第2話

ともえ〜次なんだっけ、古典?」

「そうそう。小テストあるよ、略語のやつ」

 了解を“りょ”と言ったり“り”と言ったりややこしい上習う必要などないだろう。

「いいや、捨てる。ご飯食べよ」

 椅子を反転させて学校唯一の友達の巴の机で向かい合って昼食にして弁当を広げる。

「「いただきます」」

 今朝は意図的に寝坊をして朝ごはん抜いてきたから栄養調整された弁当だ。栄養価の高いものばかり入っているがどれも好きじゃない。豆入ってるならスプーン持ってくれば良かった。諦めて1粒1粒箸で摘み口に運ぶ。AIが持つ日本人らしらはよく分からない。箸の技術が廃れなかったのは驚きだ。

 豆類は全て黒豆に成れ。パサパサしてて美味しくない。

「そう言えば知ってる?自殺エレベーターって」


「なに、またオカルト?」

「都市伝説をオカルト扱いするなって」

 よく分からないが巴の中では都市伝説とオカルトは違うらしい。正直いってあまり興味がないのでどうでもいいのがだが。

朱里あかりが好きそうな話を持ってきたんだけどな」

 興味が無いことを百も承知で話してくるからタチが悪い。好きなことを好きなだけ語る。国がドームの内と外側で分けられる前で言うならヲタクという人種みたいだ。

「聞くから聞くから。何?」

 深層ウェブにアクセスして都市伝説の掲示板を閲覧する。勿論違法だ。まぁ現代の法律なんて、「平成」の頃の学校校則程度の効力でしかない。犯罪は行われないていで生活しているのが原因だろう。私たちにとっては有難いことだ。

「西区の保護林分かる?」

「わかる」

 自然環境の保護と過疎地域、過密地域の人口、行政格差を排除する為に意図的に日本(内側を指す)が立てた政策のひとつだ。

 既存の都市を拡大させたものを各地に作り、過疎地域の人々を移民させ、指定された都市以外に人が存在しないようにした。

 都市以外の地域の自然は人間の手が加えられないように、概念上立ち入り禁止にすることで森林を保護した。

 保護林には特に何かある訳でもないので誰も立ち入ろうとはしない。普通にしたら入れないし。現代で自然を体験したかったらVRルームに行けばそこはもう森の中だ。

 各都市郊外は保護林と隣接しており、相互に作用する物理的な壁、つまるところの結界が張ってある為、森に入る事も出来ず森から外に出ることも出来ない。

 自然が人間に、人間が自然に作用出来ない環境を作り上げた。何故かは中学の時に習った気がするが忘れた。酸素量調節とか、化学は苦手だ。

 都市間の移動はトランスポートゲートによって一瞬で可能になった。ワープ転送技術が確立されてから電車や新幹線は廃止され、都市内はリニアモーターカーと空気と水をエネルギーとするバスが都市内の移動手段になった。

 閑話休題。今はその保護林絡みの都市伝説だったか。

「その中に2世紀以上昔のデパートが残っててその中にあるエレベーターに乗ると自殺できるんだって!」

「未成年でも?」

「みたいだね」

 未成年の自殺は国が禁止している。成人でも自殺をする際には公的機関の監査の後、医療機関による自殺が一般的なやり方になる。後始末も楽だし。

 旧日本社会では自殺しようと思えば刃物を手首に当てて引くだけで死ねたというから驚きだ。

 現代は幼児教育の段階で全員が腕にAIを搭載した伸縮自在のリストバンドを付けさせられる。

 労働という概念が殆ど消えたこの社会では、納税の義務よりリストバンドの着用義務が優先されると言っても過言ではない。まぁ外そうと思っても外せないのだが。

 このリストバンドには安全装置が付いており、AIの未来予知と言っても過言ではないほどの危機管理予測能力が意図しない怪我、死亡すら避けることができる。

 訳の分からない電気信号を送られて体が勝手に動くのだ。生きてる中で何度か食らったことがあるので、17年も生きてれば慣れるが、もし1度も体験したことがない人なら相当気持ち悪いものだろう。

 もちろん自殺など出来ない。小学校入学と共にリストバンドに関する説明会が開かれる。

 リストバンドの警告を無視して自殺を図ろうとすると、瞬間的に身体に電気信号が送られ「安全に」失神する。それから医療搬送用ドローンが飛んできて病院に隔離されるという訳だ。

 年数回必ず行われるこれは、昔で言う薬物乱用防止教室のようなもので、全日本人が知っている常識として勝手に扱われる。

 このリストバンドのせいか、おかげか死ぬことは出来ない。そのため未成年で自殺ができると言うだけで都市伝説扱いになるのだ。

「それで?保護林区内の建物は消滅させられたはずじゃないの?」

「だから都市伝説なんだよ!」

 未成年自殺と残っている建造物。都市外の話でも都市伝説というのか。そんなことを言うと巴がまたうるさいから言わないが。

「どうすればそこに行けるの?」

「意外と興味ある感じかね?朱里さんや」

 それは言わずもがなというやつだ。結界を通り越して保護林に入れるのもそうだが、未成年の死望者の1人なのだから気になりもする。

「必ず1人で行かなきゃ辿り付けないないらしくて、西区に流れてる川の源流が保護区の中心にあって、取水施設の所からその川を辿ってくと1本桜の木があるらしくて、その木の大枝が伸びている方向、大体東に向かって1キロ行った所らしいよ?」

 桜ならもうあと1.2週間でホログラム桜が咲き始める頃か。もしかしたら本物の桜が見れるかも知れない。

 さっき話していたサイトと同じ情報をリストバンドを同期させて送って貰う。

「なんでこの情報こんなに不確定なの?」

「んー、これ一般投稿で投稿者が未成年で自殺出来たことになってるからだね」

 編集が責任を負わないっていう側面もありそうだが。

「んで行ったの?」

「行くわけないじゃん、都市伝説枠で内側目指すんだもん。来週認証試験だよっ!」

 もちろんそんな枠はないが、年に一度だけ日本で数人だけドームの外側から内側に行くことができる。

 生存観念を強く持ち、何か1つでも秀でた物を持つ者だけが行ける狭き門だ。娯楽だって構わない。内側には1度入ると外側に戻ってくることは出来ない。機密保持の為らしい。

 まぁ内側も、死にたい人が行くところではないということだ。

 巴とは今更ながら死生観も合わないのによく友達やっていると思う。

「おぉ、そっか、がんばれ」

「頑張る!!」

 適当にあしらったつもりが激励に変わってしまった。


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