第8話 おむすび こロリん

 むかしむかし。

 山間の村に、木こりの老夫婦が住んでおりました。

 お爺さんは毎日、お婆さんが作るオニギリを持って山に入り、木を切って薪にして、売っていました。

 二人は決して裕福ではありませんでしたが、毎日一緒で幸せでした。

 今日もお爺さんは、薪のための木を切って、お昼になったので一休みです。

「さて、婆さんが作ってくれたオニギリを食べるとするか」

 切り株に腰を下ろし、膝の上で包みを広げたら、オニギリが一つ、ころころと転げ落ちてしまいました。

「ああ、オニギリが」

 緩やかな斜面を転がったオニギリは、人が入れそうなくらい大きいのになぜ毎日来ていて今まで気づかなかったのか、というくらい大きな縦穴に、転げて消えてしまいました。

「オニギリ一つ、ダメになってしまったなぁ」

 ガックリしながら穴を除くと、奥から、可愛らしい歌声がたくさん聞こえてきました。

「「おむすび こロリん うれしいな」」

「「おむすび こロリん うれしいな」」

「おや、穴の中から子供たちのような声がするぞ。オニギリを喜んでいるみたいだな」

 そう思って、お爺さんはもう一つ、オニギリを落としてみます。

「「も一つ こロリん うれしいな」」

「「も一つ こロリん うれしいな」」

 やっぱり、オニギリを喜んで、歌っていました。

「可愛い歌声だなあ。いったい、どうなっているのだろう」

 不思議に思ったお爺さんは、穴の中へと潜ってみます。

 すると中には、たくさんのネズミがおりました。

 ネズミたちはみな、ネズミ耳にネズミ尻尾、ネズミグローブとネズミブーツだけを身に着けた、裸の少女の姿をしております。

 お爺さんは、驚きました。

「なんと、ここはネズミたちの巣だったのか」

 裸の少女っぽいネズミたちは、オニギリを囲んで祝い踊り、杵と臼で餅にして、ついておりました。

「「おむすび こロリん うれしいな」」

「「おむすび こロリん うれしいな」」

 少女ネズミたちの歌や踊りは楽しくて、お爺さんはネズミたちと一緒に、お昼ご飯を楽しみました。


 家に帰って、お婆さんに、昼間のネズミたちの話をします。

「おやまあ、それは可愛いネズミたちでしたね」

「ああ。木こりの仕事も、楽しく出来るというものだ」

 翌日から、お爺さんはお昼になると、ネズミたちの巣穴にオニギリを転がします。

「「おむすび こロリん うれしいな」」

「「おむすび こロリん うれしいな」」

 お爺さんも、裸のネズミ少女たちの歌と踊りを、楽しみました。


 そんなある日、いつものようにオニギリを転がすと、いつものような歌声が、聞こえません。

「おや、どうしてしまったのだろう」

 お爺さんが心配していると、巣穴から、ネズミ耳とネズミ尻尾、ネズミグローブとネズミブーツな、裸の少女ネズミたちが出てきます。

「お爺さん。いつもおいしいおむすびを、ありがとう」

「ワシも、みんなの歌が聞けて、楽しいよ」

 少女ネズミたちが、何か大きな箱を、お爺さんに差し出します。

「おや、何だい?」

「いつも美味しいおむすびをいただいている、お礼です」

 お爺さんが蓋を開けると、中には、たくさんの黄金の塊が入っておりました。

「こ、これは」

「わたしたちの巣の奥で見つけた、黄金です。わたしたちは、貨幣経済社会でも、金本位制でもありませんので、食べられない金塊とか、無意味です。どうぞ、お爺さんとお婆さんで、受け取ってください」

「そうかい、ありがとう」

 それから、お爺さんとお婆さんは、裕福に幸せに暮らしました。

 そして毎日、二人で山の巣穴にオニギリを転がしては、裸のネズミ少女たちと歌い踊り、楽しく過ごしたそうな。


                        ~終わり~

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