第3話 シンデレ裸
むかしむかしの、ある王国でのお話です。
城下町の富豪の屋敷に、金髪碧眼の美しい少女がおりました。
いつも体中に灰を被って汚れている少女は「シンデレラ」と呼ばれています。
シンデレラとは「灰かぶり」という意味です。
名前ではなく、灰かぶり、と呼ばれる程ですから、少女自身がいかに美しくとも、灰かぶりを覆すほどの超絶個性などは、持ち合わせていなかったのでしょう。
ですので、シンデレラは灰だけを全身にまとった、全裸でした。
美しい金髪はボサボサで、八頭身に巨乳に括れに巨尻という、とても恵まれた裸体にはしかし、灰だけが張り付いて汚れています。
シンデレラの母は、少女が幼い頃に病気で亡くなり、交易商でほとんど家にいない視力の悪い父が再婚した継母には、シンデレラよりも年上の義姉が二人、おりました。
平均的に見て、まあ美人と言えなくもない事もないかもしれないかもしれない継母と、平均よりも確実に恵まれていない義姉たちは、シンデレラに辛く当たります。
「これ灰かぶり、早くかまどの掃除をしなさい」
「灰かぶり、早く食事の支度をしなさい」
「灰かぶり、洗濯はどうしたの」
「はい、お継母様、お義姉様」
継母や義姉たちは、家の仕事を全て少女に押し付けて、自分たちは着飾ってティータイムを楽しみ、オシャレを楽しみ、買い物を楽しみ。
対してシンデレラは、朝早くから家の掃除や食事の仕度、洗濯など、夜遅くまで働かされて、着る物すら与えられませんでした。
「お母さん…どうして死んでしまったの?」
少女は、物置小屋に置かれた藁だけのベッドで、魅惑的な裸身を照らす星を見上げながら、涙を流すのでした。
そんな境遇でも、少女は優しさを失ったりはしません。
毎朝やってくる小鳥たちに、自分の少ないパンを分け与え、小鳥たちの歌声に心からの微笑みを浮かべました。
そんなある日、お城で近々、ダンスパーティーが開かれると、御触れが出ました。
「見て、お母様。ダンスパーティーでは、王子様が婚姻相手を探すそうよ!」
「まぁ、なんて素敵なパーティーでしよう!」
「お前たち、なんとしても、王子の心を射止めるのです!」
お城でのダンスパーティー。
なんて素敵な、心躍る響きでしょう。
「私も、ダンスパーティーに出て、一目で良いから王子様を拝見したい」
シンデレラは、平均には決して届かない容姿であろう継母に、お願いをします。
「お継母様。私も、ダンスパーティーに参加したいです」
灰をかぶった裸少女のお願いを、継母は笑います。
「おやおや、灰しかないお前が、どうやってダンスパーティーに参加するんだい?」
餓鬼の身体に芝刈り機を乗せたような容姿の義姉たちも、笑います。
「だいたい、お前は綺麗なドレスなんてない、裸じゃないのさ」
「裸に灰では、お城の衛兵たちに取り押さえられて、恥をかくのがせいぜいだわ」
灰をかぶっただけのダイナマイトボディーな裸少女は、ダンスパーティーに参加できそうには、ありませんでした。
ダンスパーティーの当日。
陽が沈むと、性格の悪さを隠せない面立ちな継母たち三人は、綺麗に着飾って、お城へと向かいます。
「いいかい灰かぶり。わたしたちが帰ってくるまでに、今いいつけた用事を、全て終わらせるんだ」
「はい、お継母様」
一人、お屋敷に残された少女は、悲しく返事をしました。
お城の輝きが、城下町から見えました。
全裸で庭掃除をする少女は、お城を見上げて、悲しみに大きな瞳を濡らします。
「せめて、王子様を一目でも…」
そんな少女の前に、帽子やマントをシッカリと着込んだ魔女が現れました。
「こんばんは、シンデレラ」
「まあ、あなたはだあれ?」
「私は魔女。シンデレラ、真面目で心優しい少女。あなたも、お城のパーティーに出たいのですね」
魔女の帽子や肩には、小鳥たちが寄り添ってます。
「はい。ですが私には、綺麗なドレスも着る物もありません。家のお仕事も、いっぱいあります」
哀しみにくれる少女に、魔法使いは言いました。
「いつも真面目なお前に、ご褒美をあげましょう」
そう言って魔法使いが杖を振ると、七色の光の粒が、起伏に恵まれた少女の艶々な裸身を包みます。
光が収まると、少女の身体からは灰が全て落とされ、美しい金髪は整えられて、頭には小さなティアラが乗せられておりました。
足元には、ピカピカなガラスの靴。裸だった全身には、キラキラと輝く、透けるガラスのドレスが纏われておりました。
「まあ、なんて美しいドレスなのかしら」
更に魔法使いが杖を振ると、猫たちがイケメンな執事に、庭のカボチャが立派な馬車に、ネズミたちが行者と白馬へと変わります。
