女のコは「戦っている」のです!
そして、一時限目終わりの「十分休憩」です。
登校時に「チャンス」をモノにできなかった女子たちは健気な仕草でお目当ての男子に『チョコ』を手渡しています。
「この状況でよく「勇気」あるなあ……」
千奈美ちゃんは机に突っ伏して、そうした光景に唇をとがらせて眺めていました。
「こっちの方がインパクトあったかな」
さとみ様は、初々しい女子たちを腕ぐみなされてご覧になり、おっしゃられました。
「おいおい」、『あれ以上はないだろ』という風に、千奈美ちゃんは突っ伏したまま顔を上げてつぶやきました。そして、司馬くんの方を横目で見ました。
司馬くんは、いつものように机に「顔」を「伏せて」います。
「やっぱ……寝てるのかな」、司馬くんは「十分」のあいだでも寝れる人でした。千奈美ちゃんはそのことをよく知っていた為にためらってしまうのでした。
司馬くんがきょうに限って思いのほか寝起きが悪くて、「は?」とか言われたら「爆死」してしまうかも、そう千奈美ちゃんは思ったのかもしれません。
その頃、めがねちゃんはお行儀よく席についてスマホをしていました。
二時限目終わりの「十分休憩」。
また数人の女子がお目当ての男子のもとへ『チョコ』を手渡すのでした。
ぼくには、彼女たちの背中に、『勇気』の二文字の「のぼり」が見えるようでした。さて、千奈美ちゃんはどうでしょうか。
机に突っ伏したまま一時限目終わり同様「モニタリング女子」になっていて動きはありませんでした。
司馬くんは、「寝ています」。伊達に『墓石』と呼ばれたわけではありません。
めがねちゃんは、「熱心」にスマホをやっています。
さとみ様は、めずらしく机に「顔」を「伏せて」あられました。
あんがい『チョコ』を渡すってことは疲れるのかもしれません。ノッコだって寝ているし、その他の大抵の女子も寝ていました。
もしかすると、今起きている女子というのは、千奈美ちゃんみたいに、いまだ『チョコ』を手渡せていない人なのかもしれませんでした。
そして、三時限目終わりの「十分休憩」だよー。
『チョコ』を渡せていなかった女子たちは「勝負」を決めていました。ここまでくると、「新鮮味」はだいぶ薄れてきて気に留める「男子」も「女子」もあまりいませんでした。
「もしかして……ここが「チャンス」だったか」、千奈美ちゃんは、司馬くんの方を見ました。「うう……あのバカ」
司馬くんは、やっぱりここでも「寝ている」のでした。
「いや、ここはまだステイだ……」
千奈美ちゃんは、唇を鼻の下につけた変な顔をして一人ごちるのでした。
そして結局、何の動きもないまま「お昼休憩」になってしまいました。
シルクロードを行って戻って来たさとみ様ご一行は、思い出したかのように「国境線上」で立ち止まられました。
腕ぐみをなされたさとみ様は、やはり何かの「モニュメント」のようでしたが、殆んど机と同化した司馬くんも『墓石』というメタファーを省けば、何かしらの「モニュメント」のようでした。
無言の威圧に、このまま放っておかれたら小さくなって消えてしまうのではないかというぐらい司馬くんはちぢこまりました。
「『チョコ』あげたから「卵焼き」よこせ」
さとみ様は、ずいぶん間を置かれてからおっしゃいました。アペタイザーのつもりでしょうか(スープの前の腹ごしらえ)。
やっと動くことを許された司馬くんは顔を上げました。けれども司馬くんの目線は「あべこべ」です。そして、擬音でいうなら「ぎごぎご」といった風にうなずきました。
「あたしも! もーらい」
ノッコも「卵焼き」をゲットしました。
司馬くんは、めがねちゃんの方にお弁当を向けました。
「ありがとう」
「卵焼き」をつまんでさっそく「モグモグ」頬張りました。
「……そうだ……あたしももらっといて、そのお返しに『チョコ』をあげることにすれば……」
「ん? なんか言った?」とノッコ。
「あ、いや、何も……あはは」、千奈美ちゃんも「あべこべ」になってしまいました。「あ、あたしも、もらおーっと」
「卵焼き」を素通りして「ウインナー」へと「がし」っといきました。
「あ!「メインディッシュ」」
「え!?」っとなる千奈美ちゃん。
「「ウインナー」はだめだよー」とノッコは上目づかいで言いました。
「うう」、『なんだその目は……』といった風に千奈美ちゃんはお弁当を見ました。
きょうは煮物と漬物しか入っていません。「ウインナー」はすでに口の中へ。肉汁の香ばしい風味が鼻から抜けていくのでした。
「うぇい!「グルマン!」(食いしん坊バンザイ!)」
さとみ様はそう言い残して行ってしまわれました。つづいてノッコが。そして、めがねちゃんも。
千奈美ちゃんは、口の端を「ひくひく」させて、「にゃははは……は」と笑ってごまかすのがせいいっぱいなのでした。
司馬くんは、「涙」を浮かべていました。
「……泣きそうになるな……あとで『チョコ』あげるから」
千奈美ちゃんは、「くるり」と背中を向けたあと、「とぼとぼ」歩きだして、こうべを垂れて一人つぶやくのでした。
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