第39話 引っ越し前日 思い出を辿る

 この夜バイトから帰宅したのが、AM12;00少し前

でした。

彼女の部屋の灯りは消えていました。いつものとうり

自室のドアーに白いメッセージが挟まっていました。


「貴方・・・お帰りなさい・・・バイトご苦労さま・・・・お弁当の準備はOKよ・・・明日の朝はAM8;30に起こしにゆくので、今日は、早く寝てください。私も今夜は疲れたから、早めに寝ます。PM11;00 由紀子」


 そうか・・・もう寝たんだ・・・事務所でナイトのフロント係と無駄話し

をしていたので、遅くなってしまいました。

AM8;30に迎えに来る・・・それじゃ・・・目覚ましはAM8;00のSETでいいか・・・

 早めにベットに入り、TVをかけたままで深い眠りについてしまいました。


 けたたましい目覚ましのベルで起床です。AM8;00でした。


さあ・・・起きよう・・・洗顔、歯磨きの為に階下に降りゆくと、由紀子が

仕上げたお弁当を耐熱容器に綺麗に詰めていました。

「おはよう・・・朝から、頑張ってるね!」

「おはよう貴方・・・ちゃんと起きられたのね・・」

「うーん・・・前回、自由が丘の不動産屋に一緒に

行くときに寝坊して、散々だったから・・・目覚ましのテストをして寝たんだ

!学習効果バッチリさ・・・」


 白いプレートに乗せられた、いなり寿司から

ほのかな酢の香りが漂っています。ほんとに美味そうなのです。

「あのさ・・・このいなり寿司1ケ味見させてよ・・・」

「だーめ・・・絶対駄目!」

そっけない返答でした。フライパンで炒めたウインナー、そして卵焼き

キンピラゴボウも皿の上で、容器の中に納まる順番を待っています。

歯磨きをしながら、この光景を見ていました。台所の反対の洗面所で

洗顔をして顔をあげると、鏡の中から、彼女が消えていました。

 

 自室に何かを取りにいったみたいです。チャンスとばかり、プレート上

のいなり寿司を口の中に放りこみました。うーん、なかなかの味わい

です。料理も得意で自慢することだけはある力作でした。


 すると彼女が台所に大きめの耐熱容器を持ってきました。いなり寿司

を入れる容器が小さいので、大きいのを持ちに行ったみたいでした。

5ケづつ2列に並んだいなり寿司が1ケ足りません。一目瞭然です。

「ねー貴方・・いなり寿司が1ケ足りないの・・・貴方でしょ」

と告げられた時には、右足を思いきり踏まれていました。


「痛ってえー」

「つまみ食いは駄目よ・・・って言ってるのに、食べた罰よ!」

「ごめん・・・ごめん・・・でも、とても美味かった・・もう1ケ食べたいくらいなんだ・・」

「ねー貴方・・・私の傍にいて邪魔しないで・・・

早く、部屋に戻って出かける支度をしてよ・・・8;30には出発したいんだから・・・お願い・・・」


イライラしてきた態度です。ここにいるとたぶんロクな事にはなりません。


「解ったよ・・・支度して待ってるから、ドアを叩いてよ・・・」

と告げて自室に戻りました。

 南の窓を開けて、朝の空気を部屋中にいれます。

ここのところほんとに穏やかな晴天が続いています。

 きょうも素晴らしいお天気になりそうです。


 TVドラマで放映される新婚家庭の風景が朝の出来事にありました。

今日も何か、いいことがありますように・・・しばらくボンヤリしていると

30センチほど開けておいた、ドアから彼女の声です。


「貴方・・・お待たせ・・・出かけるわよ・・・私が先に下宿を出るから、

少し、後から追いかけてね・・・」

 明日、引越しなのに、まだ、大屋さんの視線を感じているんだ・・・

そんな事を思いながら、窓を閉めて、部屋の鍵をかけました。

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