幽ターンダッシュ!

小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ

8月16日。お盆の最終日。

 わしが死んで、はや半年。この家族もどうなることかと思っていたが、うまくやっていけているようじゃな。

「お盆も明日で終わりだね、じゅんちゃん」

「じぃじも楽しんでくれたかなあ?」

「きっと大喜びだったと思うよ。だってじゅんちゃんがお盆の準備、手伝ってくれたんだもの」

 うんうん、わし大歓喜じゃった!

 初孫の純一が丹精込めてこしらえてくれた、キュウリの馬とナスの牛!

 まだ五歳なのにあれだけ器用なら、将来は伝統工芸士にだってなれるはずじゃ!

「おーい、多恵子、純一。そろそろ暗くなるから、送り火やるぞー」

 今のは恵介くんの声か。ふむ、なかなか父親然とした顔つきになってきたようじゃな。多恵子が初めて彼を連れてきたときは「こんな若造に任せられるのか?」と不安で仕方がなかったもんじゃが、杞憂で済んで良かったわい。

 ベランダへ向かう三人。そしてそれを追うわし。狭い家だからすぐに追いつける。

 しかし、こんなウサギ小屋みたいなマンションに住むより、わしの家のほうがよっぽど広かったと思うが……。築五十年とはいえ、まだまだ住める物件じゃった。三人でずっと住み続けてくれたらよかったものの、わしの四十九日が終わった直後に、いきなりあの家を売りに出されたときはたまげた。何がそんなに嫌だったんじゃ……。だいたい、あの家はわしが汗水垂らして稼いだ金で買ったもんじゃぞ。それを無慈悲に売っぱらうとか、温厚なわしでもさすがに堪えた。

 若いもんは新しいもの好きなんじゃろうか。でもウチなら広い庭もあったけどなあ……。

「多恵子、素焼きの器は持ってきた?」

「うん。もう『おがら』も入れてある。あとは火を付けるだけだよ」

 愚痴をつぶやいてるうちにもうこんな時間か。

 わしが死んでいろいろあったが、初めてのお盆そのものは最高の一言に尽きる。

 飾り付けもきっちりやってくれたし、こうして送り火まで準備してくれたんじゃ。純一、多恵子、恵介くん。三人の深い愛情を、一身に感じ取ることができたわい。

 送り火の灯りが消え、ついにお別れの時間がやってきた。

 わしもそろそろ、霊界に還る時間じゃな。

「ねぇ、じぃじはどうやってあの世に戻るのー?」

 おお、純一。じいちゃんはな、霊界ハイヤーで黄泉比良坂よもつひらさかまで乗せていってもらうんじゃよ。値は張ったが、これが一番確実なんじゃ。

「おじいちゃんはね、じゅんちゃんが作った牛さんに乗って帰るの」

「えー、なんでー? 来たときはキュウリのお馬さんだったのに?」

「ご先祖様にはね、お馬さんで出来るだけ早く来てもらって、帰るときは牛さんに乗ってゆっくり帰ってもらうの」

「あっ、その方がお盆を長く楽しめるからかあ!」

 純一は賢いなあ! そうそう、昔からそういう言い伝えがあるんじゃよ。

「じゃあ、おじいちゃんは今頃、ぼくが作った牛さんに乗ってるのかな?」

「きっとそうだよ。おじいちゃん、じゅんちゃんが大好きだったからね」

 あー、もしもし。わしじゃ。霊界ハイヤーさん? 急で悪いんじゃが予約をキャンセルさせてもらってもいいじゃろうか?

 なに? こんな時間でどうやって還るって?

 孫の作った牛でに決まっとるじゃろうが!


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