天使は楽な仕事じゃない

滝藤氷弥

序章 『始まった理由』

自由だ。やっと自由になれた。


薄暗い森の中その事ばかり考える。


何せ自分は実験動物だと理解していた。いや、正確にはには実験魔獣か。


生まれてきた時から自由がなく解剖されたり闘わされたりと自由などなく苦しかった。


しかも自分は知能がある魔獣だから特にだった。


そんな実験魔獣の自分が森の中で自由を満喫しているのは、1人の救世主がいたからだ。


いつものように闘わされてボロボロのまま縛られていた時、突如実験施設が揺れた。それと同時に何かが破壊される音もよく聞こえた。


そのものは恐らく管理部を襲撃した。そして全ての縛りを解除してくれるプログラムを始動した。そして何百にも及ぶ魔獣を一斉に逃がした。そして自分達魔獣が四方八方に逃げている中、そのものは大声でこう叫んでいた


「逃げなさい、逃げて自由になりなさい、あなた達がこうなっている理由なんて無いのだから·····」


三日も前のことなのに今も鮮明に思い出す。


またあの救世主の事の他、自分をこうまでした天使共にも怒りが込み上げてくる。


(よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、よくもここまでコケにしてくれたな、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に許さなねぇ、いつか落ち着いたら出てきてやる。そして見えるヤツ全て食い散らかしてる、跡形もなくい散らかしてこの天界を恐怖の渦で沈めてやる。それまで力を温存しとくか。)


そんなことを思っていた時だった。


前にいつの間にか一人の天人が立っていた。


全く気づかなかった。しかしその天人は、こちらに背を向けていた。その瞬間、違和感など忘れてさっきまでの怒りが、またこみあげてきた。腹いせに食ってやる。そう思って食いかかろうとしたその瞬間その天人が振り返った。


黒髪で整った顔をした男だった。しかし魔獣がその男の顔からスライドして見ていこうとした時、服のところで体が凍りついたと錯覚したほど驚いた。それは男がコートを来ていちさたため背後からは見えなかった中に着ているもの。コートの前が開いていたためそれは、はっきり見えた。白いスーツみたいな服である。しかしそれだけなら


(ただの天使か)


くらいの感想で済む。正直実力はわからないが小天使くらいなら楽勝に勝てると思う。そう施設にいた時自分のことを話していた管理人がいた。


しかしこの男は違う。右胸に金の小さいバッチが、着いていた。これだけで意味が全然違くなってくる。

これも施設にいた時聞いたことだが、確か天使の中でも金のバッチを付けているやつは天使の中で最も上の『四大天使』···


そのまで考えたところで、突如その男が口を開いた


「これでようやく七体目か。場所もわからないってなると討伐も難しいものだ。しかもこんな体長四メートルくらいあるやつも『六角魔獣』の他にもいるなんて、こりゃしばらくゆっくり休めそうもないな。まぁ暗くなってきたしこれで最後にするか」


そう男が言った途端男からとてつもない威圧が放たれた。手足が震えている。

今までどんな魔獣と闘う時もこんなに震えることなんてなかった。脳が警鐘を鳴らしている。その恐怖心を無理やり振り払い


(ふざけんなよ、ぶっ潰す、ぶっ潰す)


と自分で自分に言い聞かせて震えている足を動かしてその男に向かって突進した。


その瞬間氷の槍が魔獣の頭を貫いた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * *



魔獣が白目を剥いて勢いのまま前倒しになる。


「一応もっと打ち込むか」


と呟いて脳天を撃ち抜かれた魔獣にさらに十本くらい氷の槍を撃ち込んだ。別に単にもっと痛めつけたいからとかではない。そっちの方が塵になる速度が早いからだ。


そもそもこの世界で魔獣とは、動物の中にある魔力が暴走した時になってしまうものだ。そのせいで魔獣は、絶命したら暴走した魔力が肉体をボロボロにする。よって、魔獣は絶命したら塵となって土に還るのである。しかし魔獣になったら力が目覚める魔獣もいる。例えば、知能が人間並になったり暴走した魔力を放出することで攻撃が出来るなど、それは様々だ。


