不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

152話【魔法】

◇魔法◇

　エドガー、そしてサクラとサクヤは、近辺（きんぺん）を見渡しながら散策（さんさく）をしていた。

　とは言っても、枯（か）れた木々、乾涸（ひから）びた川や陥没（かんぼつ）した地面しかない悲しい景色（けしき）しか目に入らず、有意義なものではないが。

　そんな荒れ果てた大地、【ルノアース荒野】を三人で歩く。

　残されたローザとフィルヴィーネは、エドガーが戻ってくるまでは戦いを始めないと約束してくれた。それを聞いて、エドガーは興味深々（きょうみしんしん）に散策（さんさく）を開始していたのだが。

「これは……骨？」

「だね……動物なのは分かるけど、何の骨かな？」

　しゃがんで、サクラと一緒に骨を見るエドガー。

　チラチラとローザとフィルヴィーネがいる方を、そしてまだメルティナが残る王都方面を交互（こうご）に見る。

「さすがに気になる？」

「え、ああ……うん。まぁね……ああは言ったけど、多分ローザとフィルヴィーネさんは、切っ掛けさえあれば、きっと直（す）ぐにでも戦いを始めちゃうと思うんだよね。それに、メルティナも大丈夫かなってさ……一人離れて、契約は……まだ大丈夫だけど」

「ああ～、そうかもね」

「そうですね」

　サクラとサクヤは頷（うなず）く。

「なんか胸騒（むなさわ）ぎ……かな？……するんだ」

「あたしも」

「わたしもです」

　三人は同意見だった。

　そしてその胸騒（むなさわ）ぎは、早速的中（てきちゅう）してしまう。

「「「……――！？」」」

　空に向かって上がる、一柱（いっちゅう）の炎。

　以前ローザが使ったものと、比較（ひかく）にならないほどの大きさだった。

【炎で覆う柱（ブレイズ・ピラー）】だったか、自身や対象（たいしょう）の周囲を覆（おお）いつくす、防御と攻撃を兼（か）ね備（そな）えた炎、だったはずだ。

　しかし、圧倒的（あっとうてき）に違うのは、その質量（しつりょう）だ。

「――な、なにあれっ！？」

「ローザの炎だ……！」

「主殿（あるじどの）……行きましょうっ！」

「あ、ああ！」

　様付けを忘れたサクヤは先行して走り出す。

　エドガーとサクラも頷（うなず）き合い。三人は、急いで炎の柱が上がった場所に向かった。

◇

　天まで届くのではないかと思わせる炎の柱は、フィルヴィーネの横を掠（かす）めて雲を掻（か）き消していった。

　空中に浮かぶフィルヴィーネを見上げながら、ローザは翳（かざ）した右手をゆっくりと下ろす。

　攻撃を受けた側のフィルヴィーネはニヤリと笑うと、ローザに言い下ろす。

「なんだ？――まだエドガーは戻ってきていないぞ……言いつけを破るのか？」

「――誰のせいよっ！コソコソとわざわざ聞こえるように挑発（ちょうはつ）してきて……乗ってあげたんじゃない」

　右手の宝石【消えない種火】は、煌々（こうこう）と輝（かがや）く。

　この異世界に来て、初めて全開（ぜんかい）の力で放たれたローザの炎。その一端（いったん）。

　フィルヴィーネは右手を顎（あご）に当てて、少し考える。

「……ふむ、それもそうだな。我（われ）も後でエドガーに詫（わ）びねばなるまい」

　どうやら、少しは自覚があるらしい。

「我（わ）が“魔王”……それならやらなければいいのではありませんか？あのエドガーと言う人間はきっと許（ゆる）すでしょうが……我々（われわれ）はこの世界に来たばかり。いざこざを起こすにしても――速すぎです」

