168話【それぞれの場所で】



◇それぞれの場所で◇


 装甲車【ランデルング】、その車内。

 木箱の中に、ざつに入れられた大量の《石》。

 それをのぞき込む小さな人影があった。


 “悪魔”リザ・アスモデウス。

 自分が居ぬ間にお仕置しおきが決められているとも知らずに、リザは木箱をあさる。


「――これだけ大量の《石》があれば……!私は姿を取り戻すすべも……フフ、フフフ……フフフフフフフフっ」


 “魔王”の力になるべく、リザはたくらむ。

 それが無謀むぼうな事と分かっていても、行動せずにはいられなかった。

 リゼは異世界人でありながら《契約者》を持たない。

 フィルヴィーネやローザ達は、エドガーと言う《契約者》をて、この世界にてきした身体と能力をているらしい。

 ならば自分はと、先程の話し合いの最中さいちゅうも考えていた。


 この世界にてきしてはいない。それつまり。

 あの小娘達。サクラやサクヤよりも下、いてはこの世界の人間よりもおとるということになる。


「――待っていてください!ニイフ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 願望がんぼう切望せつぼう体現たいげんする為に、リゼは《石》を求めた。





 夜空に走る一筋ひとすじの光。

 緑色のそれは、メルティナ・アヴルスベイブだ。

 夜戦をするからと、エドガーを連れ出して薪拾まきひろいに出ていた所を。

 ローザ、そしてフィルヴィーネに呼び出されて、エドガーを置いて飛び出した。


 案外ぐ着くかとも思われたが、意外な程に戦場の距離きょりを取っていたらしく、メルティナが速度を上げても中々着くことはなかった。

 ――その理由は、紫色の月・・・・原因げんいんだった。


 紫の月は、謎の力でメルティナの高性能のセンサー全てにくるいをしょうじじさせていた。その理由も解明かいめいすることが出来なかったのもあって、メルティナはセンサー頼りの自分に苛立いらだった。

 しかし紫の月が元の月に戻ると、何ともすんなり二人のもとに辿たどり着いた。

 スタッ――とかわいた地面に着地すると、先程まで戦っていたであろうローザとフィルヴィーネが寄ってくる。

 それに対して、思わずメルティナは。


「申し訳ありません。遅くなりました……」


 謝った。別に悪いことなどしていない。

 ただ、何となくだ。

 もしかしたら、《契約者》であるエドガーの謝りぐせ影響えいきょうを受けているのかもしれない。とは言っても、エドガーも最近は謝ることが減ってきている筈なのだが。


「――別に待ってないわよ。今“魔王”も回復したところだし……ね?」


「うむ。遅くなどない、それに、紫月しづきまどわされていたのだろう?」


 理由を知っているらしいフィルヴィーネは、メルティナを見ながら説明を始めたのだが。


(しかし……どうして裸なのでしょうか……)


 もっともな疑問であった。

 フィルヴィーネは、全裸に手枷足枷てかせあしかせといった、とても“魔王”とは思えない恰好かっこうをしていた。

 ローザがフィルヴィーネに勝ったことを知らないメルティナは、非常に怪しむ目で、フィルヴィーネの説明を受ける。


紫月しづきにはな……物をくるわせる力があるのだ。魔力をもちいた道具は勿論もちろん機人マキナの民の機械、その土地の伝承でんしょうや封印……影響えいきょうを受けないものは《石》だけだ……だからメルティナよ、お前は機械をくるわせられた事で到着が遅れたのだ……あと、少しは《石》を使いこなすことを考えよ。機械にばかり頼るのではなくな」


「――イ、イエス……善処ぜんしょします」


「《石》の使い方だけを見れば、そこのロザリームは勿論もちろんのこと、あの小娘……サクラだったな。あやつもいいものを持っている。もう一人の小娘はまだまだこれからだ、メルティナは一番駄目だな」


「――!?……サ、サクヤよりも……ですか……?」


 これには中々衝撃しょうげきだったのか、メルティナの顔は引きつっていた。

 それが可笑おかしかったのか、ローザが笑い出す。


「フフっ……メルティナ、貴女あなたもそんな顔をするのね……フフフ……」


「ノー!わ、笑い事ではありません……ローザはけているから余裕を持てているだけです」


「そりゃあそうね、年季ねんきが違うわよ」


 ローザは、丸太に座り直して言う。

 フィルヴィーネは、その場に座り込んで笑う。全裸で。


「クックック……なぁに、われと戦っておれば、嫌でも覚えるであろう。善処ぜんしょせいよ?」


「……うぅ、イエス」


 こうして、《石》の取りあつかいが上手なランク付けが出来上がった。

 順にフィルヴィーネ、ローザ、サクラ、サクヤ、そしてメルティナ。

 この中に誰かがくわわった時、どう順位が変動するのか、フィルヴィーネは内心楽しみであった。





 【簡易かんいフォトンスフィア】を見ながら、サクラはイラついていた。

 こちらをドヤ顔で見てくる、サクヤに。


「……」

「……ふふん」

「……」

「……ちらっ」

「……」

「……ちらちらっ」


「あーーーー!!うっっっざいわねっ!!」


 三度のアピールに、ついに音を上げる。


「な、なんだその対応はっ!いいではないか!折角せっかく!わたしが!めて!貰った!のにぃぃっ!」


 足をダン!ダン!と、言葉に合わせて地団駄じだんだするサクヤ。

 それほど嬉しかったらしい。メルティナを上回っていたことが。


「それはいいわよっ、いくらでも喜べばいいでしょ!――でもその顔やめて!!」


「な、何がだぁ?」


「それ!その顔だってのっ!ニヘらぁってしないで!ムカつくから」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるサクヤの顔をムカつくと言うが。

 自分も同じ顔なのだ。きっと嬉しい時はそんな顔をしている筈。

 同族嫌悪どうぞくけんおだろうか。


「……むぅ……仕方のない」


 渋々しぶしぶ納得するサクヤだが、背を向けた瞬間。


「……えへ」


 背を向け合う二人だが、その心境しんきょうは真逆。

 少女の心は、複雑ふくざつだ。





 一方で、一人さびしく帰っているエドガーだが。


「……ここ、何処どこかな……?」


 紫月しづき影響えいきょうで、見事にまよっていた。


「もしかして、反対に進んだんじゃ……」


 振り返り、明かりを探す。

 戦闘の明かりを。

 分かりやすく明かりを出せる人間ローザがいるので、それを目印めじるしにしようとこころみたのだが。


「……静かだなぁ」


 ガックリと項垂うなだれて。とぼとぼと歩き始める。

 森がある訳でもなく、遮蔽物しゃへいぶつと言えば大きな岩やれた大木しかない。

 あたりは、全く変わりえしない景色けしきの連続だった。


「……《石》の反応……あ!!――戻った、戻った!やった!」


 右手の紋章がかがやきを取り戻し、エドガーは声を上げて喜ぶ。

 こんなにはしゃいでる姿、見られたら恥ずか死ぬところだ。


「はぁ……よかった、取りえず向こうだね……と、遠いんだが……」


 反応の戻った紋章のつながりを頼りに、エドガーはまきを両脇にかかえ直して、再び歩き始めた。

 ちなみに最初に言った通り、エドガーは反対方向に進んでいた。

 つまり異世界人の少女達から、遠ざかっていたのだった。

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