくさん食材が入ってる感じです。


夕方6時過ぎ・・・でもまだ、4時前・・・交差点で追いつきました。目に涙があふれています。「ね・・・・聞いてよ・・・由紀子じゃないよ・・・あいつパンプスなんかめったに履かないから・・・バイト先の子が上司の命令で様子見に来てくれたんだ・・・」


「いいのよ・・・そんな言い訳聞きたくない・・・今日は帰ります。」振り向きもせず、駅歩面に駆けてく彼女がいました。最悪のバッテイング・・・どうしてこうなるのかな?


部屋に戻ると美由紀さんも「な・・・んか・・・私もお邪魔むし・・・岩手の彼女さんでしょ・・・


いいの・・・連れて帰らなくて・・・大丈夫なの・・・」「違うんだ・・・由紀子じゃない・・・


 煉瓦亭の大切なリピーターさん・・・しかも大学の同級生の友達・・・・飲み会で親しくなり昨日も病院に付き添いしてくれた人・・・」「どっちでもいいけど・・・やっぱり遊び人なんだ・・・」


「どう思われても仕方ないけれど、そんなに深い関係じゃないよ・・・」


「私もすごく心配して損した気分・・・もうプンプンです。」


 しばし沈黙がありました。彼女は明らかに気まずい様子・・・俺・・・駅まで送るよ・・・


この部屋にいると気が滅入るから・・・道すがら・・・「私が心配したのは事実よ・・・


 里中君ってなにかほっとけない要素をたくさんもってるのよ・・・母性本能をくすぐられる気分になってしまうの・・・ただの心配じゃなくて居てもたってもいられないそんな気分に追い込まれてしまうの・・・ほんと不思議な感性をたくさんもってる人・・・・だから・・・

 女の子の影がいつもチラチラするんだ・・・その意味では私もその中のひとりかもしれない・・」


 なんかよく観察してる・・・ほんと分析とうりかもしれない・・・その場の雰囲気作りが上手くて賑やかで気が置けない自由奔放な性格が得してるかもしれない・・・


「ね・・・里中君・・・ちゃんと治してね・・・そして1日も早くホテルに復帰してね・・・


今日の事、全部きちんと報告しておくわね・・・女の子が訪ねて来たことは言わないからご心配なく・・・それじゃ・・・お大事にね・・・」彼女は改札に消えてゆきました。


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