魔王様へ。貴方はもうすぐ死んじゃいますけど今どんなお気持ちですか?

鶴屋

第1話 発端



 ニュースの時間です。




 第一報『魔王が天使に捕らえられました』


  ―ー政治評論家の反応『どうせいつものプロレスじゃろ』



 第二報『魔王の処刑が決定。竜族の高官より匿名を条件に確認』

 

  ――政治評論家『またいつもの飛ばしやろ』



 第三報『魔王の身柄を天界にて確認。生放送で中継します』

 

  ――政治評論家『は……?』



 第四報『魔王代行の四天王から連名で通告。殺せるものなら殺してみろ』

 第五報『熾天使の二、ミストレス・ツヴァイより公式返答。協力に感謝を』


  ――政治評論家「ガチな奴やんけ……!」




***




 聞き込みの結果を総合するに――。

 このたび、天使は本気らしい。

 処刑の理由ですか?

 つい最近、魔王による災害がありましてですね。

 恒星が三つ、惑星が三十八個、塵になったとか。文字通り損害は天文学的で、魔王は魔界の国家元首であるにも関わらず、宇宙の連合裁判所に提訴されております。

これが魔界だったのならお咎めなしだったのだろうけれども、壊したのは竜族と天使が共同統治する区域がかなりあったとかで。

 それにしても、裁判を巡って列強種の動きがおかしい。いつもとは違う。


 これまでの抗争といえば、天使vs魔族&日和見の竜族という図式。


 天使側は魔王を潰したいし、竜族は天使側の推進する有無を言わせぬ美しい規範(ポリティカル・コレクトレス)がうざったいとかで魔王とゆるい同盟を組んでいるという状況だった、わけですが。

 今回は、竜族が天使とつるんでいる。

 となれば、完全に魔族が劣勢だ。これで魔族の最高戦力である魔王が処刑されれば、次は魔族を絶滅まで秒読みだろう。


 おかげで株価は暴落するわ、戦争の気配に怯えるわで、宇宙のそこかしこが不景気まっただ中。元気なのはシェルター売ってる会社とかそっち系の物騒な銘柄ばっかり。


 現行魔王は、穏健派の圧政者とでもいおうか。ある意味では私が一番大好きなタイプであり、別の意味では吐き気をもよおすほど嫌いなタイプでもある。

 魔王は国民の人気がすこぶる高いが、合理的にイカれている。

 具体例を出すと、食糧問題。

 魔族は、人間を食う。

 低級な魔族は人肉が目当てだが、高位になると魔力の源たる魂を食う。

 彼らにとって人間は食糧だ。

 食糧は、安定供給できなければならない。

 人が米や小麦を栽培するように、魔族は人間を栽培する。


 どうやって?


 レシピがこちら。

 まず魔界に、人間だけが住む惑星を用意します。

 次に文明の発展を適度に促しつつ、放置します。

 五千年ほど待ちます。

 するとあら不思議、人間が自発的にハーバー=ボッシュ法の発明した頃を境に、爆発的に数が増えます。

 人口が百億単位になったら、刈り入れのタイミング。次の種を少量残しつつ一気に刈り入れます。その期間がだいたい、平均して五千年というわけ。

 用意する惑星の数は五千個以上が望ましい。

一年あたり惑星一つのローテーションにすれば、収穫期は毎年来る。

 実に効率的なシステムだ。文明を発達させた人類から反撃を受けるリスクに目をつぶれば、だが。

 そういえば、魔王は人間の抵抗を楽しんでいるふしがある。ただ養殖して食うだけではつまらないらしい。

 そんな外道が、処刑されるという。

 ああ、心が晴れる。死んでくれてよかった。

いやさ、まだ死んでませんがね。処刑はこれからです。これから。


「取材をせねば」


 自己紹介しよう。

 私は一介の変態である。

 魔族ではない。


 変態、と述べたのは、その自覚があるからで、どういう種類の変態かというと、性癖がゆがんでいる。

 具体的には、処刑される前の権力者を見るとゾクゾクしてくる。

 長らく権勢を振るってきた超越者が、自分の身に降りかかる絶対的な死に対してどうふるまうか――それを想像しただけで、ご飯が美味しい。

 

 わかっている。

 魔王は危険な化け物だ。

 この宇宙は“列強”と呼ばれる種族たちが統括している。短く言うと列強種。

 列強種の一が、主神である神崎恵那に率いられた天使。二に半神の神崎沙理亜を崇める竜種。三に魔王を国家元首とする魔族がそれに続く。

 魔界は大小五千個の植民惑星に及び、魔王は銀河を支配している。

 魔王は、神話に語られる存在である。

 それが十日後に、天使の手で処刑されることになった。

 死ぬ直前の独裁者。

 機嫌を損ねれば、何をされるかわからない。


 しかし。

 いや、だからこそ、会ってみたい。

 聞いてみたい。


「あなたはもうすぐ死んじゃいますけれども、いま、どんなお気持ちですか?」と


 取り乱して、激昂するだろうか?

 余裕を取りつくろって、鼻で笑うだろうか?

 家臣や家族の身を案じる殊勝さを示すのだろうか?


 知りたい。

 魔王がどういう顔をするのか、考えるだけで、イキそうになる。

 その結果、殺されることになってもかまわない。

 私は変態だ。

 筋金入りの変態だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る