19話【恨みの吐露】
◇恨みの
【月光の森】。
【
イグナリオ・オズエスがこの場所を指定したのは、いくつかの理由がある。
一つ――廃墟があった、【
二つ――コランディルとマルスに、『石』による
三つ――もし、エドガー達が国の衛兵などに通報しても、隠れられる場所が多々ある事。
四つ――この場所には、アルベール・ロヴァルトとの
◇
――バッシャアァァァン!!
「――グッ……ゲホッ、ゲホッ!」
突然水をかけられて、アルベールは目を覚ます。
何の箱とも分からない木箱に
「よお、ロヴァルト……目ぇ覚めたか?」
「――お前……イグナリオ・オズエス、か?」
開口一番にアルベールに話しかけたのは、アルベールの予想を外れ。
コランディルではなくイグナリオだった。
アルベールの中で、
【聖騎士】に昇格ならなかったコランディルが、
そう、思っていた。
「な、なんでお前が……?」
(こいつはコランディルの護衛のはずだ。
周りをチラリと視界に入れ、イグナリオの後ろに
「どうしたロヴァルト。キョロキョロしやがって、そんなに不安かぁ?」
イグナリオはアルベールを見下しながら、余裕があるのか【
アルベールは、コランディルとマルスの様子からも、イグナリオが
「イグナリオ・オズエス……
「――はっ!何とでも言えよロヴァルト……俺は今、最っ高に機嫌がいいんだ。何を言っても許してやるぜ?」
イグナリオは、アルベールの
少しでも情報が欲しかったアルベールからしたら、
「コランディル!部下に好き勝手させていいのかよ、公爵
「……」
コランディルは無反応だ。まるで抜け
「無駄だぜロヴァルト……コイツ等はなぁ、俺の力に
「……
「ひひひっ」と笑い、上着の袖を
「見ろよコレ、最高だろぉ……!?」
「な、んだソレ……」
イグナリオの腕に、まるで寄生するかのようにびっしりと、
「【
聞いた事はない。エドガーなら知っているだろうか。
「知らないな……そんなことより、俺はお前が何でこんなことをしたのかを知りたいね」
とっさに《石》から目を離し、話を
(なんでか分らんが……
直感から、《石》の異常性に感づいたアルベールは、コランディルとマルスの様子を見て気付く。
「そうかっ――その《石》で
「――ああっ!!そうだっ、そうなんだよロヴァルト。たった一言、一言だ。目を合わせて命令するだけで、
メイリンがアルベールを襲った理由がその力だ。
気絶していたアルベールが知るところではないが。
「一つ、聞いていいか。イグナリオ・オズエス……」
「あん?なんだ……?」
座っている木箱から新しい【
どうやら
「その力を、メイリンさんにも使ったんだな……?」
メイリンがアルベールを含む知人を襲うはずなんかないと、確信しての質問だ。
「メイリン……?ああ、あの女か。くくっ……思い出しても笑えるぜあの女。ロヴァルト、お前の昇格に不正があったから話がある。って言ったら、コロッと付いてきたんだ、まぁ連れて来たのはマルスだがなっ」
【
マルスがコランディルの為にアルベールの身辺調査をしていた事は、薄々感づいていた。
が、まさかそれをイグナリオが使ってくるとは。その過程で知ったのだろう。
アルベールがメイリンに好意を抱いていることを。
口のうまいマルスならば、確かに可能だろう。
イグナリオが語った内容が全てと決まった訳ではないが、人のいいエドガーでも引っかかっていそうだ。
「そうか……それでメイリンさんはどこだ!無事なんだろうなっ!?」
「なんだロヴァルト……お前、ここにいない女の事を心配している場合じゃないんだぜ?」
「――どういう事だ……?」
「ふんっ。女は無事だろ……あの無能【召喚師】が連れてったんじゃねぇか?」
「……無能……【召喚師】っ!?」
エドガーがあの場所にいた?もしかして自分を助けに来たのだろうかと、考えが浮かぶ。
「ん?お前、あの無能と話した事覚えてねぇのかよっ……マジで笑えるぜ」
「――くっ」
(エドがあの
アルベールは力一杯に、縛られた縄を解こうとしたが、どうあがいても無理だった。
「フハハっ!!しかしもう少しだぜっ!?ロヴァルト、後
イグナリオは月を見る。
「真上……?」
【月光の森】。
ここはその一部で、【
月が真上に到達し、今アルベールがいる場所をスポットライトの様に照らす事から名付けられたらしい。
「ここ、【
「ようやくかよロヴァルト。去年の
その
「去年?」
「ロヴァルト。お前と戦ったよなぁ……ここ、【
「――なっ!?待てよっ……あんたは確か、
イグナリオは、コランディルの部下だ。
【聖騎士】の昇格を
そういう事だと言われていた。
「んな訳ねぇだろっ!【聖騎士】だぞ!この国の
この国の【聖騎士】に無様な負けは許されない。
例え学生の
しかし、貴族や王都出身の者ならばその条件は大きく緩む。
――
「お前等貴族はよぉ、負けてもいいんだろっ!ある程度のポイントを
「――なっ!それは違うっ!だったらそこのコランディルはどうなるんだっ!公爵貴族の
イグナリオは
「こいつはなぁっ!買ってたんだよ!!勝ちを。クソったれな教官どもを買収してなぁ!そうだろっ!コランディル様よぉっ!?」
コランディルの勝利は仕組まれたもの。もし事実ならば、勿論【聖騎士】には成れない。
「ああそうだ。チョロそうな教官三人を
「――マジかよっ……」
「それがバレたんだよっ、公爵
「昇格、出来なかったのか……」
コランディルは
「そうだ……父は、俺を追放するとも言った」
コランディルが下を向いて
「だから
「ばっ!――っ!!」
馬鹿じゃないのかと、言いそうになる。
「ロヴァルト。その通りだぜっ!馬鹿なんだよ、こいつはな……」
不正がバレた上に、貴族の上に立ち【四大公爵家】を束ねる父親に、それは
アルベールからは考えられない。
その腐った貴族がコランディルであった。とも取れる。
「馬鹿なコイツはな。自分のした
それが俺の【聖騎士】への道だと、宣言する。
「それには証人が必要だ!……お前の妹とあの無能でも、居ないよりはマシだからな」
アルベールは、イグナリオの発言にゾッとする。
「――そんなことしたって、エミリアもエドも……証言なんかしないぞっ!!」
するわけがない。万が一、誰かに強制されでもしない限り。
「――っ!!……お前まさかっ!」
その為の《石》だとしたら。
「ふんっ。おせえんだよ、気付くのがよぉ」
エドガーとエミリアの二人を
兄を、幼馴染の仇を
一気に【
「さぁ、もうすぐだぜロヴァルト。もうすぐ始まる!俺が【聖騎士】になる……シナリオの最終幕がなっ!!」
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