第22話 調子こいてゲロンパチ、part3

 悪酔いに悪戦苦闘・・・黄色い胃液は大学に入学して2度目

の経験でした。 

 所属していたサークルの夏合宿が、信州、白樺湖湖畔で

2泊3日で開催されました。当然、学部横断の雑多な

学生の集団です。1年ですから、同じ文系の先輩(法学部)は

何かと目をかけてくれますが、理系の先輩は半ば、ヤキモチも

あり、合宿最終日の打ち上げの宴席で、飲めない日本酒をドンブリ

に注がれ、「里中君・・・俺の注いだ酒が飲めないの?」脅しじゃなく

真綿で首を締めるように、ジワジワと責められ、合計ドンブリ2杯の

日本酒を飲まされ、その夜と翌日が激烈な二日酔いのハメに・・・


 湖畔の宿の和室の隅で洗面器を友に1晩中、こみ上げる具合

の悪さに一睡もできませんでした。この合宿の打ち上げで

先輩たちのエジキにされた1年生男子が5名が「ゲロンパチ」部屋と

ネーミングされて同じ部屋に閉じ込められました。まさに、破天荒な

合宿物語でした。


 この時以来の黄色い胃液事件になってしまいました。

1時間前後、ウトウトするとまた、具合が悪くなります。喉が渇いて

水を飲むと、それが温まるころ、逆流する現象でした。彼女は自室に

戻らず、俺の傍についてくれています。ウエッーという低いうめき声

がめざまし代わりになり「ねー貴方・・・大丈夫と」背中をさすり洗面器を

用意します。この繰り返しが続きます。明け方、トイレに行くため、掛時計を確認するとAM4;00を過ぎていました。


 彼女は炬燵のテーブルに顔を伏せて眠りについていました。

押し入れから小さな毛布をだして肩からかけてやりました。

2月中旬の明け方です。炬燵に電気が入っていても室内はかなり

冷えこんでいました。


 「俺の為に、ずいぶん迷惑かけちゃったよな・・ゴメン」そんな言葉つぶやきなが部屋を出ました。用を済ませ、口をゆすいで顔も洗いました。

 気晴らしに玄関を開けて戸外に出て見ました。

下宿前の街灯だけが、異様に明るく、その一帯だけが、暗闇の中に

浮かぶステージに似ています。両手を空に突き出して、大きく深呼吸・・

ひんやりとした外気が身体を包んで行きます。悪酔いの後遺症は

あるものの、気持が落ち着く時間でした。しばらく外にいて、部屋に

戻ります。


 ドアーをパタンと閉めた音で彼女がテーブルから顔を

上げました。眠そうな顔です。「ねー貴方・・・何してたの・・・まだ・・・

具合が悪いの?」「うーん・・・トイレに行って来ただけ・・」


「大変だったのよ・・・貴方の苦しそうな姿を見ているのが、ほんとに

辛かったのよ・・・代われることが出きれば、代わってあげたいと思ったの・・・

背中を一生懸命さすりながら、岩手のこと、思い出しちゃったの・・・」

 「私が高校3年生の秋だったかな?お父さんが、地元の神社の役員

をしていて、秋の収穫祭りでお酒のみ過ぎて、ベロンベロンで帰ってきたの・・・玄関のとこまで来て、靴を履いたまま廊下に倒れこんだの・・・

そのまま大の字で動かないの・・困った、お母さんが私を呼んで、居間

まで引きずり込んだんだけど、今日の貴方と全く同じ・・・お母さんが

洗面器片手にお父さんの背中をさすっていた気持がよーく解ったわ・・」

「私はお母さんに言ったのよ・・・こんなにたくさん飲んで、家族に

迷惑かけて・・・こらしめる為にもほっとけば・・・いいのよ!」

「でもお母さんは私のことなんかまるで無視して、黙って介抱してるだけ

なの・・・私、悔しいから、お父さんみたいな酔っ払い人間嫌い・・・

お酒を好きな人とは絶対結婚しない・・・でも・・・今、お母さんの気持

が解るな・・・」

 なんか心に響く彼女の言葉でした。

「由紀子、俺のせいで、ごめん・・・」「ねー・・・貴方が気にする必要ないのよ・・だって私は、貴方の事だから好きだから・・・全然、大丈夫よ・・・」


「ねー貴方・・・ずいぶん楽になった感じだけど・・」

「うーん、かなり落ち着いたし、トイレにいったついでに外の空気を吸った時、気持が良かったから・・・だぶんもう吐くようなことないと思う・・・」

「じゃあ・・ベットで一緒に寝てもいいよね・・」と言いながら、ジーパンとセーターを脱いでベットにもぐりこんでいます。何ともタイミングのよい早業でした。

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