第14話 この人達、何でこんなに危ないの?
フェリスは葬儀に出席していた。
同級生が一人、交通事故で亡くなったからだ。
否、交通事故とは嘘である。
彼女は悪魔に殺された。
姫騎士として、使命を果たす為、彼女は悪魔に立ち向かい・・・負けた。
彼女の聖剣である者の行方も解らない。
多分、今頃は悪魔に使役されているだろう。すでに死んで捨てられている可能性もある。
だが、騎士団からは救出の命令は無い。姫騎士と聖剣は元は孤児であったり、教会に全てを委ねた者達だ。神の為に殉教したのであれば、それでよしとされる。
今回、亡くなった者も殉教者として、教会には名を連ねる。
悲しい事だが、これが姫騎士になった者の務め。
フェリスは亡くなった者が生前に残していた日記を受け取る。
そこには彼女が姫騎士として、勤勉に魔物狩りをしていたことが伺われる。
彼女はとても優秀な姫騎士であった。
そんな彼女の足跡を辿り、仇である悪魔を探し出す。
多分、彼女が死んであろう場所近くに悪魔は棲んでいる。
近くを探れば、必ず、悪魔の気配を察知が出来ると思った。
「姉さん・・・こんな場所、制服姿で歩くのはまずくない?」
聖剣でもある弟が不安そうに周囲を見渡す。
そこは街の歓楽街である。校則ではこうした歓楽街に訪れてはならない事になっている。
「いいのよ。姫騎士の役目なのだから。それに悪魔はこうした堕落した街に棲むわ。ロッテを殺した奴を許さない」
姫騎士は悪魔を見分けることが出来るが、それは実際に見ないと解らない。その為、手あたり次第、歩いている人間を眺める。
ゆっくりと眺めていると、不意に他の人とは違う雰囲気を纏った少女を発見した。それはまさに悪魔の印だ。身体に纏う黒い気配。
「見付けた。結界を張る」
フェリスは人差し指と中指を立てて、唇へと運ぶ。そして、その指に言葉を投げ掛け、それを飛ばす。それが姫騎士が結界を張る仕草である。その瞬間、周囲の空気が変わる。まるで時が止まったように静寂となる。
「ほぉ・・・お前が姫騎士か?」
その中で動くのは悪魔・・・否、鬼の鈴丸だった。
「お前がロッテを殺した悪魔か?」
フェリスはすでに弟をサーベルに変え、鈴丸の前に躍り出た。
「殺した?残念だが。ここ百年は誰も殺しておらんよ」
鈴丸は笑いながら答える。
「ふざけるな・・・所詮、悪魔は滅するだけ・・・」
フェリスはサーベルを構える。
「お前、この間、可愛がってやった姫騎士だな?」
鈴丸はサーベルを構えたフェリスを見て、思い出す。
「この間の悪魔か・・・」
フェリスも思い出した。軽々と倒された相手だ。慎重になる。
「やめとけ。お前ひとりじゃ、私を倒せない。それに本当に人違いじゃ。お前の仲間を殺したのは別の鬼・・・否、悪魔じゃろ」
鈴丸は退屈そうに答える。
「そんなこと・・・知るか。お前を見逃すわけにはいかない」
フェリスはジリジリと鈴丸との距離を詰める。
「おい!おまえの友達が面倒じゃ」
鈴丸がそう呼び掛けると人波から真由と俊哉が出てきた。
「フェリスさん・・・申し訳ないけど、剣を納めて貰えるかしら?」
真由の言葉にフェリスは苛立つ。
「お前ら・・・悪魔に操られているのか?」
フェリスの問いに真由は静かに首を横に振る。
「そうじゃない。この鬼は我等を手助けすると言っている」
「はぁ?悪魔が人にだと?」
フェリスの言葉に鈴丸は笑う。
「我は鬼だ。お前らの悪魔とは違う。どちらかと言えば、我等も悪魔とは対立している。だから人を手助けしてやろうと言っている」
「信じれない」
フェリスは今にも鈴丸に襲い掛かりそうな感じだった。それをさせまいと真由が間に割って入る。
「悪いが・・・この鈴丸とは利害が一致しております。あなたに倒させるわけにはいきません」
「どきなさい・・・処女。こっちは仲間が殺されて苛立っているのです」
フェリスは怒りに満ちた瞳で真由を睨みつける。だが、真由も引かない。
「真由よ。そんな奴は片手でも勝てる。気にする必要は無いぞ」
鈴丸は涼しい顔で言い放つ。
「言ったな。悪魔。殺してやる」
フェリスは奥歯を噛み締めた。
「俊哉様!」
真由に呼ばれて、チャックを下ろしながら俊哉が真由の背後に近付く。真由は右手を俊哉の股間へと延ばす。すでにそれなりになっていた性器は真由の指先だけで大きくなった。途端、俊哉の身体が大剣となる。
「それ以上・・・やらせませんよ」
真由は大剣と化した俊哉を両手で持ち、構えた。
「大きければ良いわけじゃない!」
フェリスの鋭い突きが真由に襲い掛かる。それを大剣で受け止めた。だが、フェリスは即座に刃を引き、斬撃を与える。まるで鞭のようにしなる刃は真由に何もさせないまでに連撃を与えた。
「ほほお。鋭い太刀筋だな。おもしろい。槍の名手でもそこまでは鋭い連撃を繰り出せない」
鈴丸はおもしろそうに眺めている。その時だった。
「おい・・・お主ら・・・遊びはほどほどにしておけよ」
鈴丸は制服のブレザーの懐から何かを取り出す。それを路上駐車されていた車の影に投げ込む。
「あらっ、バレちゃった?」
投げ込まれたスローイングナイフを指で挟むように受け止めたのは黒い肌のギャルであった。
その登場に斬り合っていた二人も止まる。
「あ、あくまっ!?」
フェリスは驚いた。突然、現れたギャルは悪魔だった。
「派手な奴だな。お前・・・悪魔か?」
「あんたもでしょ?地味な感じだけど・・・」
鈴丸に問われて、嫌そうな顔で答えるのは真知子だった。
「我は鬼だ。悪いが・・・この国は我々の物だ。出ていけ」
「こっちだって、数百年。この国に居るんだから、今更、出ていけとか・・・むしろ、老骨は死に絶えなよ。邪魔なんだから」
真知子はスカートのポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、親指でブレードを出した。
「ほぉ・・・お前、私とやるつもりか?」
鈴丸もブレザーのポケットから伸縮式の特殊警棒を取り出した。
「悪魔同士で殺し合いか・・・遥か昔を思い出すな?」
真知子はナイフのブレードを舐める。それに対し、鈴丸は特殊警棒を振り下ろし、三段式のロッドを伸ばした。
「そうじゃな。悪いが・・・感傷に浸る程・・・暇じゃない」
鈴丸が一気に飛び掛かった。
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