「五月蠅（うるさ）いぞリザ……お前は身体が小さくなったのに、態度がでかくなるとは何事だ。邪魔になるからエドガーの所にでも行っているがいい！」

「――あ！ちょっと！フィルヴィーネさ……――」

　――ブンッッ！！

「――まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ！！」

　フィルヴィーネの胸の谷間に挟（はさ）まれていた“悪魔”リザは、主人に文句を言うも、指で抓（つま）まれ投げられた。

　高速で飛翔（ひしょう）し、ある方角（・・・・）に投げられたリザは、しかし何かに受け止められて止まる。

「……フィ、フィルヴィーネ様！私の扱（あつか）いが雑過（ざつす）ぎますよぉぉ！」

「――だ、大丈夫ですか？リザさん！？」

　リザが投げ飛ばされた先は、エドガーの胸だった。

　上手く受け止め切れたのか、あんなに高速で飛翔（ひしょう）してきたリザも、受け止めた側のエドガーも痛くはなさそうだった。

「お前かエドガー。よく私を止められたわね、不愉快（ふゆかい）な事だけど、私はこんなに小さいのよ？」

　自分の全身を見回しながら、エドガーの手の上で可愛（かわい）く座るリザに、エドガーの隣にいたサクヤが言う。

「おおっ、本当に生きているのですね！この小さなお方は……りざ殿、でしたか」

「え、えぇ……なによこの娘……そんなに不思議……？」

　まじまじと見てくる黒髪の少女に“悪魔”リザは少し戸惑（とまど）う。

「……《戦国時代》に“妖精（ようせい）”っていたの？」

　更に隣の少女、サクラがサクヤに言う。

「ようせい？妖怪（ようかい）ではなく？」

「だれが妖怪（ようかい）よっ！！」

　“妖精”と言う言葉に思い当たる節（ふし）は無いようだが、サクヤの時代にも似たような話は多少なりともあるのだろうか。

　リザは自分が妖怪（ようかい）と呼ばれた事に立腹（りっぷく）して、近づくサクヤの頬（ほほ）をパンチする。

　チクリと、虫に刺されたかのような痛み。いや、もはや痛くはない。

「何か？」

「んなっ……！」

　話が進まないと感じたのか、リザとサクヤのやり取りを見ながらエドガーが聞く。

「……それにしても、フィルヴィーネさんは何でリザさんを投げたんですか？」

　こんなにも勢（いきお）い良く。

　リザは、サクヤの頬（ほほ）をペチるのを止めて。

「それは……私を巻き込まない為でしょうね……フィルヴィーネ様はお優しい。それに、投げる先にエドガーがいることが分かっていたからよ」

　今も視線（しせん）の先では、宙（ちゅう）に浮かぶフィルヴィーネにローザの炎が飛んで行っていた。

　フィルヴィーネは躱（かわ）したり弾（はじ）いたりしているのだが、その弾（はじ）いた炎は地面に撒（ま）き散（ち）らされて、非常に危ない。

　ローザが加減なしで炎を使っているのが、遠めに見ても分かる。

　荒野でなければ大惨事（だいさんじ）だ。

　ローザが前に言っていた『街では使えない』の意味が、本当の意味で分かった気がする。

　フィルヴィーネはそれが分かってリザを投げ飛ばし、エドガー達が近づいて来る前に伝（つた）えたかったのだ。

　それにしても、【心通話】を使えばよかったのに。とは言わぬが花だ。

「……つまりこれ以上近づくな……ってことね。多分この辺までが、戦闘範囲（はんい）なんでしょ」

　そう言いサクラは「よいしょ」と近くの大きめの岩に登（のぼ）り、三角座りで座り込む。

　下着が見えているが。サクラは本当にたまに抜けていると言うか、無防備（むぼうび）だ。

　エドガーからは見えていないから、それを分かってしているだけかもしれないが。

「戦闘範囲（はんい）か……うん。そうなんだろうね……」

　フィルヴィーネの考えを理解していても、エドガーは心配そうに二人を見る。

　《契約者》の義務（ぎむ）と言うやつかもしれない。

「安心しなさいエドガー。我（わ）が“魔王”フィルヴィーネ様は、殺しを楽しむタイプではないわ……思慮深（しりょぶか）く、敬愛心（けいあいしん）の塊（かたまり）のようなお方よ……幾（いく）らこの世界に来たばかりの新参（しんざん）とはいえ――な、なによその目は！そんな疑（うたが）うような目をするんじゃないわよ！」

　そりゃあそうだろう。

　“魔王”と言われて、思慮深（しりょぶか）く敬愛心（けいあいしん）の塊（かたまり）？思い当たる訳がなかった。しかも、自分で《残虐（ざんぎゃく）の魔王》と銘打（めいう）っているのだから。

「……天秤（てんびん）の紋章が反応しない……ってそうか……リザさんとは契約してないから発動しないのか……」

　無意識（むいしき）に、エドガーはリザが噓（うそ）を言っていないかを【真実の天秤（ライブラ）】で確認しようとした。しかし発動はしない。

　リザは、エドガーが契約した異世界人ではない。

　フィルヴィーネに勝手についてきた、言わば無関係な異邦人（いほうじん）だ。

　ついて来る過程（かてい）で、魔力の殆（ほとん）どを削（けず）られたため、こんな姿をしているが。

　リザの“悪魔”名はアスモデウス。

　歴（れっき）とした“大悪魔”だ、しかも次代（じだい）の“魔王”候補（こうほ）でもあった。

「……フィルヴィーネ様を通じて、私もエドガーを感じることは出来るわ……私はエドガーに魔力を注（そそ）がれて助けられているし……正直言ってしまえば、目を覚ました時に、もうフィルヴィーネ様よりも強くエドガーを感じているわよ……」

　【ランデルング】の車内で目を覚ましたリザがすんなりとエドガー達に慣れたのは、構成（こうせい）された身体に巡（めぐ）っていたエドガーの魔力が、エドガーや他の人物達を他人と思わせなかったからだ。

「えっと……それはなんか、すみません」

「いや、別に責（せ）めている訳ではないわ。ただ繋（つな）がりが薄（うす）くなってしまった事が少し残念なだけよ……それに、フィルヴィーネ様にも言いつけられてしまったしね」

「言いつけ……何をです？」

「……お前達があの鉄くずの前方にまとまっていた時に、少しね。内容は秘密（ひみつ）よ……」

　可愛（かわい）らしくウインクするが、両目を瞑（つぶ）るリザ。全然出来ていない。

「……！――主様（あるじさま）っ……炎が！！」

「すっっごい……ってか、ここでも熱くない！？」

「！？」

　フィルヴィーネが浮かぶ空に、物凄い熱量（ねつりょう）の火柱（ひばしら）が襲い掛かる。

　これだけ離れたエドガー達の距離（きょり）でも、熱を感じるほどに。

「これは、今までのローザの炎と比較（ひかく）にできないくらいに……熱いっ！」

　これがローザの炎の、真の威力。

　《契約者》のエドガーに配慮（はいりょ）して使わなかった、ローザの《魔法》なのだ。