「さあシンデレラ、この馬車で、お城に向かいなさい。家の仕事は、この猫たちが全て片付けておきましょう。ただし」
魔法使いは、注意します。
「この魔法は、夜中の十二時で解けてしまいます。いいですか、十二時の鐘が鳴り終わる前に、必ず戻ってくるのですよ」
「はい。ありがとう、魔法使いさん」
美しく透けるガラスのドレスで着飾ったシンデレラは、輝くような立派な馬車で、お城へと出発しました。
お城では、国中の富豪や貴族の娘たちが集まって、ダンスパーティーが行われておりました。
どの娘も王子の心を射止めようと、美しく着飾り、王子に挨拶をし、ダンスの申し出を心待ちにしています。
しかし、背が高くて細マッチョな金髪碧眼の王子様は、どの女性たちにも興味を示しませんでした。
「みな美しい女性たちだが、瞳の中に、金貨や宝石、権力の座が見える。私の心は動かない」
そんなパーティー会場で、王子は一人の少女に視線を奪われます。
金髪の美しい少女は、ボンキュッボンな裸身に全透けなガラスのドレスを着飾って、壁際で控えめに立ち尽くしておりました。
「おお、なんとステージの高いレディーなのだろう」
強く興味を惹かれ、一目で心奪われた金髪碧眼の王子様は、自ら歩み寄り、少女の前に膝を折ります。
「眉目麗しいレディー。どうかこの私と、踊ってはいただけませんか」
「はい」
少女は頬を染めて、王子が差し出した手を取ります。
二人がダンスを始めると、周囲の人々が注目しました。
凛々しき正装のイケメン王子と、透けるガラスのドレスを纏った金髪のナイスバディー美少女。
男性貴族たちは、若い二人を称賛します。
「やあ、なんと爽やかな二人なんだろう」
「まるで、この国の未来を照らしているかのような、眩しい二人ですなあ」
娘たちは、嫉妬です。
「あの娘はだあれ?」
「王子様を、独り占めするなんて」
しかし周囲の言葉など耳に届かず、見つめ合って踊る二人は、幸せな一時を過ごすのでした。
時を忘れて、王子様の腕の中で、幸福な瞬間が過ぎてゆく少女。
そして、お城の時計が、時を告げます。
ゴーーーーーーーン…ゴーーーーーーーン…。
「ああ、時間が」
少女は、魔法使いの言葉を思い出しました。
時計台の鐘が十二回鳴り終わると、魔法は解けてしまいます。
「王子様。私はこれで、失礼いたします」
「ああ、名も知らぬ少女よ」
夢のような王子様の腕から離れると、少女は急いで階段を駆け下ります。
「どうか待ってください。せめて、あなたのお名前を」
灰かぶりという特徴以外に、特別なキャラクターのない少女は、王子に答える事が出来ません。
急いで駆けたためか、階段で転び、ガラスのドレスが脱げてしまいました。
しかし少女は、止まるわけにはゆきません。
「美しくステージの高い少女よ」
手を伸ばす王子には、夜の闇へと走り去る全裸少女の媚曲線を誇る白い肌の後ろ姿と、脱げてしまったのであろうガラスのドレスだけが、残されたのでした。
翌朝、シンデレラはいつものように、裸身に灰だけをかぶった姿で、家の仕事を押し付けられておりました。
口が裂けても美しいとは形容しがたい継母と義姉たちは、昨夜のダンスパーティーでの事を、不機嫌に話しています。
「あの娘は、いったい誰なんだい?」
「王子様の心を射止めるなんて、わたくし、悔しくてよ」
裸でかまどの灰掃除をする少女は、昨夜の夢のような一時を思い出して、幸せな気持ちでした。
お昼を過ぎた城下町が、お城からの御触れで、騒がしくなります。
「このガラスのドレスを着る事ができた娘こそ、王子の婚姻相手として相応しい」
街の娘たちはみな、我こそはと思うものの、体格的な意味とは別に、人前でこのドレスを着る事が出来ません。
欲望にまみれた二人の義姉も、恥を捨てて挑んだものの、バランスの悪いその身体は、ガラスのドレスに入りませんでした。
全ての女性がドレスを着られず、もうこの町には、あの少女はいないと、諦めかけた時です。
王子様が、裸に灰を被っただけの少女に、気が付きました。
「少女よ。このドレスを、通してみてはくれまいか」
「はい」
シンデレラが、裸の身体にガラスのドレスを纏うと、それはピッタリです。
「おお、昨夜の少女は、あなただったのですね」
喜びで微笑みが輝く王子様は、透けるガラスのドレスだけを纏った裸の少女を、胸の中に優しく抱きしめました。
こうして、金髪碧眼細マッチョなイケメン王子様と結婚した、裸に透っけ透けなガラスドレスの、シンデレ裸。
二人はいつまでも、幸せに暮らしました。
~終わり~
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