第26話
昨日渡された冊子に書いてあった内容の一つで、ダンジョンには種類があるということを初めて知った。
その種類というのが、常設型と限定型の二種類である。
常設型というのはいわゆる俺の庭にある【成長する迷宮】のように、一度クリアしても消えることはなく、恒久的にそのダンジョンから資源を得ることができた。
例えばダンジョン内の魔晶石も、その時に採掘し尽くしたとしても、ダンジョン内に漂う魔力が自然と結晶化し、再び採掘できるようになるのだ。
それでも普通に考えれば十年単位の年月がかかりそうなものだが、まるでゲームのように二日や三日で復活するそうだ。それだけダンジョン内は魔力が豊富ということなんだろう。
魔物に関しても魔晶石と同じで、狩りつくしたとしても時間が経てばまた増え始めるようだ。
ただ俺の庭にあるダンジョンと違う点もあり、庭のダンジョンは一度クリアした後に階層が増えていっているが、他の常設型はその階層のみで、そこから増えることはないそうだ。やはり【成長する迷宮】はその名の通り成長し、特別なんだろう。
ただ、一度クリアできたからと言って、油断はできない。
【成長する迷宮】は俺が管理者ということで、そのダンジョン内の魔物の数まで制御でき、外に溢れ出ることはないが、他の常設型は、あまり放置しすぎて内部の魔物が増えると、ダンジョンハザード……渋谷で起こった事件の様に、ダンジョンから魔物が溢れ出てきてしまうそうだ。
……本当に俺に管理者としての能力が手に入ってよかったよ。なければ安心して寝られないし。
ちなみにその管理については、外に魔物が溢れ出ないように設定するほかは基本そのままである。変に弄って大変な目に遭うのも嫌だしな。
この常設型は、基本的に冒険者協会で管理されている。
というのも、もらった冊子にも書かれていたが、いずれ冒険者を増やすための一手として、ダンジョンのツアーを計画しているらしく、危険度の低い常設型ダンジョンはまさにうってつけだそうだ。
まあそれ以外にも、ギルドに所属していない冒険者たちの生活の糧となるように、ランクごとの管理しているダンジョンを開放していたりする。
他にも、大型ギルドも常設型をいくつか所有しており、新人冒険者の育成に使うらしい。
そして、最後の限定型というのは、これもその名の通り、限定的なダンジョンを指している。
というのも、一度クリアすると限定型は消滅してしまうのだ。
そのため、長期的な利益が得られることこそないが、そこに生息する魔物や宝箱なんかから手に入る素材、アイテムは常設型に比べ、とても貴重らしい。
その代わり、限定型のダンジョン内に現れる魔物は、常設型より強力である場合が多いそうだが、それでも一攫千金を狙えるのはこの限定型だそうだ。
そんな二種類のダンジョンだが、今までダンジョンの発見者に所有権が与えられ、それを買い取るという仕組みをとっていたが、今は発見者は発見したダンジョンの報告の義務と、情報提供代の支払いのみで、所有権などは与えられない方向に話が進んでいるらしい。
それは、政府が開発したとある機械が関係していた。
その機械は、何とダンジョンの出現の予兆を察知し、その場所を特定できるそうだ。詳しい理論は俺にはまったく分からないが、何でもダンジョンが発生する直前に魔力の揺らぎとやらが観測できるんだと。
こうした機械の登場により、そのダンジョンの発見情報の価値が非常に落ちたのだ。
政府としても、ダンジョンは冒険者協会で一括に管理し、それを多くのギルドに競売にかけたりする方が儲けられるだろうし、危険も減る。
ただ、懸念点も存在する。
それは俺のようなダンジョンを秘匿する存在だ。
……もう自分がやってることなので、懸念もクソもないんだが、どうやらその機械が発明される以前に発生したダンジョンについては、探すことができないらしい。
何故ならそのダンジョンはすでに発生し、日本に定着してしまっているため、観測に必要な魔力の揺らぎがないからだ。だからこそ、俺の庭のダンジョンも見つかる心配はない。
