EVA

巴菜子

第1話 人生そこそこ

 ある星のある国のある町で、空那あきなは生まれた。両親は優しく、兄妹仲もいい。人に好かれやすく、頭がよくて、運動神経もそこそこで、なんというか、いろいろなものに恵まれた子である。


 だがそんな空那でもどうしようもないことはあるもので、今、空那は抜け殻のようになっている。その原因はというと、


「優ちゃんと同じがよかったのにぃ」


「まぁ、2年間いっしょだったからねぇ。8クラスもあってここまで一緒だったのが奇跡みたいなもんだ」


 そう、クラス替えである。空那は何でもできる代わりに、いつも肝心なところで運がないのだ。給食のデザートをかけたじゃんけんには大体いつも勝つのに、大好きなプリンのときは勝ったためしがない、といったような運のなさなのだ。

 今回も、小学校で知り合った優花ゆうかと、小学4年のころからクラスが離れたことがなかったのに。義務教育最後の1年でクラスが離れてしまい、ものすごく落ち込んでいるのである。


「もうこれで、優ちゃんと修学旅行の自由観光で行動を共にするという夢は潰えたわけだ」


「じゃあ、同じ高校行こうよ。そしたらまた一緒になれるかもよ」


 そう、その手がないわけではない。だが、それができない理由がある。


「優ちゃん、学年末何位だったっけ?」


「213位でっす」


「私は22位。ね?優ちゃんが頑張ってくれるなら一緒に行きたいけどさ。親に、絶対D高以上って言われてるからさ。・・・だから今年一緒がよかったのにぃ」


 ちなみに学年全体の人数は304人である。

 このことから分かるように、優ちゃんはだいぶおバカである。というか、やる気がないらしい。彼女いわく、『人生そこそこ』がモットーだそうだ。勉強会を開いても、おしゃべりに夢中になって結局何もせずに帰るタイプである。

 まぁ、人見知りで、ちょっと面倒くさいところもある空那に、今のように根気よく付き合ってくれるあたり、いい人であるのは間違いない。だから彼女には友達が多い。

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