130話【油断大敵】
◇
【
朝から昼までは何事もなかった王都、宿屋【福音のマリス】。
そのロビーで二人の女性が、何やら話をしていた。
「では、そのドロシーさんにお願い出来ますか?」
「かしこまりました……時間はこの時間で?」
「はい。それでお願いします」
一人はカウンターの中、緑のエプロンドレスを着た女性。
メイリン・サザーシャークだ。
もう一人はこの宿の客で、団体様の一人。
オルディア・コルドーと言う名の女性だった。
「では、時刻になりましたらお食事をお届けいたします」
メイリンは深く頭を下げ、オルディアに言う。
オルディアも
「……ふぅ」
(ホント
宿でお気に入りの
しかし、自分ではなくドロシーに頼みが言った事。
正直言えば複雑な気持ちもあるが、助かっている点もある。
「……さて、食事の用意をしないとねっ」
団体様の食事を用意するのは、唯一メイリンの仕事だ。
もしメイリンが様々な雑事を頼まれていれば、上手く立ち回る事が出来ない可能性もあった。
そう考えれば、何も不自然な事を考える事など無かったメイリンだった。
しかし。
そうは考えない者もいる。
柱の陰に入り込み、先程の二人をジッと見ていた少女。
その薄い影は、まるで存在を薄めているように。
メイリンがパタパタと
「……わざわざドロシー殿を指名する理由はなんだ……?特に用があるとき以外、あの客人たちは部屋から出てこない……それならば、別段メイリン殿でもいいはずだ。始めに対応したのがドロシー殿だったから?」
それを言われてしまえばすべて意味がない。
だから直接聞くことは出来ない。
自分に今出来る事は、
「ダメだなわたしは……一度
完全に影と一体化したサクヤは、忍術【影移動】で、そのまま影と影を移動する。
◇
パタンと閉じられた大部屋の扉。
それを確認して、客である少女はため息を
「よかった。オルディアさん……何事も無くて」
「ええ。リューネさん……」
オルディアも、「ふぅ」と息を
宿での行動は
特に、エドガーに顔を知られているリューネとレディル、エリウスは動けない。
ならば、動けるのは一般人でもあるオルディアと言う訳だ。
一応異世界人であるノインも動けるのだが、念には念を入れて大人しくしている。
「おいリューネ。だから言っただろ?
ソファーに寝そべりながら、レディルが言う。
が、リューネは。
「――レディルさんが
キーっ!と
レディルは変わらず寝そべって「けっ」とそっぽを向く。
そのまま
「……まったく。どうしてこうなんでしょ。あ……すみませんオルディアさん……」
「いえいえ……お食事は頼みましたし、後はゆっくりしましょう」
そう言ってオルディアは、眠るエリウスの
隣ではノインも、身体を丸めて眠っていた。
「……そ、そうですね……」
リューネは不安そうにしながらも、
(……なるべく
宿の主人であるエドガーは、絶賛“召喚”に向けて大忙し中だ。
本人は
ローザも忙しいのはエドガーと同じであり、特に地下にいる事が多いうえ、一番エミリアの事を心配している。
槍の“召喚”を一番に
「――あ。エリウス様……」
「えっ」
オルディアのその声に、リューネは立ち上がってベッドに向かう。
エリウスが目を覚ましたようで、
「起きれますか?」
「……ええ、平気よ」
エリウスは
リューネが持ってきた水を一口
隣で丸くなるノインの頭を
「……ノインが、
「――えっ!?」
自分の手の平をまじまじと見て、
今まで弱っていたのが
そして掛けられていた毛布を
自分の足に、ノインの尻尾が巻きついているのが目に入った。
「まさか……それで魔力を?」
「そうかも知れないわね」
(と言うよりも……魂、かしら……)
エリウスが
「……無茶をさせたようね……」
「もしかして、ノインさんはずっとエリウス様に魔力を分け与えていたのでしょうか……」
エリウスが倒れてから、ノインはずっと隣で眠っていた。
まるで主人を守る、
「リューネ。
「は、はい!」
「――起きてるっつーの」
ガバリとソファーから飛び起き、レディルは一気に立ち上がる。
「起きてたんですか……」とリューネは言う。
◇
その隣で、メイリンのサポートをするドロシーだが。
「【コールサ】のみじん切り終わりました!」
【コールサ】とは、サクラたちの世界で言う
それを、当たり前のように
「それじゃあ、次は……」
「――【コルジュ】ですねっ!!」
「……え、ええ……」
料理をする事にウッキウキのドロシーに、「
「種を取って。半分に切る……次は」
いつの間にか、ドロシーが中心になっている気もするメイリンだったが、余りのドロシーの
「ぶ、豚肉ね。
「……【コルジュの肉詰め】、わたくし大好きなんですっ!!」
「……そ、そう。今日の晩ご飯の分もあるから、皆でいただきましょうね」
パァ――っと笑顔を咲かせるドロシー。
物凄い
「
「……親友?」
「――はいっ!この――ぁっ……」
この料理【コルジュの肉詰め】は、この宿の名物であり、エドガーの母であるマリスの得意料理だった。
「ドロシーさん?どうしました……?」
「あ、いえ……」
(ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!わたくしのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
一気に、好物を目の前にしてハッピーな顔色だったドロシーの顔が、真っ青になった。
(う、浮かれ過ぎていました!!最近おかしいですっ……なんなのでしょうか、この気分……)
「何でもないです。あはは」と
メイリンはドロシーをジッと見ているが、気にしない振りをして調理に戻る。
(
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