さみしいなにか【b】

瀞石桃子

第1話


秋の蜻蛉がバスの窓をつついている。


きみは春季大会の個人一回戦で負けてしまった。団体戦はきみ以外がみんな完勝したから二回戦に進めることになったけれど、きみの心中は無尽蔵に湧き出る悲しさと悔しさで、もう、遮二無二たまらない。


「最後のシャトルはインだったのにね」


きみが洟をすするから、前の席にいた黒髪の彼女はきみに気がついた。座席からひょこりと顔を出す彼女は、チームメイトのお姉さんだった。確か高校生で、前、家に遊びに行ったときに見かけた。車体がゴトゴトと揺れるたびに、黒馬の尻尾のような艶のある髪が左右に振れる。


「だから2セット目は本当は5-21だよ」


お姉さんは膝の上のanelloのバッグをゴソゴソと漁り、ハンカチを取り出してきみに差し出した。反射的に受け取ったきみは、それをどうしていいかわからない。


「私が以前試合中に使ってたやつ」


きみはしばしハンカチを見下ろしたあと、目配せだけで彼女に尋ねた。もらっていいんですか。


「いいよ。使って」


受け取ったきみは結局ハンカチを使わなかった。

ぐぐっと洟をすすって、もう溢れないように堪えた。


今日の夜から必死に練習をしよう。足手まといになりたくないし、かっこ悪いところを見られたくもない。

なにより男にとっては、負けた姿を同情されてしまうのがこよなく虚しい。


だから。


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