「一回リーク塔に、行くか」


そう呟いて男-セルメント·ガブリエルは、リーク塔に向かうのだった。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * *



リーク塔は、五十階建てなのだが各フロアに出入り口がある。セルメントは、目的地の三十階から入っていった。そして、入ってすぐ左に曲がり突き当たりの小さい小部屋のドアをノックする。


「ちょっと入っていいか」


「どうぞ」


と、部屋の主は即答した。


入るとまず感じるのは、本の臭いである。この部屋の壁一面に本棚が並び、真ん中に少し大きいテーブルがあるだけの、質素な部屋である。


「もっとポスターとか貼れば?」


「生憎そういう趣味は、持ち合わせていないのでね」


「相変わらず真面目だな」


「どうも」


そこまで軽口を交わすとセルメントは、目の前の男に向き合った。青髪でモノクルをしている真面目そうな男だ。服は、セルメントと同じ白いスーツみたいなものだ。そして、その男にもセルメントと同じように右胸には、金のバッチが着いている。


「ただでさえ戦力が欲しい状況なんだ。お前もこんな本臭い場所にいねぇで前線で戦ったらどうだ?『四大天使』の一人スナプス·エルフェル君」


「まぁ今日は討伐開始、一日目だったからね。前線での情報収集と情報整理に徹底したかったのさ。明日からは前線で戦うとするよ。ところで報告は?」


「ああ、そうだった。とりあえず俺が今日討伐出来たのは、七体。そのうち二匹は、中天使くらいと互角に戦えそうなレベルはあった」


「やはり君もそう思ったか。ほかの天使たちの報告も同じようなものだった。もっとも一人で七体討伐などいなかったが」


「なぁ、魔獣を見つけるレーダーとかねぇの?」


「残念ながら、な。衛生とか使ってもあの森の木やけに高いから簡単には見つからない」


「そうか」


とここまで話したところで、スナプスが急に重々しく口を開いた。


「ちょっといいか」


「なんだよ」


「少し残念な報告が一つ」


少し間を開けてからセルメントは、


「どうぞ」


と言った。スナプスがこんな口調になる時は、いつもとても重要なことだからだ。


「君の直下兵の一人ファングが死んだ」


「---。嘘だろ」


セラメントは、信じられないものを聞いたようにその場にへたりこんだ。実際にセルメントにとって信じられないことなのだが。


「残念ながら本当だ。ファングは、運悪く『六角魔獣』に出くわしてしまった」


「それにしてもあいつの実力なら『六角魔獣』とも互角に、いやせめて撤退くらい出来たはずだ」


「私もそう思うがね。しかしファングは、運悪く『六角魔獣』のうち3体と出くわしてしまい挟み込まれてしまった」


「でもあいつならギリギリ逃げ切れるはずだ!」


「ファング一人だったらそうだったかもな。だけど彼は一人ではなく中天使一人と若い小天使三人と一緒に見回りをしていた」


「まさかあいつは、若いのを逃がすために?」


「その通りだ。しかし生きて帰って来たのは小天使一人だけだった。この話もボロボロのそいつから聞いた話だ。ファングは、逃げ道を作ろうと『六角魔獣』三体相手に必死で戦ったらしい」


「---。そうか。分かった。報告ありがとう。この仇は絶対に取ってやるからな。ファング」


そう言ってセルメントは、森の方向に向かって拳を包んだ。


「あとそれから」


しばらくそれを見ていたスナプスがまた口を開いた。


「その中天使の穴埋めにそろそろあいつを天界によんだらどうだろうか」


「---。ああ、そうだな。この機会にあいつを天界に誘ってみるか。そのために俺はずっと人間界の学校に潜伏していたからな。やっとこの時が来たか」


「では明日誘ってくれ」


「分かった。そろそろ失礼するわ」


「ではまた明日」


「ああ」


そう言ってセルメントは、スナプスに背を向けドアの向こうに行ってしまった。その時一瞬見えたセラメントのとても悲しそうな顔がスナプスの脳に焼き付いた。


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