まあそんなに多くの人間が秘匿するようなことはないとは思うが、こればかりは仕方がないだろう。
だからこそ、手に入れた素材などは売り払う際、どこのダンジョンで手に入れたのかを報告する義務があるようだ。
……これ、俺の手持ちのアイテムを売ろうとするなら、ゴブリンやスライムが出現する他のダンジョンに挑戦しないといけないってことだよなぁ。面倒くさい。
ともかく、政府としては、早くこの方向に話を進めたいそうだ。これは本当にすぐにでもまた新たな法律として制定されそうだなぁ。
他の部分も読み終えた俺は、冊子を閉じた。
こんな感じでダンジョンの他にも、俺が知らないような情報や法律についてなども詳しく記載されていたので、この冊子は大切に保管しておこう。
「それにしても……どうするかねぇ。まだ五階層は解放されてないし、何なら手持ちのアイテムも現状売り払えない……」
俺はスマホを取り出し、ホームページを開くと、E級冒険者が挑戦できるダンジョンを調べてみた。
「やっぱりE級は数が少ないんだなぁ。それに、冒険者協会が管理してるE級ダンジョンはうま味が少ないようだし……」
そう言いながら、俺はホームページの他に、SNSを開き、そこからE級ダンジョンと検索をかけていた。
今の時代、SNSという便利なものがあるので、ネット上には冒険者の方々がそのダンジョンごとの様子や評価などを上げていることもあった。
中には、それこそゲームの攻略サイトのように、冒険者協会で管理されているダンジョンごとの効率なんかを公開しているサイトまである。
「すごい時代になったもんだ。少し前までは動画投稿者が芸能人並みにSNSで知名度を得たと思ったら、今は一気に冒険者たちのアカウントがフォローされまくってんだもんなぁ」
何ならSNSで、芸能人よりフォロワーの多い動画投稿者なんてざらにいたが、今はその動画投稿者を抜いて冒険者やギルドのアカウント登録者数が一番である。
中には冒険者と動画投稿を両立し、ダンジョンを攻略している様子を配信している人まで現れ始めたのだ。その人たちはまた、冒険者としてだけでなく、動画投稿者としても人気である。
俺はスマホの画面から顔を離すと、天井を向いた。
「手に入るアイテムがいい場所は、基本的にランクが高いし、何ならギルドが独占している。そこに行くためには俺の冒険者ランクを上げなきゃいけないわけだけど……」
そう言いつつ、俺は冊子に書かれていた冒険者のランク制度について思い出していた。
この冒険者のランクだが、何とその人のレベルが冒険者のランクになるらしい。
今のところレベル2~レベル15までがEランク。16~20がD、21~49がCランクだそうだ。
じゃあBランク以上はどう決めるのか、と言うと、何かしらの実績だったり、冒険者協会の出す依頼を達成したり、本当に色々らしい。
A級やS級なんて、それこそ今のところ海外のダンジョンでガンガンに活躍している人たちくらいだろう。レベルも当然高いんだろうなぁ。
「レベルの部分だけ、【隠匿】スキルで情報を元の状態に戻してもいいんだけど、もうレベル2で登録しちゃったから、あんまりレベルが上がるのが速いと目を付けられそうだしな。難しいところだ……」
俺の考えすぎで、実際誰一人として俺なんて眼中にない可能性も十分あるが。え、待って、俺めっちゃ痛いヤツじゃん。……今さらか。
「仕方ない。他のダンジョンも確認するって意味で、いっちょ近くのE級ダンジョンに挑戦してみますかー」
俺は伸びをしながら今日の予定を決めた。
ただし、誰かに見られても困るので、ソウガたちは俺の体内に帰還させ、一人で挑むことにする。
「そう考えると、E級ダンジョンはちょうどいいかもな」
そう決めるや否や、俺は早速ダンジョンに向かう準備を始めるのだった。
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