第25話 ソラマメのうえに裸で寝たお姫様
むかしむかし。
ある山の奥深くに、豊かな王国がありました。
王様とお后様はすでに亡く、若い王子様は、まだ婚姻を交わしてはおりませんでした。
「父や母に、私の婚礼を見せられなかった事が、悔やまれる」
「王子よ、これからでございます」
執務長から慰めの言葉を受ける王子は、金髪碧眼高身長の細マッチョでシックスパックな、イケメン青年でした。
誰が見ても、一目で王子だと解るほどの気品を漂わせる人物なので、王冠いがいは裸族です。
この素晴らしい王子の婚姻相手を探しているものの、相応しい相手がなかなか見つからない事が、執務長にとって唯一の悩みでもありました。
ある嵐の夜の事。
「さて、明日の公務の為にも、今宵は休む事としようか」
「御意」
王子が寝室へ向かう途中で、門番の兵士たちが、慌てて報告にやってきました。
「どうしたのだ?」
執務長の問いに、兵士たちが答えます。
「たったいま、門をたたく音が聞こえまして、門の外を確かめましたところ、一人の少女が佇んでおりました」
こんな嵐の夜に、少女が一人、山で遭難したようです。
「それは大変だ。すぐに、広間へと通しなさい」
王子の命により、少女が広間へと招かれました。
「なんと」
対面した少女に、王子は、強く興味を引かれます。
腰まで届く長い金髪がサラサラで美しい少女は、大きな瞳に整った眉、長い睫毛に優しい眼差し、細い鼻筋に小さな唇と、高貴で神秘的な面立ちでした。
少女は、王子への挨拶を捧げます。
「私は、東の国の王女です。護衛の兵士たちとともに山へと入ったのですが、道に迷ってしまい、更に供の者たちともはぐれてしまい、一人 森の中をさまよっておりました。やがて日も暮れ、足も疲れ、風も強まり雨も降りだし、心が挫けてしまいそうになったとき、このお城を見つけました。供の者もなく無礼であると存じますが、なにとぞ、今宵一晩の床を、お許し戴きたく…」
少女の神秘的で高貴な雰囲気から、王子も、いずこの姫様やと感じておりました。
立ち居振る舞いなども全て、一目見ただけで姫君とわかる少女だからでしょう。
姫様は、頭にささやかな金の冠を乗せただけの、全裸でした。
「ご事情はわかりました。早速、食事と湯とベッドの仕度をさせましよう。今宵は我が城で、どうか おくつろぎください。東の国には、早馬で知らせを出しましよう」
「ああ…ありがとうございます。王子様」
こうして、東の国の姫君は、温かい食事とお風呂を戴き、温かいベッドで休むことができました。
翌日、全裸の王子は共に朝食を戴くために、姫君を朝食へと招きました。
「東の国の姫様、お早うございます」
「王子様、お早うございます…」
全裸でやって来た東の国の姫君は、すこし疲れが取れていない様子です。
食事を戴きながら、全裸王子は全裸姫に、尋ねました。
「昨夜は、ゆっくりと休まれましたか?」
王子の問いに、姫君は少し言いづらそうに、しかし正直に、話しました。
「申し上げにくいのですが…ベッドの下に、なにか小さな異物が紛れておりました…。寝返りをうつたび、それが体に当たって、気になってしまい、あまり ゆっくりとは休めませんでした」
やがて東の国から、姫君のお迎えの一団が到着しました。
「それでは王子様、お世話になりました。このお礼は、いづれ」
「東の国の姫様、どうかまた」
馬車に揺られて去ってゆく全裸の姫と、全裸の王子は、いつまでも見つめ合い、見えなくなるまで見送ります。
王子は、執務長に告げました。
「フカフカの敷布団を十三枚かさねて下から二枚目に紛れ込ませた一粒のソラマメに気づくとは、正真正銘の姫君に違いない。あの姫君こそ、私の妻に相応しい」
「王子よ、仰る通りでございます」
こうして、全裸王子は東の国の全裸姫を婚姻相手として迎え入れ、王座を継承し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
~終わり~
La 童話 八乃前 陣 @lacoon
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