青蔦の若君と桜の落ち人

楡咲沙雨

プロローグ

エランディール創世記 世界の成り立ち

その昔、この世界に最初に降り立ったのは7柱の女神と男神だった。

作り上げた新しい世界を彩れ。と最高神ちちに言われた神々は

それぞれの力を存分に振るった。


まずは私たち。と土の男神と水の女神が土と水を作った。

地は盛り上がり、広大な地面が広がった。

水は広がり海となり、世界は4つの大陸と一つの島で出来上がった。


暖めよう。ここはまだ寒すぎる。

火の男神は 空に一つ火の岩を投げた。岩は太陽になり、光があふれた。


ならば癒しの闇を。と死と再生の男神が夜を作った。

こうして世界に昼と夜が生まれた。


暖かさを行きわたらせなくてはね

と風の女神がそっと息を吐いた。

大地に癒しの風が吹き渡った。


これならこの子たちも生きられる。

そう言って生き物の男神が自らの血を大地に落とした。

大地に沁みた血潮は、やがて様々な生き物へ変化した。


この子たちが生きる糧が必要だわね。

そう笑って植物の女神が自らの髪を切り落として風の女神の風に乗せた。

髪は世界に飛び散り、やがて大地は緑で覆われた。


これでは寂しい。と女神たちはつぶやき、自らに似た娘を様々な花から作った。

守るものが必要だ。と男神たちは笑い、やはり自らに似た男を様々な葉から作った。


うまく作り上げられた箱庭に興味を持って

やがて様々な幼き神々が訪れた。

人が進化していく過程で産まれた新しい神々たち。

彼らは人をいとおしみ、加護を与えた。


魔の神は適性を示すため、男の手に様々な色の葉と蔓を、女の胸に花と葉を刻んだ。

様々な「才能」の神々は、人ひとりひとりの努力がそのまま顕現するよう、

その蔓と花弁に力を授けた。


最後に残った女神は、この世界では最も幼い「愛」の女神。

姉神や兄神のように大きな加護は与えられない。才能として授けられない。

なぜならば、「愛」は人一人では得られぬもの。

自分とは違う存在がいて、初めて感じられるもの。


けれど兄弟神たちがつくった「人」の営みは愛おしかった。

愛を知らぬ、まだ獣とさほど変わらぬ人の営み。

けれどいつか人も進化し、才能を開かせ、愛を知る。


私は最も幼きもの。いまだ愛を知らぬものたちのためにうまれたもの。

ならば、私は愛の種を植えましょう。兄神様たちの力の標となるように。

愛こそが心を満たすと人が知るようにいたしましょう。

そう言って、幼き女神は世界に響けと高らかに歌い上げた。


― 愛おしき者たちよ 愛の心をその身に宿せ

十重にとえに二十重にはたえに繋げ 重なれ

己の愛するものを守り 慈しめ

永久の誓いに まごうことなき 誠を見せよ。


一重にひとえに八重にやえに 咲け 匂え

己を愛するものを癒せ 鼓舞せよ

永久の誓いに 心を賭けよ


己の片割れと逢いし時 誠と心を賭けし時

その者は愛と自らの最大の力を知るであろう―


その瞬間、男たちの葉と蔓がするすると成長し、

まるでいつかその輪の中に花を抱くように円を描いた。

そして様々な色へと光り輝いたかと思った瞬間、元の姿に戻った。


女たちの花も蕾から一気に花開き、それぞれの美しさを誇り

そして一瞬輝いたのち固い蕾へと戻った。


小さき女神は微笑むと、兄神たちとともに天へと帰る。

いつも見守っていますよ。愛しい子たち。


そして世界は緩やかに成長を始め、長い長い時が過ぎていった。

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