第4話青の狙撃者

 

 体育館2階、ギャラリーはしの窓を突き破り現れたのはただの少年ではなかった。

 低い身長、中性的で整った顔。

 澄んだ青い瞳は無感情で、その目と同色の髪は背中まで伸びていた。

 だが今この瞬間、それはしたる異質さを持っていなかった。


 特殊攻撃魔導部隊―――世界の変質後現れ始めたクリスタルモンスターの殲滅、及びテロ等の凶悪事件処理を目的として創られた、魔法戦闘特化の国際組織。


 通称・特魔部隊。

 事もあろうか、その組織特有の漆黒のロングコートを、青髪の少年が身に纏っていたのだ。


「特、魔…部隊…ッ?」


 俺と同い年、くらいだろ…!?

 何でそんな奴が……。


「……応答、こちらレイン・バレット。負傷者2人…いや、問題ないNo problem。俺がやる」


 右腕に装着されていた黒光りした腕輪に右手を触れさせ、少年は何かを喋っていた。

 ―――レイン…バレット……。あい、つの…名前…ッ?

 時間が経つにつれ微睡まどろみの海へと意識が溺れてゆく。

 それを気力の鎖でやっと繋ぎ止めていた俺には、その名だけしか聞き取れなかった。


「――――――!」


 クリスタルモンスターの耳をつんざような咆哮。

 俺が壊した奴の両鎌は既に再生が終わりかけていた。

 レインという少年は、その声に反応し、しかし落ち着いた様子をクリスタルモンスターへ視線を向けた。

 直後、クリスタルモンスターがギャラリーへ跳躍。

 自身に迫り、鎌を振り被るその蟷螂の化け物を見ても、やはりレインは表情を崩さない。

 どころか、何故か、俺を一瞥し、た…?


「…え?」


 その疑問は一気にして消し飛ぶはめになった。

 鎌がレインを切り裂く直前、レインはクリスタルモンスターの頭上へ瞬時に跳躍、頭に着地。


「―――縛れ、水魔法・水のWaterchain


 言葉と共に、青く輝く魔法陣が宙に4つ出現。

 刹那、水の鎖がそれぞれの魔法陣より飛び出し化け物を空中で拘束した。

 …あの化け物を、苦も無く止めた、だと…?

 そして、レインは奴の頭から背中に跳躍、間髪入れずにそこから地面へ飛び下りる。

 着地を決めたレインはこちらに歩み寄り、俺のすぐ側で横たわる爺ちゃんを見た。

 その近くに来てかがみ、爺ちゃんの体を仰向けにした。

 爺ちゃんは気絶していた。

 不意に、レインが懐から黄色く細長い紙を1枚取り出す。

 その紙の中央には、赤い魔法陣が描かれていた。

 何の紙か分からないまま、それが青い魔力に包まれた。

 レインはそれを爺ちゃんの傷口に置き、直後―――傷が塞がり始めた!


「………ッ」


 驚く一瞬、しかしその心のさざ波も安堵によって直ぐに凪ぐ。

 それと共に、意識が遠ざかり―――だが、瞬時に引き戻された。


「…お、…い…ッ!」


 俺の前方、立ち上がったレインの背後、魔法の鎖の拘束から抜け出したクリスタルモンスターが、ギャラリーの上で息を殺しを待ち構えていたのだ。

 上がる心拍数、駆られる焦燥感、冷や汗が全身から噴き出して来た。


「…おいッ……」

「問題ない、お前も直ぐ治す」


 違う、違う違う、そうじゃないッ…!

 何で気付かないッ。


「…お、いッ、って……!」

かすな」


 狙われてる、後ろ向け。

 その一言が焦りで出て来ない。


「―――お、いッ!」

「…あぁ、そうか。…応答」


 何呑気に通信なんてしてんだッ。

 殺される、死ぬんだぞ…?

 畜生、畜生、動け俺…!


 だが、刹那。


 クリスタルモンスターが、レインの元へ矢の如き速度で向かって来―――。

 後ろを振り向いたレインが腰のホルスターから銃を右手で取りクリスタルモンスターの顔面を撃ち貫いたとほぼ同時、

 そして、青の二重線の入ったその銀色の銃をホルスターへと戻した直後。




「―――対象を破壊。任務Mission完了 complete


「……んなッ…!」


 言葉を、失った。

 あれだけ脅威を感じていた敵が。

 力の限り抗っても勝てなった化け物が。

 物のついでのような一撃で、簡単に粉々なったのだからッ…。

 ―――ここまでッ…、ここまで違うのかよ…ッ。


「…んのっ、くそ…ッ、た……れ………」


 そんな感情も、これ以上のダメージの麻酔薬して体が受け付けず。


 俺の意識はそこで途切れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る