第4話 笠裸婦地蔵
ある雪国のお話です。
山の小さな家に、一組の老夫婦が住んでおりました。
年を重ね、お爺さんは畑仕事の出来ない身体となり、二人は貧しいながらも慎ましく、真面目に生活をしておりました。
年の瀬も押し詰まった頃、二人は新年を迎える餅も買えないと、困っておりました。
「ワシがこさえた笠でも、町で売って、餅を買ってこよう」
お爺さんは、手慰みで編んだ五枚の笠を担いで、町へと売りに出ました。
しかし笠はさっぱり売れず、お餅を買って帰る事は、叶いそうにありません。
暗くなってきた空には灰色の雲がたれこみ、時を待たず、雪が降ってくるでしょう。
お爺さんは商売を諦めて、お婆さんの待つ山へ、帰る事にしました。
帰りの山道で雪が降りだし、お爺さんは、雪が少ない回り道を選びます。
峠を越えたところで、お爺さんは、お地蔵様が並んでいる山道に出ました。
「おや、こんなところにお地蔵様が」
見ると、お地蔵様は七体、鎮座していて、みな裸の少女の姿をしておりました。
プロポーションに恵まれた裸婦地蔵の、頭部や巨乳や巨尻には、雪が静かに降り積もっています。
「なんとも寒そうでいけない。そうだ」
お爺さんは、裸婦地蔵の雪を丁寧に払い落し、地蔵を綺麗に磨くと、売れ残った笠を被せてゆきます。
一体、また一体と、裸婦地蔵に五枚の笠を全て被せ、六体目の裸婦地蔵には、お爺さんが使っている笠を被せます。
それでも、もう一体の裸婦地蔵には、笠がありません。
「どうか、これでご辛抱ください」
そう言うと、自分の頭に巻いていた手ぬぐいを、七体目の裸婦地蔵の頭に巻きました。
おじいさんが、雪の中を歩いて家に帰りつくと、お婆さんが粥を作って待っています。
「おかえりなさい。寒かったでしょう」
「ただいま。すまないが、笠は売れなかったよ」
暖かい粥を食べながら、お婆さんに、山中での出来事を話します。
「それは良い事をされましたね」
お婆さんは、心から温かく微笑みました。
その夜、二人が寝ていると、家の外でドサっと、重たい物が置かれるような音がしました。
「なんでしょう」
「ちょっと見てみよう」
恐る恐る戸を開けると、家の前には、お米や野菜、魚や味噌、豆や餅、更には金銀財宝など、様々な施しが置かれておりました。
「これはいったい」
「お爺さん、見てくださいな」
お婆さんに言われて、見ると、七体の裸婦が山の中へと帰ってゆく、後ろ姿がありました。
六体の裸婦は頭に笠をかぶり、一体は手ぬぐいを巻いておりました。
「あれは、お地蔵様」
「きっと、お爺さんの笠に、お礼を下さったのですよ」
二人は、裸婦地蔵に両手を合わせて、感謝しました。
お爺さんとお婆さんは、暖かく豊かな正月を過ごし、それからも幸せに暮らしましたとさ。
~終わり~
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